第2回:業務と情報システムを最適化するアプローチ (2/3)

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第2回:業務と情報システムを最適化するアプローチ
監修者:野村総合研究所  淀川 高喜   2005/11/17
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システム構造最適化へのアプローチ

   システム構造の全体最適化の方法を考え、将来の方向性を定めたものがITグランドデザインである。ITグランドデザインを策定する目的には、次のようなものがあげられる。
1.システム全体像の把握
ITが事業に与える影響が大きくなるにつれ、経営者自身やCIOが「自社システムの現状はどのようになっているか」、あるいは「今後どうあるべきか」を把握・認識しておく必要が高まってきている。このため、「業務とシステムがどのように関連しているのか」「ビジネス戦略の変化にシステムが追いつけているのか」「いつどのくらいのシステム投資が必要となるのか」などは経営者にとって非常に重要な情報となっている。このような情報を経営者やCIOが理解でき、適切な判断が行えるようにして整理しておかなければならない。
2.ITに関する社内合意形成
システムは業務遂行を支援する道具であり、基盤となるものである。このため、「業務にとって必要なシステムとは何か」「この業務はシステムではどのように実現されているのか」などについて経営者・事業部門とIT部門との間で共通認識を持つ必要がある。したがって、関係者が同じ土俵で議論や合意形成を行うための手段を用意しておかなくてはならない。
3.IT部門における知識共有・知識継承
システムの巨大化に伴う担当の縦割り化、長期にわたる担当者の固定によるシステムノウハウの属人化、世代交代に伴う知識の喪失、子会社化・アウトソースによるノウハウの空洞化など、IT部門が抱える知識共有にからんだ問題は多い。このような状況を打破するために分断されている知識を集約し、次の世代に継承していく方策を考えなければならない。
4.中期的なシステム更改計画の指針
システム構造の全体最適化を実現するためには、システム更改という形で大規模システム開発を伴うことが多い。次のシステム更改に備えて、早い段階から計画策定のための基礎情報として、社内事情や外部環境などの情報収集や経営戦略レベルでの方針検討を行っておくことが望ましい。
5.IT基盤の観点からの生産性・品質向上策
メインフレームからCSS、さらにWebシステムというように、システム構築の時期とともに採用技術やシステム構造が変遷してきた。その結果、社内で多種多様なシステム環境が存在し、必要なデータや業務システムが分散(あるいは重複)するといった状況が多くの企業で見られる。そこで、システム環境の統一化やデータ・IT基盤の再統合、再標準化といった施策が必要となる。

表1:ITグランドデザインを策定する目的

   これら5つの目的に対してシステム構造の全体最適化を検討する方法には、次の3つのアプローチがある(図2)。

システム構造最適化へのアプローチ
図2:システム構造最適化へのアプローチ
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

A.可視化アプローチ
IT部門だけではなく、経営者、CIO、事業部門がビジネスと結びつけた形でシステムの全体像を的確に把握できるような情報を整理するアプローチである。自社システムの全貌を鳥瞰(ちょうかん)し、直感的に理解できるように図表を用いて視覚的に表現して将来のシステム構想検討のベースとする。これは、システムのWHY(目的)、WHAT(範囲)、HOW(手段)をそれぞれ1枚の絵にして示す概念レベルの検討方法である。
B.全体設計アプローチ
システム構造の全体最適化を目指して、システムの再設計・再開発まで見据えたアプローチである。具体的な作業としては、「システムの現状評価」「課題の抽出」「解決策の検討」「IT基盤の方針策定」「全体方式設計」などを実施し、システム運営全体の適正化や全面的なシステム更改につなげていく抜本的な検討方法である。
C.IT基盤標準化アプローチ
IT資産の有効活用およびIT基盤の観点での生産性・品質向上を目指して、利用技術、製品、処理方式などIT基盤の標準化を推進するアプローチである。IT基盤の全体方針を明確にし、システム構築の際に標準として適用していく実務的な検討方法である。

表2:システム構造最適化へのアプローチ

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株式会社野村総合研究所 淀川 高喜
監修者プロフィール
株式会社野村総合研究所  淀川 高喜
プロセス・ITマネジメント研究室長 兼 金融ITマネジメントコンサルティング部長。国家試験 情報処理技術者試験 試験委員会 委員。1979年野村総合研究所入社。生損保、銀行、公共、運輸、流通、製造業などあらゆる分野における幅広いシステムコンサルティングに携わる。専門は情報技術による企業革新コンサルテーション、情報システム部門運営革新コンサルテーションなど。


INDEX
第2回:業務と情報システムを最適化するアプローチ
  トップダウン・アプローチでのIT戦略マップの活用
システム構造最適化へのアプローチ
  全体設計アプローチの検討の流れ

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