ERP導入の失敗とは何か、成功のためには何をすべきか
ERP導入の失敗とは何か
前述した「ERP導入リーダーを目指す人のための実践ガイド」では、ERPの導入に失敗した理由として以下の5点をあげている。
- 業務改革ができない
- 経営改革ができない
- 開発期間が延びてコストが高い
- 導入後の維持・保守のコストが高い
- ERPパッケージのバージョンアップに追従できない
業務改革ができない
「業務改革ができない」例として、今までのプロセスを尊重したり内部ユーザの強い抵抗により、既存のプロセスをそのまま継続してしまうことがあげら れる。ERPの導入は業務の効率化やスピードアップ、コスト低減などを目的とした業務改革を目指しているために、このような場合では効果がでないことになる。
筆者がERPの導入先進企業を訪問したり数多くの事例に接してきた中で、現在の業務プロセスをかたくなに守ろうとしたためにERPを導入したが、まったく効果がでていないということである。
つまりERPを導入する際に一番重要な点は、「業務改革なくしてERP導入の成功なし」と考える。
ERPの導入やITの導入は経営トップの全面的な支援なくして成功しない。松下電器の中村社長は「IT改革なしで、経営改革なし」と提唱して、旧来 の松下電器の業務を「破壊と創造」というスローガンのもと、抜本的な改革を行っている。中堅企業といえども、中村社長のようなトップの強力なリーダーシッ プが必要であるといえるだろう。
経営改革ができない
「経営改革ができない」理由として、ERPで処理されるリアルタイムのビジネスのデータをうまく活用することなく、今までどおりの経営のやり方を継 続していることがあげられる。その場合、せっかく導入した高価なERPシステムが経営面で活かされていないといえる。
最近のERP研究推進フォーラムでの調査では、ERPとDWH(Data WareHouse)との連携、さらにはBIなどの分析系のシステムとの連携の動きが見えている。多くの企業においてERPで処理されるリアルタイムデー タをBIなどを活用して、日々の営業分析や経営分析に活用しはじめている傾向が見られる。
開発期間が延びて、コストが高い
「開発期間が延びて、コストが高い」に関しては、BPRを行わずに業務の流れを見直さない導入やカスタマイズが多い導入事例に見られる。ERPは企 業活動にかかわるすべての人を対象とするため、システム導入により影響を受ける関係者は多い。ERPを導入する際のプロジェクトマネージャーは、本来の目 的に添って妥協することなくプロジェクトを遂行することが求められる。
この問題を解決する方法としては、経営者自らERPの導入に対して責任を持つことと、ERP導入に関する社長の権限をすべて委譲した責任者を選任し てその任にあたらせることが重要である。ある中堅企業でのERP導入では、権限を委譲されたCIOがERP導入の全責任と権限を持って実行して、予定の期 間と初期の開発コストで導入を成功した事例を聞いている。
導入後の維持・保守のコストが高い
「導入後の維持・保守のコストが高い」点であるが、導入する際に導入のことばかりに目が行ってしまい、導入後の維持コストなどへの注意がおろそかに なる面がある。ERPに限らずにいえることだが、システムはライフサイクル、つまりERPシステムの選定・導入・活用・保守管理・変更または停止までの全 ライフサイクルを視野にいれて、導入選定をすべきである。
ERP研究推進フォーラムが行った2005年の調査では、ERPのリプレースが約15%も発生していた。変更予定を含めると30%もの企業が変更を考えていたという結果であった。
この変更は中堅企業などの比較的規模の小さい企業においてその傾向が顕著である。その理由としては、図2に示すように維持・保守費用を含む運用経費がトップにあげられている。
バージョンアップに伴う投資額
図2に示すように、バージョンアップに伴う投資額がERP変更の第2番目の理由としてあげられている。先ほども述べたがアドオンなどが多いときには、このバージョンアップの問題が後々発生してくることをこのアンケート結果が裏付けているといえる。