レッドハット、API管理ソリューションの3scaleの日本展開を発表
レッドハット株式会社は、米国Red Hatが2016年6月に買収を発表した3scaleの日本展開に関する記者発表会を行った。その内容は、3scaleの創業者にして買収後はRed HatにてAPI管理の責任者を務めるSteven Willmott氏が来日して、解説を行うというものだった。
API管理はメインフレームの頃から存在したアプリケーション管理ソリューションの一つだが、昨今のWebベースのアプリケーション台頭にともなった進化を遂げている。最新のAPI管理ソリューションは、従来の社内のアプリケーションやデータベースだけではなく、Google Mapsなどの外部のサービスと連携する際に有効なトラフィックの制御やキャッシングなど、より高度な機能を備えてきている。
特にアプリケーションがマイクロサービスとして細分化されることで、耐障害性とスケールアウトする機能を持った時にどのユーザーからのアクセスを最優先するのか、いかにセキュリティを担保するのか、どうやって高速化を実現するのかなどの課題について、アプリケーション本体に組み込むよりもAPIのレイヤーに実装することで開発を迅速に進められる。
Red Hatが3scaleの買収を発表したのは2016年6月、別のAPI管理ベンダーであるApigeeをGoogleが買収したのも2016年11月、ということでAPI管理ベンダーはより大きなITベンダーに吸収されることで、パブリッククラウドなどのサービスとの連携を深めるという方向に向かうことを示しているようだ。一方ベンチャーでは、Mashapeのように未だに独立を貫いているベンダーもあるが、より大きなポートフォリオの中に組み込まれることでシナジーを目指すということだろう。
Mashapeについては、こちらの記事を参照されたい。API管理のベンチャーMashapeが日本市場参入を表明
今回は、3scaleの創業者でRed Hatによる買収後にSenior Director, Head of API Infrastructureというポジションに就いたSteven Willmott氏がRed Hat 3scaleのオーバービューを行い、その後に日本法人であるレッドハット株式会社のプロダクト・ソリューション本部長である岡下浩明氏が、日本市場への展開について説明を行うというものだった。
まずWillmott氏が強調したのは、Red HatのミドルウェアであるJBossとの統合についてのビジョンだ。Willmott氏は、モダンなITが必要とする機能として「分散されたコンポーネントとの統合機能」、「コンテナをベースにしたマイクロサービス化」そして「API化されたエンドポイントの管理」があると指摘する。つまりスケーラブルで柔軟なアプリケーションを実装するためには、アプリケーション自体がコンテナでマイクロサービス化され、それぞれの接続ポイントをAPI管理のレイヤーをかぶせることで容易に管理を行えることだと説明した。
そしてそれを行うために、Red HatのミドルウェアであるJBoss、そしてコンテナプラットフォームであるOpenShiftとの連携を進めているという。アーキテクチャー的には、nginxで実装されたAPI GatewayがDockerコンテナとして実行され、コントロールパネルに相当するManagement ServerがAWS上に実装されているという。つまり3scaleを導入する企業は、API Gatewayはオンプレミスのソフトウェアとして自社データセンターに実装し、それをAWSからコントロールするということになる。Willmott氏は近い将来の計画として、全てのコンポーネントをオンプレミスで実行できるようにすると解説した。
次に登壇した岡下氏は、日本市場での展開として2017年1月27日から販売を開始すると説明した。販売について最小構成が5 API、100万コール/日で468万円/年間(税別)となり、それ以上の実装については見積りが必要となる。そして他のRed Hat製品と同様に、チャネルなどのパートナー販売がメインになるという。初年度の販売目標は20社、金額で1億円を見込んでいる。
Red Hat製品のサブスクリプション価格はCPUのソケット数やサポートの内容によって変わるが、3scaleに関しては利用するAPIの数とAPIをコールする回数によって価格が設定されるようだ。つまりAPI管理については従量課金ということになる。この点についてWillmott氏に質問を行ったところ、API数及びコール数が増えれば金額自体は増えるものの単価ベースでは低くなり、競合と比べても安価になるという。
また他のRed Hat製品と同様に、コミュニティが開発を進めるUpstreamバージョンと安定化を図ったEnterpriseバージョンを作るのか? という質問に対しては、それを行う予定であるという回答を得た。この夏以降に、現在AWSで稼働しているManagement Serverをオンプレミスで動かせるようにした上で、2つのバージョンにするという流れだろう。
同業他社のMashapeが管理者の数で課金することで、「APIがどれだけ使われるのか事前に想定することが難しく、予算取りが困難である」というユーザーの課題に対応していることについて意見を求めたところ、Red Hatの大手ユーザーなどでは管理者数で課金すると逆にコストが上がってしまうだろうという回答が得られ、管理者数での課金については否定的な見解を示した。
初年度の販売目標が「20ユーザー、1億円」ということは、最小構成の約500万円のケースを20社に販売するという想定なのだろう。つまり、今回の構成はあくまでもパイロット的に利用するもので、実際のプロダクション環境では夏以降に出てくるオンプレミスバージョン、つまりAWSへの依存がなくなり、完全にオープンソースソフトウェアとして登場するエンタープライズバージョンが出てきてからという想定のようだ。現時点のオンプレミスとAWSのハイブリッドでは、ユースケースによっては難を示す企業もあるだろう。また分析機能の提供も下半期以降と言う予定だ。初年度は、あくまでもパイロットユーザーを狙う計画のように感じられた。
この辺りのより具体的な製品計画は、5月に予定されているRed Hat Summitで明らかになると思われる。その時点で、より詳細なレポートを行いたい。
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