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  インタビュー

API管理を手がけるMashapeのCEO「来年には日本法人を立ち上げる」と語る

2017年4月26日(水)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
サンフランシスコで起業されたOSSベースのAPI管理ソリューションのMashape、CEOがインタビューに答え最新バージョン、チャレンジなどについて語った。

モダンなアプリケーションがさまざまなマイクロサービスやWebサービス、例えばGoogle Mapなどと連携する際に、アクセス管理やロギングなどを行うのが「API管理」と呼ばれる機能だ。すでに大手のベンダーは、買収などを経てこの機能を実装している。例えばGoogleはApigeeを、MicrosoftはApiphanyをそれぞれ買収したし、AWSも自社開発のAPI Gatewayを持っている。他にもIBM、CA TechnologiesなどがAPI管理ソリューションを持っている中で、独立系として小さいながらも存在感を示しているのが、2016年からAPI管理ソフトウェアを出荷しているMashape(マシェプ)だ。以前、ThinkITではMashapeのCTOであるマルコ・パラディーノ氏にインタビューを行った。

API管理のベンチャーMashapeが日本市場参入を表明

今回は、創業者兼CEOであるアウグスト・マリエッティ氏が来日。ThinkITのインタビューに答えた。Mashapeの今後、競合との比較、そして直面しているチャレンジなどについて話を伺った。

自己紹介をお願いします。

私はイタリア、ローマの出身でミラノの大学で経済を勉強している時にMashapeを創業しました。21歳の時ですね。その当時はイタリアにいたのですが、インターネットを使ってサンフランシスコでMashapeをアメリカの会社として起こしました。その後アメリカに移住して、投資を募ったのです。それから2015年にAPI管理のソフトウェアをオープンソース化しました。それがKongです。今年の夏にブランディングを変えようと思っていますので、Mashapeという会社名もKongというブランドになる予定です。

Mashape CEOのアウグスト・マリエッティ氏

Mashape CEOのアウグスト・マリエッティ氏

Kongの特徴を教えてください。

API管理のソフトウェアとしては、完全にオープンソースであること、そして、とてもシンプルで使いやすいことですね。従来のAPI管理ソフトウェアがモノリシックで、一つのアプリケーションでモバイルやWebサービスへのアクセスなどをすべて包括していたのとは違い、Kongはそれ自体がマイクロサービスとして稼働します。そのため、軽量で分散できるのです。我々は当初、APIマーケットプレイスを先にやろうと思っていましたが、途中で方向を変えてAPI管理のソフトウェアを作る方向にピボットしました。なぜかと言うと、単に自分が必要とするAPIを探すだけであればGoogleで検索すれば済んでしまうし、それを購入するためにお金を払うという人が少なかったからです。そしてAPI管理ゲートウェイのソフトウェアを、オープンソースソフトウェアとして公開することにしました。その中のコンポ?ネントもオープンソースでできています。すべての製品がオープンソースソフトウェアではなく、エンタープライズ向けの製品も作っていますので、そこにはプラグインという形で有償のサードパーティの製品も追加することができますし、サポートも提供します。そこで価値を追加しているのです。

今回の来日の目的は?

今回は、顧客とのミーティングと市場調査といったところです。私が日本に来るのはこれで2回目なのですが、前回よりも期待が大きくなっていることを感じます。今回、非常に多くの顧客とのミーティングを行いましたが、大企業からさまざまな要望や期待を聞きました。アメリカではアンドリーセンホロヴィッツが我々に投資をしてくれているのですが、そこからも日本での潜在顧客について多くの情報を貰っていますし、日本市場に対する期待は大きいのです。私は、OracleやSalesforceが日本で立ち上がった時の経験を知っています。それにならって最初にユーザーを獲得して、そこから徐々に大きくしていくという計画です。ですので、いますぐに日本に拠点を作ることはないにしても近々、できれば来年には拠点を作りたいと思います。IPOはその後ですね。

他の競合との違いを教えてください。

他社との違いはそのアーキテクチャーにあると思います。

Kongのアーキテクチャー

Kongのアーキテクチャー

これまでのAPI管理は主にモノリシックな構造で、モバイルも他のサービスも一つの大きなアプリケーションからアクセスをしていましたが、KongはNGINXをベースとした軽量なアプリケーションです。かつてアプリケーション同士を繋ぐEnterprise Service Busというソリューションがありましたが、KongはそれのAPI版といったところだと思います。

前回のCTOのパラディーノ氏へのインタビューで、課金モデルが利用したコール数などではなく管理者の数ということを教えてもらいましたが、それは今後も変わりませんか?

いまのKongは、オンプレミスのソフトウェアとしてお客様のデータセンターに導入するものですが、コール数ではなく管理者の数ということに関しては変わりません。すでに導入したお客様には、そのシンプルさが喜ばれています。しかしパブリッククラウドベースのサービスとして使う場合はクラウド側のコストが発生しますので、どうしても従量課金ということにならざるを得ません。

またCPUのコア数などで課金すると言う方法もありますが、実際のところKongは非常に軽量で、1台のサーバーで何百万ものコールを処理できてしまうので、処理量が多くなったとは言ってもすぐに複数台のサーバーを必要とするかといえばそうではないのです。ですから、繋ぐアプリケーションやAPIが増えたとしても、売り上げがリニアに伸びるわけではないんですね。そして個人的には、CPUに課金するのはちょっと古くさいと思います(笑)。そこで今後は、クラウドベースのサービスとして提供する場合は他社と同様の従量課金という方法になると思います。

もう一つは「機能について課金する」という発想です。新しい機能ができたら、それを追加することで課金するということですね。一つのアイデアとしてマシンラーニングを追加してスマートAPIゲートウェイを作るという計画があります。これはEnterprise版に追加していく予定です。

最新のバージョンについて教えてください。

最近リリースしたメジャーバージョンはKong 0.10になりますが、これにはダイナミックロードバランシングやAWS Lambdaのプラグインなど大きな機能強化がされています。すでに公開から1週間で1万以上のダウンロードが行われていますので、これまでで最も速く利用が拡がっていると言えますね。

AWSのLambdaへのプラグインということですが、他のパブリッククラウド、例えばGCPやAzureについては?

それは順次追加していくことになると思いますが、まずはAWSからですね。我々の見方では最優先がAWS、次にAzure、Google Cloud Platform、その次がAlibaba Cloudかなと思っています。

いま話に出たAlibaba Cloudは中国市場向けだと思いますが、中国でビジネスを展開する予定は?

実際には中国でビジネスをするのは非常に難しいと思っています。どうも中国では、ソフトウェアにお金を払うという常識が通じないようなので。我々のオープンソース版のKongに関しても、そのまますべてコピーをして名前だけ書き換えたソフトウェアが中国には存在していますし(苦笑)。

最後にMashapeにとってのチャレンジはなんですか?

いまは、優秀な人を雇うことですね。サンフランシスコでは、エンジニアを雇うのが非常に難しくなってきています。我々はこの3月にアンドリーセンホロヴィッツからシリーズBとして$18M(日本円で約20億円)の投資を受けましたが、それをうまく活用して組織を拡大したいと考えています。なので、雇用がMashapeにとって最大のチャレンジです。そして私個人としては、イタリアが恋しいです。できればイタリアに戻りたいのですが、イタリアでITビジネスをやるには条件が悪すぎます。なんと言っても最大のIT企業がオリベッティなんですから(苦笑)。

今回の来日では、日本での最大の顧客である楽天との打ち合わせも非常にスムーズに進んだというCEOのマリエッティ氏であった。多くの潜在顧客とも打ち合わせを行ったようで、今年後半の成長が期待される。願わくば大手IT企業に買収されずに独立のままで生き残って欲しい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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