話し方(声の大きさ、トーン、速さ)を相手に合わせる
はじめに
前回まで、いろいろな声かけの方法などを紹介してきましたが、皆さんは実際に声かけするときの声の大きさやトーン、話す速度を意識して使い分けていますか?
雑談では、その内容もさることながら、その“話し方”も重要です。俳優さんや女優さんのような“演技”ではありませんが、TPOに合わせて使い分ける必要があります。今回は、そのあたりの重要性について考えてみましょう。
私の失敗談
今回は特別に、私の失敗談をお話しします。恥ずかしいなあ(笑)。ある餃子で有名な……地方都市で行われた講演会でのことです。
講演会では、最初に会場の空気を暖めて盛り上げる準備をしなければなりません。そのため、講演会でも“雑談(フリートーク)”から入ります。講演会においても雑談は重要なんですよね。
私の場合は、その会場の空気を読むために、まず挨拶から入ります。「皆さん、こんにちは!」という感じで。
それに対して「こんにちは!」と元気な声が返ってくれば良いのですが、小さな声だったりするともう1回同じ挨拶をします。この時に意識するのは、さっきよりももっと大きな声で「皆さん」と呼びかけた後に一拍入れて、言い方を多少変えて「こんにちは!!」と呼びかることです。
そうすると、多くの場合で1回目よりも大きな声で「こんにちは!」と返ってきます。
そして、ここから腕の見せどころ、フリートークです。私はいつも、あらかじめ講演会が行われる街のネタを調べておいて、皆さんにとって身近な話から入ります。
その日の講演会は、大型ショッピングセンターの関係者の皆さんにお越しいただき、午前と午後の2回に分けて同じ講演を行いました。1回の人数はどちらも50人位でした。
1回目は、会場の近くにいる珍しい動物の話をしたらドッカーンとウケて、大きな笑いを取ることができました。会場の空気も一気に暖まり、とても楽しく1回目の講演会を終えることができました。
さあ、お昼ご飯を食べて2回目の講演です。来ていただいた方の人数や年齢層、男女比は1回目とほぼ同じでした。そして講演スタート! “つかみ”はもちろん、1回目に大ウケした珍しい動物の話です。
ここでも笑いがドッカーン!……と思いきや、シーン。全くウケなかったのです。私は「えっ!?」と思いましたが、「なんでウケなかったのか」など考えている暇はありません。早速本題に入り、徐々に空気とテンポをつかみ……無事に講演会は終了しました。
原因はどこに?
私は、帰りの新幹線の中で「同じ客層に同じ話をして、どうして2回目は受けなかったのだろう」と考えます。1人失敗学の始まりです。
そして、「おそらく、これじゃないかな?」と思ったのが“話し方”の違いでした。フリートークのネタは全く同じなので、違いと言えば話し方しかありません。声の大きさやトーン、話のテンポが1回目とは違っていたのです。
1回目は、自分も会場の皆さんも“初対面”だから、お互いに探り合うような感じで慎重に話を始めたのです。ゆっくりと、ひと言ひと言会場の反応を見ながら、徐々にペースアップしていったのです。
しかし2回目は違っていました。私自身が「珍しい動物の話はさっきもウケたし、今回も絶対ウケる鉄板のネタだ!」と思って、最初から飛ばしてしまいました。会場の皆さんとは初対面にも関わらず、最初から声も大きく、話のテンポも速かったのですね。それで会場の皆さんはついて来られませんでした。思い上がって話をしてしまったんです。
普段の雑談でもそうですよね。「これ、絶対に面白いから、みんなにも話をしてやろう!」と勝手に1人で盛り上がっていても、相手の状態によって話し方は全く変わってきますよね。そもそも、世の中に“絶対にウケる面白い話”なんてないんです。でも、逆に相手の受け入れ態勢が整っていれば、「箸が転んでもおかしい」ってなるのです。
“話が弾む”ってよく言いますよね。これは話の内容ではなく、話し方(相手の声の大きさやトーン、会話の速度)を意識して、相手に合わせることで得られるものなのです。相手の声が大きかったらその大きさで、小さかったらその小ささに合わせて話し始めると、そのうち言葉のキャッチボールのテンポが合ってきて、雑談も盛り上がっていくと思います。
【解説】ビジネススキルとしての“雑談力”(三好)
今回のテーマは“話し方”です。具体的には声の大きさやトーン(調子)、話す速度などです。いずれも意識して、(一辺倒ではなく)使い分けないといけないわけですが、そのポイントは次のとおりです。
- 内容と態度に合わせること
- 同調したい時には相手に合わせること。逆に空気を変えたい場合は、あえて合わせない(変化させる)こと
- 十分に練習が必要なこと
感情を正確に伝えるには
“話し方”で最初に思い出すのは“メラビアンの法則”です。コミュニケーションを勉強していると必ず出てくるので、知っている人もいるでしょう。「言葉、態度、表情など、どれが最も重要な要素になるか?」というもので、それぞれ次のようなパーセンテージで表されています。
- 言葉(内容)…7%
- 話し方…38%
- 態度(ボディランゲージ)…55%
毒舌のお笑い芸人が、すごくキツイ内容を笑顔で楽しそうに話し、突っ込まれた時に素直に受け入れていると、誰もそれを真に受けたりしませんよね。“ツッコミを待つ冗談”だと判断できるからです。
福山雅治さんがラジオで下ネタを言っても、女性は好意的に受け流せますよね。「イケメンだから」という理由も大きいですが(笑)、楽しそうな“話し方”だからということもあります。同じイケメンでも、話し方や態度が違えば“不快感”を持つはずです。
それらを証明する法則がメラビアンの法則です。要するに、声の大きさやトーン、話す速度を意識しないと、正確な情報、特に自分の気持ちや感情は伝わらないということです。
説得力を産み、相手に信用してもらうために
メラビアンの法則にある3つの要素(内容・話し方・態度)に一貫性があると、その言葉に説得力を持たせることができます。コンサルタントからセールスパーソン、詐欺師に至るまで、相手からの“信用度”で仕事の成果が変わる職業(詐欺師は職業ではなく犯罪ですが)に従事している人は一貫性を意識しています。相手はこの3つの要素に矛盾があると疑いますからね。
その意味で、説得的コミュニケーション(相手に行動してもらいたい時の働きかけ)では、その内容に合わせてファッションや態度も合わせるのはもちろんのこと、“話し方”にも工夫が必要になります。稲川淳二さんが夏に怖い話をする時も、一貫性があるから怖がらせることができるんです。
【例】稲川淳二さんの怖い話
話の内容:怖い話
話し方:独特の話し方(ひっそり、低い声、比較的早口など、恐怖で過敏になっている状態を示す)
態度や環境:浴衣で夏を表し、セットも暗い墓地などが多い
“声”だけでも十分に“意思”を伝えることができますからね。
恋愛テクニックにも
また、コミュニケーションで相手の懐に入りたい時(好かれたい時)にも、声の大きさやトーン、会話のピッチ(速さ)などを相手に合わせると効果的です。
これは“ミラー効果(ミラーリング効果)”や“同調効果”と呼ばれ、好感を寄せる相手のしぐさや表情を無意識に真似てしまうことです。これを意図的にやると相手も好感を抱きやすくなるため、最近では恋愛テクニックとして紹介されることも多くなりました。ここで言う“相手に合わせること”は態度やしぐさだけでなく“声”や“話し方”も含まれます。
相手が喜んでいる時、怒っている時、焦っている時、その時々の気持ちに共感し「寄り添いたい」という意思を示すには、相手に合わせた“話し方”が必須ですからね。
相手が落ち込んでいる時や泣いている時は、傍にいるだけで声をかけませんよね。これは声の大きさや速度を“ゼロ”にして、相手に共感している姿勢、寄り添いたいという意思を示そうとしているのです。
逆に、その場の空気を変えたいと思った時は、持っていきたい方向の“話し方”をします。
重要なのは日頃の雑談で十分に練習しておくこと
モテる人は、無意識のうちにこれらができています。と言うより、無意識のうちにできる人は相手のことを大切に想い、相手の気持ちを尊重して会話をしています。だからモテるんですよね。
ビジネスシーンでは相手に恋愛感情を持ってもらう必要はありませんが、好意を持ってもらうことができれば、いろいろとスムーズに進むでしょう。少なくとも“感情バイアス”をかけてはいけません。
そのためには十分な練習が必要です。その練習は日常の雑談で鍛えるしかありません。日頃からどれだけ相手に寄り添った話し方をしているかによって、ビジネスシーンで必要になった時にも、その能力が発揮されるわけです。
練習は十分ですか?
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