LFネットワークグループのGM、Arpit Joshipuraが語るエンタープライズの向かう先

2018年4月25日(水)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
Linux FoundationのネットワークグループのGMを務めるArpit Joshipura氏に、インタビューを行った。

The Linux Foundation主催のOpen Networking Summit North America 2018は、オープンソースのネットワーク関連のカンファレンスとしては最大規模と言っていいだろう。昨年まではOPNFV(Open Platform for NFV)やOpenDaylightなどのプロジェクトごとのカンファレンスが開催されていたが、今年はONSに収束した形になった。

今回は、Linux FoundationのNetworking Group、General ManagerのArpit Joshipura氏にインタビューを行った。Joshipura氏は今回のイベントのホストの役を果たしており、キーノートでもJim Zemlinの後を受けてプレゼンテーションを行っていた。

GMのArpit Joshipura氏

GMのArpit Joshipura氏

今回のカンファレンスは大成功のように見えます。参加者の数はどのくらいですか?

そうですね。皆さんが楽しんでくれているのを感じています。まだ最終的な数値は確定していませんが(注:このインタビューはカンファレンスの3日目の午後に行われたため、最終的な参加者数は確定していない)1800名から2000名くらいの参加者数になるのではないでしょうか。前回よりは増えていると思います。オープンソースとネットワークというところに多くの注目が集まっているのを感じます。オープンソースは、すでにデファクトスタンダードであると言っても良いのではないでしょうか。このカンファレンスはオープンソースとネットワークに関しては最大規模のものになるので、キャリアやエンタープライズのエンドユーザー、そしてベンダーが集まって情報交換を行うことに大きな意義があると思います。

Linux Foundation Networking Fund(LFN)ができてから最初のカンファレンスですが、LFNについて解説してください。

既存の6つのプロジェクト(FD.io、OpenDaylight、ONAP、OPNFV、PNDA.io、SNAS)が一つのプロジェクトになったというわけではありません。ガバナンスモデルとして管理の部分は共有化していますが、開発に関しては独立したままです。またもう一つの特徴は、様々な標準化団体と協力することでオープンスタンダードとの協調という部分も同時に進めていることです。つまりオープンソースソフトウェアのプロジェクトとして無駄を省きながら、独立して開発を進め、標準化の流れとも足並みを揃えていく、私がキーノートでお話しした「Harmonization 1.0」というものがこれにあたります。LFNはフラグメンテーションを防ぎ、競合を防ぐために作られたということになります。なぜなら究極の目的は「オープンソースソフトウェアの利用を促進すること」だからです。

そして今年になって「Harmonization 2.0」としてさらに進化させました。エッジにおけるAkrainoプロジェクト、人工知能のAcumosAIプロジェクト、そしてDisaggregated Network Operating SystemであるDANOSプロジェクトを加えて、さらに領域を拡大しているということになります。ネットワークの機能の部分にだけ注目するとオーバーラップする部分もありますが、それはお互いが競争すれば良いと思っています。

オープンソースソフトウェアの場合、一つのベンダーがコントロールするのではなく様々なエンジニアが存在するコミュニティによって色々なことが決まります。これは時に時間のかかる場合が多いのではと思いますが、LFNにおいてはそんなことはないと?

オープンソースプロジェクトの中の動きが遅いというのは間違っていると思いますね。常にコミュニケーションを取っていますし、仕様に対するフィードバックや決定も迅速だと思います。むしろ商用のソフトウェアの場合よりも、動きは速いでしょう。

でなければ数ヶ月に1度というリリースはできない?

そうでしょ?(笑) ただプロジェクト間の連携やプロジェクトをまたがった仕様の策定などについての決定については、少し異なります。その場合、決定を動かす大きな要因はユーザーの関与です。つまりユーザーから「プロジェクトAとプロジェクトBで仕様はこうすべきだ」という声がちゃんと挙がれば、プロジェクトを動かすことができます。このようにオープンソースプロジェクトにおいては、ユーザーの声というのはとても重要なのです。実際、今回もTicketmasterやUberなどのユーザーの声を聞けるようにセッションを設定しています。

では少し違う質問をします。近年、多くの中国のベンダーがオープンソースプロジェクトに参加しています。中国では政府の干渉が色々なところに出てきますが、それがオープンソースソフトウェアの開発にも及ぶのではないか? という不安があるように思えます。実際LFやCNCFも、中国の企業に属するエンジニアやスポンサーが増えているように思えます。その辺りに不安はありませんか?

それは全くないと言えます。なぜなら、全てがオープンになっているから。もしも仮に中国の企業だけに有効な機能や仕組みが必要になったとしても、それがオープンになっている限り、透明性は保たれると思います。また特殊な機能が必要になったとしたら、それはその企業が実装すれば良いので、大元のソフトウェアが影響を受けることはないはずです。なので、その部分においては全く心配していません。

最後にこのインタビューを読んでいるエンタープライズ企業に属するエンジニアに向けて、クラウドネイティブなシステムを開発するためのヒントやアドバイスがあれば教えてください。

オープンソースソフトウェアを使う組織というのは、大きく分けて3つあると考えています。一つはパブリッククラウドベンダー。彼らはそもそもクラウドネイティブなシステム開発を行なって実装しているので、OpenStackのようなソフトウェアは使いません。マイクロサービスも自社でどんどん採用して開発を進めるでしょう。二つめはテレコムキャリアです。彼らはレガシーなシステムを多く持っています。それらを仮想マシンに移行してクラウドネイティブに向かう際に、OpenStackが使われています。彼らはOpenStackのようなクラウドインフラストラクチャーを使いつつ、マイクロサービスの方に少しずつ移行していくと思います。そして三つめがエンタープライズですね。彼らはOpenStackを使うよりも、Kubernetesを使ったマイクロサービスにすぐに移行するべきだと考えています。もうOpenStackを使うよりも、Kubernetesを優先するべきだと思います。そしてマイクロサービスを実装するべきだと思います。

エンジニアの採用についても提案があります。これからは「Javaをもう10年以上開発してきました」というエンジニアを採るのではなく、「Rubyなら5日でモノにしてみせます」「Pythonなら4日で」というエンジニアを採用するべきだと思います。これからの変化に対応できるエンジニアが、エンタープライズにおいても求められていると思いますね。

エンタープライズがOpenStackを採用するのではなく、Kubernetesでコンテナオーケストレーションに向かうのだとすると、VMwareのような仮想化をベースにしている企業は苦しくなるのではないですか?

VMwareは大丈夫でしょう。オープンソースソフトウェアに多くの貢献をしている企業ですから、すぐに対応していくと思います。Intelも同じようにオープンソースに対して大きな貢献をしています。しかしメインフレームのような製品は、これからはどんどん衰退していくと思います。

「プロジェクトを動かすにはユーザーの声が重要」と語るArpit Joshipura氏は、手書きのメモを使ってHarmonization 2.0を説明してくれるエネエルギッシュな人物であった。またストレートなコメントは、とても響くものがあった。ネットワーク機能以外にも、多くの周辺のプロジェクトを巻き込んで進んでいくLinux Foundationのネットワークグループの動向に注目したい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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