Open Source Leadership Summit開催。ディレクターのJim Zemlinがキーノートを講演

2018年3月27日(火)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
Linux Foundationはソノマで招待制カンファレンス、Open Source Leadership Summitを開催した。

オープンソースソフトウェアの利用を支援する非営利団体であるThe Linux Foundationは、2018年3月6日から8日までカリフォルニア州ソノマにて「Open Source Leadership Summit」を開催した。かつてはLinux Foundation Collaboration Summitと称されていた招待制のカンファレンスで、オープンソースのコントリビューター、ベンダー、ベンチャーキャピタリスト、ユーザーなど多方面からの参加者がお互いが繋がり合い、新しいコラボレーションを生み出すことを目的としたイベントだ。

KubeConやOpenStack Summitのようなテクノロジーにフォーカスしたカンファレンスとは異なり、最新のテクノロジートレンドを要約したセッション、オープンソースプロジェクトを運営する際のコツ、マネタイズに関するアイデア、エンジニアの雇い方など、幅広いトピックについてセッションが行われた。今回は、初日のキーノートに登壇したエグゼクティブ・ディレクターであるJim Zemlin氏の講演を紹介する。

エグゼクティブ・ディレクターのJim Zemlin氏

エグゼクティブ・ディレクターのJim Zemlin氏

Zemlin氏はオープンソースソフトウェアとして最も有名であるLinuxを例に挙げ「Linuxは最も重要なオープンソースソフトウェア」となったという話題から講演を始めた。

最も重要なオープンソースであるLinux

最も重要なオープンソースであるLinux

またオープンソースの開発を行うコミュニティも毎年拡大しており、コミュニティによってオープンソースの進化は支えられていると強調した。

オープンソースのコミュニティも常に加速している

オープンソースのコミュニティも常に加速している

ただし、「どのプロジェクトが重要なのか?」については、少数のプロジェクトが多くの価値を産んでおり、その他のプロジェクトは数は多いがそれほと高い価値を産んでいないとも指摘した。

一部のプロジェクトが多くの価値をもたらしている

一部のプロジェクトが多くの価値をもたらしている

ではオープンソースプロジェクトが進化を続けるために、何が必要なのか? というポイントについて、Zemlin氏は「プロジェクト」「価値」「ソリューション」という3つの観点で考える必要があると語った。

つまり、最初にエンドユーザーやデベロッパーが欲しいソフトウェアがないという状況から、オーガニックにプロジェクトが生まれることによってオープンソースソフトウェアが立ち上がる。そこに企業が参加することで加速するというのがオープンソースプロジェクトの通例であると語り、例としてLXCやYocto Projectなどを挙げた。

オープンソースプロジェクトが始まるきっかけ

オープンソースプロジェクトが始まるきっかけ

またビジネス面では、商用ソフトウェアの機能を参考にすることによってオープンソースソフトウェアが産まれたことを紹介。ここではUnixからLinuxが、プロプライエタリなリレーショナルデータベースからMySQLが、同様にプロプライエタリなミドルウェアからJBossが産まれたことを紹介した。ビジネスに価値を与えるために、有償でクローズドなソフトウェアではなく、無償でオープンなソフトウェアが必要であったことを暗に示していると言える。

プロプライエタリソフトをモデルに産まれたオープンソースソフトウェア

プロプライエタリソフトをモデルに産まれたオープンソースソフトウェア

また近年では、単に有償から無償へと言う流れではなく、ブロックチェーンやマイクロサービスなどのように、オープンソースソフトウェア自体が新たな価値を創造するための技術として産まれてきていることを紹介し、イノベーションの方法論として、オープンソースソフトウェアによるイノベーションの創出が起きていることを語った。

ここでは少ないベンダーによって独占されるプロプライエタリなソフトウェアとは違い、他のオープンソースプロジェクトとの相互運用性が担保されることがソリューションの価値基準になっていることを紹介。つまり再利用可能であり、相互運用性が低いソフトウェアは価値が下がってしまう、という指摘だ。ここはOPNFVやコンテナプラットフォームなどを例に挙げて、ソリューションとしてのオープンソースソフトウェアにおいて、他のソフトウェアとの親和性を上げることの重要性を強調したといえる。

ソリューションとしては相互運用性が重要と指摘

ソリューションとしては相互運用性が重要と指摘

その一例として、Zemlin氏はCloud Native Computing Foundation(CNCF)のホストするプロジェクトを挙げる。CNCFの多くのプロジェクトがビジネスにインパクトを与えるとともに、他のオープンソースソフトウェアと連携することによって、さらに価値が上がり続けるサイクルが動いていることを、ユースケースとして紹介した。

CNCFを例に挙げてオープンソースのエコシステムが回ることを紹介

CNCFを例に挙げてオープンソースのエコシステムが回ることを紹介

プロジェクトと価値、そしてソリューションがうまく噛み合うことで開発のサイクルが回り続け、新しいプレイヤーが参加するモチベーションになり、結果としてリアルな問題を解くためのエコシステムが構築されていることを強調した。コンテナオーケストレーションの分野でデファクトスタンダードとなったKubernetesと、その周りに自然発生しているエコシステムは、まさにその好例と言える。

他にもLinux FoundationがホストするAutomotive Grade Linux(AGL)やHyperLedgerを例に挙げて、課題を克服するためにこの3つの歯車が噛み合っていることを紹介した。

Automotive Grade Linuxの例

Automotive Grade Linuxの例

ここではAGLが車載コンピュータに関する課題として「いかにAppleに対抗していくか?」というテーマを掲げていたことが分かる。車載の組込システムを開発していたベンダーにとって、iPhoneに代表されるタッチパネルのインターフェースが脅威として捉えられていたことが分かるスライドだ。

またHyperLedgerの例も中央集権的ではない暗号通貨、マイニングによる早い者勝ちな投機目的のための技術という捉え方ではなく、「ビジネスに使うためのブロックチェーン」という課題に挑戦するための方法論であったことが分かる。IBMがリードする形でLinux FoundationのプロジェクトとなったHyperLedgerだが、ダイヤモンドの流通やWalmartのサプライチェーンでも使われていることで、通貨という捉え方ではなく信頼を担保するためのシステムとして使われていることが分かる事例だ。

HyperLedgerの例

HyperLedgerの例

とはいえ、全てのオープンソースプロジェクトが上手くいっているわけではない。その例としてZemlin氏は、Heartbleedの脆弱性の例を紹介する。ここでのポイントは技術的な優劣ではなく、プロジェクトとしてセキュリティを担保できるための土台がなかったという点だ。具体的に言えば、OpenSSLの開発には2名のエンジニアと数千ドルの予算しかなかったという。

このHeartbleedの一件を受けて、オープンソースプロジェクトに対してセキュリティを高めるための金銭的な支援を行うイニシアティブとしてLinux Foundationが立ち上げたのが、Core Infrastructure Initiative(CII)だ。Zemlin氏は「セキュリティについては全てのステークホルダーが真剣に考えるべきだ」と強調した。

CIIに関しては、Zemlin氏は2015年に東京で行なった講演でも紹介を行っている。

参考:Linux Foundationのジム・ゼムリン、OSSの次のハードルはセキュリティとエンジニアの収入?

最後にこのカンファレンスについて「エンジニアだけではなくエンドユーザーや経営者、投資家などが対話することでネットワークが産まれ、そこから新たなオープンソースプロジェクトそして価値を生み出して欲しい」と語り、冒頭のキーノートを終えた。

テクノロジーにフォーカスしない約400名という少人数のカンファレンスということで、リラックスした雰囲気のZemlin氏であったが、短い時間の中でもポイントを押さえたプレゼンテーションであった。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

連載バックナンバー

クラウドインタビュー
第6回

CNCFの責任者Dan Kohnが語る次のターゲットはサーバーレス、中国、そしてテレコム業界

2018/4/6
「Open Source Leadership Summit」に招待されていたCNCFのExuecutive DirectorであるDan Kohn氏にインタビューを行った。
クラウドイベント
第5回

クラウドネイティブの真髄であるサーバーレスがキーノートに登場

2018/4/5
Open Source Leadership Summitでサーバーレスのセッション行われた。まだ黎明期と言えるサーバーレスの要点とは?
AI・人工知能イベント
第4回

Microsoft AzureのCTO「人工知能の進化はOSSとクラウドのおかげ」と語る

2018/3/30
Open Source Leadership SummitでMicrosoft AzureのCTOがAIとビッグデータについて講演し、ビジネス層には否定的な見方も強いAIの応用について明るい未来を語った。

Think ITメルマガ会員登録受付中

Think ITでは、技術情報が詰まったメールマガジン「Think IT Weekly」の配信サービスを提供しています。メルマガ会員登録を済ませれば、メルマガだけでなく、さまざまな限定特典を入手できるようになります。

Think ITメルマガ会員のサービス内容を見る

他にもこの記事が読まれています