Open Source Leadership Summit開催。ディレクターのJim Zemlinがキーノートを講演
オープンソースソフトウェアの利用を支援する非営利団体であるThe Linux Foundationは、2018年3月6日から8日までカリフォルニア州ソノマにて「Open Source Leadership Summit」を開催した。かつてはLinux Foundation Collaboration Summitと称されていた招待制のカンファレンスで、オープンソースのコントリビューター、ベンダー、ベンチャーキャピタリスト、ユーザーなど多方面からの参加者がお互いが繋がり合い、新しいコラボレーションを生み出すことを目的としたイベントだ。
KubeConやOpenStack Summitのようなテクノロジーにフォーカスしたカンファレンスとは異なり、最新のテクノロジートレンドを要約したセッション、オープンソースプロジェクトを運営する際のコツ、マネタイズに関するアイデア、エンジニアの雇い方など、幅広いトピックについてセッションが行われた。今回は、初日のキーノートに登壇したエグゼクティブ・ディレクターであるJim Zemlin氏の講演を紹介する。
Zemlin氏はオープンソースソフトウェアとして最も有名であるLinuxを例に挙げ「Linuxは最も重要なオープンソースソフトウェア」となったという話題から講演を始めた。
またオープンソースの開発を行うコミュニティも毎年拡大しており、コミュニティによってオープンソースの進化は支えられていると強調した。
ただし、「どのプロジェクトが重要なのか?」については、少数のプロジェクトが多くの価値を産んでおり、その他のプロジェクトは数は多いがそれほと高い価値を産んでいないとも指摘した。
ではオープンソースプロジェクトが進化を続けるために、何が必要なのか? というポイントについて、Zemlin氏は「プロジェクト」「価値」「ソリューション」という3つの観点で考える必要があると語った。
つまり、最初にエンドユーザーやデベロッパーが欲しいソフトウェアがないという状況から、オーガニックにプロジェクトが生まれることによってオープンソースソフトウェアが立ち上がる。そこに企業が参加することで加速するというのがオープンソースプロジェクトの通例であると語り、例としてLXCやYocto Projectなどを挙げた。
またビジネス面では、商用ソフトウェアの機能を参考にすることによってオープンソースソフトウェアが産まれたことを紹介。ここではUnixからLinuxが、プロプライエタリなリレーショナルデータベースからMySQLが、同様にプロプライエタリなミドルウェアからJBossが産まれたことを紹介した。ビジネスに価値を与えるために、有償でクローズドなソフトウェアではなく、無償でオープンなソフトウェアが必要であったことを暗に示していると言える。
また近年では、単に有償から無償へと言う流れではなく、ブロックチェーンやマイクロサービスなどのように、オープンソースソフトウェア自体が新たな価値を創造するための技術として産まれてきていることを紹介し、イノベーションの方法論として、オープンソースソフトウェアによるイノベーションの創出が起きていることを語った。
ここでは少ないベンダーによって独占されるプロプライエタリなソフトウェアとは違い、他のオープンソースプロジェクトとの相互運用性が担保されることがソリューションの価値基準になっていることを紹介。つまり再利用可能であり、相互運用性が低いソフトウェアは価値が下がってしまう、という指摘だ。ここはOPNFVやコンテナプラットフォームなどを例に挙げて、ソリューションとしてのオープンソースソフトウェアにおいて、他のソフトウェアとの親和性を上げることの重要性を強調したといえる。
その一例として、Zemlin氏はCloud Native Computing Foundation(CNCF)のホストするプロジェクトを挙げる。CNCFの多くのプロジェクトがビジネスにインパクトを与えるとともに、他のオープンソースソフトウェアと連携することによって、さらに価値が上がり続けるサイクルが動いていることを、ユースケースとして紹介した。
プロジェクトと価値、そしてソリューションがうまく噛み合うことで開発のサイクルが回り続け、新しいプレイヤーが参加するモチベーションになり、結果としてリアルな問題を解くためのエコシステムが構築されていることを強調した。コンテナオーケストレーションの分野でデファクトスタンダードとなったKubernetesと、その周りに自然発生しているエコシステムは、まさにその好例と言える。
他にもLinux FoundationがホストするAutomotive Grade Linux(AGL)やHyperLedgerを例に挙げて、課題を克服するためにこの3つの歯車が噛み合っていることを紹介した。
ここではAGLが車載コンピュータに関する課題として「いかにAppleに対抗していくか?」というテーマを掲げていたことが分かる。車載の組込システムを開発していたベンダーにとって、iPhoneに代表されるタッチパネルのインターフェースが脅威として捉えられていたことが分かるスライドだ。
またHyperLedgerの例も中央集権的ではない暗号通貨、マイニングによる早い者勝ちな投機目的のための技術という捉え方ではなく、「ビジネスに使うためのブロックチェーン」という課題に挑戦するための方法論であったことが分かる。IBMがリードする形でLinux FoundationのプロジェクトとなったHyperLedgerだが、ダイヤモンドの流通やWalmartのサプライチェーンでも使われていることで、通貨という捉え方ではなく信頼を担保するためのシステムとして使われていることが分かる事例だ。
とはいえ、全てのオープンソースプロジェクトが上手くいっているわけではない。その例としてZemlin氏は、Heartbleedの脆弱性の例を紹介する。ここでのポイントは技術的な優劣ではなく、プロジェクトとしてセキュリティを担保できるための土台がなかったという点だ。具体的に言えば、OpenSSLの開発には2名のエンジニアと数千ドルの予算しかなかったという。
このHeartbleedの一件を受けて、オープンソースプロジェクトに対してセキュリティを高めるための金銭的な支援を行うイニシアティブとしてLinux Foundationが立ち上げたのが、Core Infrastructure Initiative(CII)だ。Zemlin氏は「セキュリティについては全てのステークホルダーが真剣に考えるべきだ」と強調した。
CIIに関しては、Zemlin氏は2015年に東京で行なった講演でも紹介を行っている。
参考:Linux Foundationのジム・ゼムリン、OSSの次のハードルはセキュリティとエンジニアの収入?
最後にこのカンファレンスについて「エンジニアだけではなくエンドユーザーや経営者、投資家などが対話することでネットワークが産まれ、そこから新たなオープンソースプロジェクトそして価値を生み出して欲しい」と語り、冒頭のキーノートを終えた。
テクノロジーにフォーカスしない約400名という少人数のカンファレンスということで、リラックスした雰囲気のZemlin氏であったが、短い時間の中でもポイントを押さえたプレゼンテーションであった。
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