OpenContrailからTungsten Fabricへ。Juniperの責任者に聞いたその背景とは?
The Linux Foundationが主催する「Open Networking Summit North America 2018」がLos Angelesで開催された。Linux Foundationは、数多くのネットワーク関連プロジェクトをホストしているが、2018年1月にネットワーク系を含む多くのプロジェクトがひとつの管理スキームの下にLinux Foundation Networking Fundに統合された。この統合の直後ということもあり、注目を集めていた今回のカンファレンスのレポートをいくつか紹介しよう。
レポートの1本目は、カンファレンスの初日の朝に行われたJuniper NetworksのRandy Bias氏(VP, Technology and Strategy)のインタビューをお届けする。Juniper Networksが推進するSDNで、オープンソースソフトウェアとしてすでに公開されていた「OpenContrail」が、「Tungsten Fabric」という新しい名称でLinux Foundationによってホストされることになった。これまでのJuniper主導のガバナンスモデルを一新した背景や、日本での展開について意見を聞いた。
ちなみに2015年11月の記事では、OpenStack Days Tokyoで来日したJuniperのシニアディレクターのScotto Sneddon氏にインタビューを行っているので、過去の経緯も含めて参照して欲しい。
参考:JuniperのSDN/NFV担当シニアディレクター、Neutronが薄くなることに賛成と語る
まず確認ですが、OpenContrailがLinux Foundationに寄贈されて、新たに「Tungsten Fabric」という名前になったということで良いですか? そうなった背景を教えてください。
その通りです。私がJuniperに来た2016年に、オープンソースのイニシャティブについて何をするべきだろうか?ということで検討を始めました。そして顧客からのフィードバックや社内のコミュニケーションを通じて気がついたのは、Juniperの優先順位はエンタープライズ版のContrailにフォーカスしていたということです。そしてオープンソースソフトウェアとしてどうあるべきか、ベストなやり方があるとしたら何をするべきかということをもう一度ゼロから考えた時に、新しい非営利の組織を作ってそこでガバナンスを行うことではないかという結論に至ったのです。結果的にそれは9ヶ月もかかってしまいましたが。
そしてその組織を作る時に全く新しい組織を立ち上げるのか、すでにあるApache Software FoundationやCloud Native Computing Foundationにするのかなどを検討した結果、Linux Foundation(以下、LF)にその役割を引き受けてもらうことが最善であるということになりました。実際に、LFがガバナンスを行う組織も経験も持っているということは明らかでした。
実際にJuniperが管理するOpenContrailだった頃とLFによって管理されるようになった今ではどのような違いがあるのですか?
それは大きな違いがあります。現状のOpenContrailが使われているケースを見てみればわかりますが、90%の顧客はJuniperのエンタープライズ版を使っている顧客になります。つまり元々のJuniperの顧客なのです。しかしネットワークを求めている顧客は、他にも多く存在します。つまりJuniperの手から離れたオープンソースソフトウェアになることで、より多くのエンジニアや顧客にリーチすることができると思っています。当然、我々の競争相手がTungsten Fabricを使う場合も出てくるでしょう。しかしより多くの市場に向かうためには、こうすることが必要だったのです。今のContrailのビジネスを守るよりも、Juniperの手から離れたニュートラルなオープンソースプロジェクトとして100倍も1000倍も大きな市場にリーチすること、そしてそれの10%のユーザーがJuniperのエンタープライズビジネスに移行してくれれば、良いと思っています。そういう判断をしたわけです。
今のOpenContrailの大部分のコードはJuniperのエンジニアが書いていると思いますが、それをもっと他のエンジニアが貢献できるようにしたいということですか?
そうです。これは鶏とタマゴの問題と言ってもいいと思いますが、多くのエンジニアがTungsten Fabricを試すようになると、当然そこにはコントリビューションをしてくれるエンジニアも出てきます。そしてそれが拡がれば、使うユーザーも増えます。ユーザーの増加とコントリビューションをするエンジニアの増加は、関連しているはずですから。その部分のガバナンスは、LFに任せることになります。Juniperにとっての課題はエヴァンジェリズムですね。もっとTungsten Fabricを知ってもらうことが必要です。ですので、プロダクトマーケティングもエバンジェリストも仕事をしなければいけません。私の直近のゴールは売り上げを増やすことではなく、とにかく「Tungsten Fabricを知ってもらうこと、使ってもらうこと」なのです。
そしてその次のフェーズにおいては、もっと様々なユースケースで使ってもらうことですね。Tungsten Fabricが一部のキャリアやエンタープライズで使われていると言う状況だけではなく、例えばKubernetesとインテグレーションするような使われ方であるとか、我々が想定していなかったような使われ方で実装が拡がることを目指します。それが当面のゴールになります。
今日(3月28日)の午後にプレスリリースを出しますが、それで最初の段階は終わったのです。つまり9ヶ月前に始まったこの新しいガバナンスモデルへの移行は今日を持って終了し、次のフェーズに移ることになります。これによってJuniperの主導するOpenContrailは終わり、LFがホストするTungsten Fabricとして出発するのです。その結果として例えば、大手のネットワークベンダーが自社のSDNとしてTungsten Fabricを使ってソフトウェアを開発したということが起こったとしたら、それは私にとって大きな勝利を勝ち取ったということになるでしょうね。
日本市場においてなにか特別な施策を行う予定はありますか?
日本市場は、常に高い品質としっかりとしたサポートを要求する難しい市場です。もちろん、我々の顧客も多く存在しますが。どちらかというと日本の顧客は「プロダクト」として存在することを望んでいると思います。つまりオープンソースソフトウェアは常に改良されて進化するモノで、そこにしっかりとした機能や性能を備えたプロダクトを期待するとそれに応えられないということも起こり得ると思います。ですので、日本市場においては商用版であるContrailをメインにビジネスを進めていくのは変わりません。一方で、Tungsten Fabricについてもエヴァンジェリズムを拡大していく予定です。またオープンコアモデルに倣って高性能なGUIを用意するなどの手法で、Tungsten Fabricをより使いやすい製品にすることで、品質に対して要求の高い日本の顧客にも対応できるようになると思います。
ではちょっと個人的な質問になりますが、最後にお会いした時はEMCの日本支社でした。その後にOpenStack Summitでもお会いしたと思いますが、EMCからJuniperに移って今どんな感じですか?
あぁ、そうですね。私の経歴を見てもらえばわかるように、最初にCloudscalingを起業したわけで、どちらかといえばあまり大きな組織に属するタイプではありません。しかしEMCやJuniperでも、とても楽しく仕事をしていますよ。今のJuniperのCTOはビカシュ・コーリーで、彼は元Googleで商用ネットワークのデザインや構築をリードしていた人物です。それに私の上司も元Googleの人間です。今のJuniperにはGoogleのDNAが入ってきていますので、よりDigital Transformationを推進できるようになってきていると感じますね。それを含めてすごくエキサイティングな職場であると思います。
これまでオープンソースプロジェクトとして認知はされてはいたものの、やはり「JuniperのOpenContrail」と思われていたものをLFに移管することで、より大きく成長させようとする強い意志が感じられるインタビューであった。強面なBias氏だが、「最近は出張が多くてなかなか家族と一緒にいられないので、これで気を紛らわしている」と自宅で遊ぶ娘さんの写真を見せてくれる一面もあり、茶目っ気のあるところが人の良さとして表れているようであった。Tungsten Fabricの今後に注目したい。
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