OpenStack Summit 2018 Vancouver開催 リアルな情報交換の場となったイベント
オープンソースのクラウドインフラストラクチャーという意味では、すでに唯一の存在となっているOpenStackの半年に1回のカンファレンスOpenStack Summitが、2018年5月21日から24日までカナダのバンクーバーで開催された。約2600名という今回の参加者の数は、最近大いに注目を集めているKubernetesのカンファレンスであるKubeConと比べると少なめで、過去からの推移を見てもあまり盛り上がっているようには見えない。しかしそれは、OpenStackやそのコミュニティが衰退しているということではなく、お祭り騒ぎ的に盛り上がる時期が終わり、OpenStackを使っているユーザーと開発者とが、リアルな問題を持ち寄って相まみえる場へと変化したということであろう。
実際それは、OpenStack Foundationのメンバーにも表れている。IBMとCanonical(LinuxディストリビューションUbuntuの開発などを行っている)という2つのベンダーがPlatinumメンバーから外れ、代わりにEricssonとTencentがPlatinumメンバーとして加入したのだ。Canonicalはリストラを実施し日本法人にも変化があったが、今回は久しぶりにカンファレンスのスポンサーとして復帰し、CEOのMark Shuttleworth氏が元気な姿を見せていた。ベンダーが抜け、ユーザーが入ったという辺りに、自社のクラウドインフラストラクチャーとしてOpenStackを使う企業が、これまで以上にOpenStackにコミットをし始めたと見るべきだろう。
今回は単に「OpenStack」というインフラストラクチャーにフォーカスするのではなく、CI/CD、Containers、Edge、HPC、NFV、Public&Private Cloudというサブトピックに分けられたセッションが構成されており、CI/CD、Containers、Edgeなどについては別途キーノートと称されたセッションを設けられるようになった。つまり全体のキーノートだけではなく、サブトピックにもキーノートが用意されていたということだ。またセッションもプレゼンテーションだけではなく、ワークグループやForumというディスカッションを目的としたものがあるのはOpenStack Summitでは通例だが、今回はCI/CDについても「OpenDEV」と呼ばれる別トラックが用意されていた。CNCFも認識しているように、コンテナ化の次はCI/CDが重要というメッセージとも呼応するかのような設定だ。OpenStackそのものの進化については、各プロジェクトのForumでアップデートを行うという形式だ。
登壇したMark Collier氏は「我々はインフラストラクチャーを構築し、運用してきた」と語り、OpenStackがインフラストラクチャーとして確固たる地位を築いたことを強調した上で、「それだけでは足らない、もっと多くのプラットフォーム、ワークロードを稼働させる役割がある」と説明。特にコンテナ、サーバーレス、機械学習などのキーワードを挙げた。
そしてこれまでのOpenStackの実装の領域として考えられていたデータセンターだけではなく、エッジにおいてもその必要性は高まっていると説明した。
またハードウェアにおいてもx86だけではなくARM、GPU、FPGAなどにも言及した。
そしてこのカンファレンスが「OpenStack Summit」と銘打っているにも関わらず、多くのオープンソースソフトウェアのプロジェクトに関するセッションが用意されていることを紹介し、一つのプロジェクトだけで現実の問題を解決できないと認識していることを明かした。
そしてOpenStack Summitでは常に強調されるユーザーの重要性について変わらない姿勢を見せたのは、OpenStackを運用している企業名だけではなく、実際にそれを担当している人の写真を使ったスライドを見せたことだろう。
過去にスーパーユーザーアワードを取ったNTTとAT&T、それに4名でアドバタイジングクラウドを運用しているというAdobeなどが紹介された。
そして巨大なユーザーの例としてCERNが登壇する。
CERNは何度もユースケースとして紹介されているが、今回はKubernetesを使ったワークロードとマルチクラウド、そしてシステムの構築を担当したT Systemなどについても解説が行われた。
また「オペレータは同時に開発者でもある」という文脈から、AT&Tと韓国のSK Telecomが公開した、Airshipを紹介。AirshipはAT&Tと韓国のSK Telecomが協同で開発を行っているOpenStackのライフサイクルを自動化する試みで、インフラストラクチャーに近い部分にKubernetesを使うことによってOpenStack自体をコンテナ化し、OpenStackベースのプライベートクラウドの運用を効率化する試みだ。これは「OpenStack on Kubernetes」とも言えるもので、最近、活発にオープンソースコミュニティにソースコードを提供しているAT&Tの一連の動きと連動しているとも言える。他にもAT&TはEdge用のOpenStackクラスターであるAkraino、ネットワークオペレーティングシステムのDANOS(Disaggregated Network Operating System)、機械学習のためのAcumos AIなど、自社の持つ様々なソフトウェア資産をオープンソースソフトウェアとして公開している。
その一つであるAirshipは、韓国のSK Telecomと協同で発表されたOpenStackをKubernetesの上で稼働させる仕組みだが、「Declarative」という部分を強調していたのが印象的だ。これはOpenStackを稼働させるための様々な仕組みをYAMLファイルで定義し、それをベースに構成する仕掛けを持っているということだ。Kubernetesはもとより、パッケージマネージャーであるHelm、ベアメタルサーバーをプロビジョンするIronic、認証はKeystoneなどを採用し、他にも様々なコンポーネントをSK TelecomとAT&Tが提供している。現在はコントリビュータを募集している段階で、本格的にコミュニティが拡大するかどうかはSK TelecomとAT&T以外のテレコムオペレータを巻き込めるかどうか? というところだろう。今後に期待したい。
Airshipセッション
次に紹介されたのはKata Containersだ。これはIntelと中国のHyperが協同で開発を進めるコンテナランタイムで、仮想マシンのように独立したカーネルスペースを持つのが特徴だ。
2017年末のKubeConで発表されたプロジェクトだが、約半年を経てこのカンファレンスに合わせて1.0となるリリースを発表に至ったというわけだ。
その後、NovaのPTL(Project Team Lead)によるGPUのサポートの紹介、NewtonからQueensまで複数のリリースを飛び越してアップグレードを可能にするFast Forward Upgradeの紹介、さらにOcataから可能になった古いリリースに対してもパッチによる修正を可能にするExtended Maintenanceなどが紹介された。
そして今回の大きなテーマであるCI/CDについて、新しくプロジェクトとして独立したZuulが紹介された。プレゼンターは、Red HatのCTO Officeに属するJames Blair氏だ。
OpenStackは開発のプロセスの中にZuulを使っているが、それをCI/CDのツールとして独立させたところに、「組織をクラウドネイティブにするためにCI/CDが必要である」というOpenStack Foundationの意図を感じた。ハードウェアとの連携においてはAnsibleと連携しており、Red Hatが強く推す背景が理解できる。
Red HatのエンジニアによるTripleOのデモなどを経て、VerizonのBeth Cohen氏が登壇。Cohen氏はロスアンゼルスで行われたOpen Networking SummitでもVerizonの顧客向けエッジソリューションのセッションを行っており、ここでもOpenStackを使ったエッジ向けのソリューションについて訴求を行った。
一緒に登壇したVancsa氏は元EricssonということでVerizonのCohen氏とは気が合うのか、よく二人で登壇しているようだ。
その後に登壇したのはIntelのImad Sousou氏だ。Intelのオープンソースソフトウェアのリーダーとして、ここでもKata Containersを解説した。ここでIntelのハードウェアの仮想化技術であるVT(Virtualization Technology)についても言及し、VTがKata Containersのアクセラレーションを行うと語った。最初にKata Containersが発表されたKubeConでは「Intel以外のCPUでも動かす」とコメントしていたことを考えると、やはりIntelのハードウェアへの優先度が上がったということだろうか。また興味深かったのは、ここでMicrosoftのJessie Frazelle氏、HuaweiのAnni Lai氏を登壇させてKata Containersに対するエンドースを行わせたところだろう。1分にも満たないコメントのために両氏を呼んだところを見ると、IntelのKata Containersへの注力が見て取れる。
Sousou氏は、新たなプロジェクトとしてSterlingXを紹介。これはWind RiverのTitaniumCloudのコードをオープンソースソフトウェアとして提供したもので、「IoTのエッジにおけるスタック」という位置付けだろう。しかしエッジにはAT&Tと協同でAkrainoもプロジェクトとして始めており、AkrainoにもWind RiverのTitaniumCloudのコードが利用されているという。この辺りは、プロジェクトがどのように推移するのかを見守るしかないのだろう。
この後は、カナダのOpenStackホスティングベンダー、VexxhostのCEOが登壇し、ZuulのCIテストのデモ、x86とARMの2種類のプロセッサが搭載されたクラスターにWordPressとMySQLを入れるデモやロードバランサーなどを見せ、冒頭の複数のハードウェアサポートを実際に見せた形となった。
次に登壇したCanonicalのMark Shuttleworth氏は、Red HatやVMwareと比べても低いコストでOpenStack+Kubernetesのクラスターを構築できると語り、SuperMicroと組んだキャンペーンを紹介。OpenShiftで波に乗るRed Hatを真正面から批判するプレゼンテーションを実行し、思わず会場からは苦笑が巻き起こることとなった。
この後、GoogleがコペンハーゲンのKubeConで発表したKubeFlowを使ったデモを実施。ここでも、機械学習のためのクラスターを素早く実装できることを紹介した。
最後はアメリカの保険会社、Progressiveの担当者が登壇し、VMwareベースのOpenStackディストリビューションであるVIO(VMware Integrated OpenStack)のユースケースを紹介した。
最後に今回のスーパーユーザーアワードとして、Ontario Institute for Cancer Research(OICR)が表彰され、初日のキーノートが終わった。
Kata Containers、ZuulによるCI/CD、マルチクラウド、x86とARMのサポートなど、多岐に渡る項目を盛り込んだキーノートとなった。OpenStackから他のオープンソースプロジェクトを取り込みながら、OpenStackそのものよりも周辺のプロジェクトやトピックが盛り上がりをみせるという辺りに、もうお祭り騒ぎは終わったということを実感させる内容となった。
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