デスクトップ仮想化の特性とコンポーネント
仮想化技術は広く浸透しています。実際、エンタープライズ環境においても、サーバー統合などに広く利用されています。すでに、さまざまなサーバーが仮想化環境で動作するようになっています。
今や、仮想化技術の適用範囲は、デスクトップの分野にも拡大しています。今回は、このデスクトップの仮想化について、利用されるコンポーネントや、その特性に関して説明します。
管理・運用の課題を解決するデスクトップ仮想化
多くの企業では、クライアントPCのWindowsアップデートやアプリケーションの管理は、利用者である個々の社員に委ねられることが多いのではないでしょうか。利用者によっては、好きなアプリケーションをインストールして、自由に使っているケースが多くあると考えられます。
こういったケースでは、情報システム部が想定していない形で情報漏えい事故が発生する可能性を秘めているといえます。しかし、だからと言って、社内に存在する大量のデスクトップPCを、限られたヘルプデスク担当者がすべて管理することは、工数や地理的な問題から事実上困難です。
また、業務上利用されるデータは、各ユーザーが各自のデスクトップ環境内に保存することが多いため、社外でノートPCを利用する機会が多い利用者は、端末紛失による情報漏えいのリスクが大きいという問題があります。
デスクトップを仮想化することにより、デスクトップの動作環境は、パソコンからデータセンターの仮想化環境の上に移されます。仮想化されたデスクトップは、サーバー仮想化と同じハードウエア/仮想化環境で動作するため、仮想デスクトップに対してサーバー仮想化と同等の可用性を提供することが可能になります。
同時に、デスクトップをデータセンターで一元管理できるようになるため、管理性を高め、社内のIT統制を強化することが可能になります。また、仮想化環境では簡単に仮想デスクトップのクローン(複製)を作成できるため、ヘルプデスク業務の工数削減が期待できます。さらに、利用者は自身のデスクトップに画面転送プロトコルを利用して接続することになるため、PCを社外に持ち出した場合の情報漏えい対策にもなります。
図1: 一般的なデスクトップ仮想化 |
デスクトップ仮想化が進む背景
このように、デスクトップ仮想化を採用することによって企業が享受できるメリットは、いくつかあります。最近では、さらに普及を促進すると思われる背景が、いくつかあります。
(1)背景の1つは、仮想化技術のコモディティ化により、サーバー・ベンダーからは、仮想化に最適化されたサーバー・ハードウエアがリリースされていることです。
具体的には、6コア、8コアのCPUを搭載し、TB(テラ・バイト)単位のメモリーを搭載できるハードウエアです。これまでのサーバー仮想化では比較的負荷の軽いサーバーが統合対象とされていたため、こういったハードウエアのハードウエア・リソースを最大限に活用することは困難でした。
当然、このようなサーバーを利用することで、負荷の高いサーバーを統合することも可能になりますが、こういった最新のサーバーを利用することで、1台のサーバーで100台以上のデスクトップを動作させることが可能になるため、デスクトップ仮想化用途での利用が期待されています。
(2)背景の1つは、Windows 7がリリースされたことと、Windows XPのサポート期限が明確になったことです。
企業は、OSの移行に伴い、多数のPCのリプレースを行う必要があります。リプレースのタイミングでデスクトップ仮想化を採用することで、PC展開のための工数の削減と、管理性およびセキュリティの向上を同時に実現することが可能になります。
(3)背景の1つは、スマートフォンの台頭など、仮想デスクトップへのアクセス手段が整備されてきたことです。
そもそも、デスクトップ仮想化環境では、画面転送プロトコルを介して、利用者自身のデスクトップを利用します。このため、インターネットを介して、自身の仮想デスクトップを利用することが可能です。
以前から、モバイルカード経由で仮想デスクトップに接続することが可能でしたが、スマートフォンの台頭に伴い、スマートフォン用のクライアント・ソフトウエアがリリースされ、3G(第3世代携帯電話)ネットワークを介した接続も整備されつつあります。
スマートフォンは、比較的画面が小さいため、ユーザビリティという面ではストレスを感じることは否めませんが、どこからでも自身のデスクトップ環境が利用でき、利用者の生産性向上が期待できるという点は、大きな魅力です。
また、先日日本でも発売されたiPad向けの仮想デスクトップ・クライアント・ソフトウエアもリリースされているため、比較的大きな画面で自身の仮想デスクトップをタッチパネル操作によって利用することが可能になっています。
さらには、サービス・プロバイダもDaaS(Desktop as a Service)と呼ばれるサービスを開始しています。これまで企業で管理を行っていたデスクトップをサービス・プロバイダが自身の設備で運用し、企業に対してサービスとして提供する形をとります。企業は自社で設備を持つ必要はなく、サービス費用を支払うことで社員のデスクトップ環境を手に入れることが可能になります。