Open Infrastructure Summit開催。キーノートはOpenStack離れと他OSSとの連携
オープンソースで開発が行われているクラウドプラットフォームのOpenStack。その年次カンファレンスが、昨年までのOpenStack Summitから名称を変えOpen Infrastructure Summitとして2019年4月29日から5月1日にかけてデンバーで開催された。約2000名という参加者を集めたカンファレンスでは、OpenStackのプロジェクトアップデート、CI/CD、エッジコンピューティング、ユースケース、コンテナランタイムなどについてセッションが開かれた。この記事では、初日に行われたキーノートを紹介する。
複数日に渡り開催されるカンファレンスでは午前中にキーノートが行われ、カンファレンス全体のキーメッセージを届けるというのが定形だ。Open Infrastructure Summitもその定形を踏襲し、主催者であるOpen Stack FoundationのExecutive DirectorであるJonathan Bryce氏が登壇した。
Bryce氏が強調した前半のメッセージは、「テクノロジーが社会を変えること」「コラボレーションがその変化を推し進める推進力になること」そしてオープンなやり方でコラボレーションすること、つまり「オープンソースによるコラボレーションモデルがテクノロジーをより強力に推進する力となること」という部分だ。このことは、このカンファレンスの参加者であればすでに理解されているとは思えるが、その部分をあらためて強調したという形になった。
また「テクノロジー」はそれ自体がアドバンテージになるものでもないと語り、さらに「オープンソース」もマーケティングのバズワードやビジネスモデルではなく、革新を実現するための哲学、考え方であるとして、オープンソースでソフトウェアを開発することが流行りになっていることに釘を刺した形となった。そして「オープン」という部分については、「ソースコード」「コミュニティ」「デベロップメント」「デザイン」という4つのオープンが重要であるとした。
ソースコードとコミュニティがオープンであるということについては、特に注釈は必要ないだろう。デベロップメントについては、ソフトウェア開発のプロセスが公開され、透明性の高いガバナンスが行われること、デザインについては、仕様やドキュメントが公開され、誰でもアクセスできること、と理解するのが妥当だろう。
それに加えてテクニカルなことを理解できる者が、テクニカルな部分についての決断を行うこと、可能な限り多様な人材に参加してもらうこと、コミュニティの教育に投資すること、ソフトウェアを使うユーザーのために闘うこと、などが語られた。特に最後のユーザーのため、という部分についてはOpenStackがRackspaceとNASAというユーザー側から産まれてきたプロジェクトであることを考えると、自身の出発点をあらためて振り返るという意味で意味深である。
そしてここから、OpenStackが今でも最もアクティブに活動しているトップ3の中に入るオープンソースプロジェクトであること、OpenStackが関わる市場規模が61億ドルにも拡大していることなどを紹介した上で、具体的にOpenStackを中心としてOpen Infrastructure Summitの注目する、つまりこのカンファレンスで語られる内容を総括するスライドを紹介した。
エッジコンピューティング、CI/CD、コンテナインフラストラクチャー、人工知能/機械学習、そしてそれらの中央にあるのがOpenStackということになる。だが実際には、人工知能/機械学習については全体のセッションの中ではそれほど目立つものではなかった。
そしてここからはIntel、Verizon Media、ベアメタルを扱うIronic、ドイツテレコム、Ericsson、AT&T、Kata Containers、Zuulなどの責任者が連続して登壇し、このカンファレンスの主要なトピックであるエッジコンピューティング、コンテナランタイム、CI/CD、そして5Gのワイヤレスネットワークでの事例などについて解説を行った。
特にVerizon Mediaは、自社のインフラストラクチャーを構築する際に様々なオープンソース・ソフトウェアを使いつつも、自社でカスタマイズしていることを紹介。なかでもベアメタルサーバーについては「誰もやっていないが自社のインフラを使うためには避けて通れない」として、ベアメタルサーバーの上に仮想マシン、Kubernetesなどを実装していることを紹介した。
その文脈で登場したOpenStackでのベアメタルサーバー管理のためのプロジェクトであるIronicが紹介された。ここではIronicからOpenStackだけではなく、Kubernetesのワークロードも実行できることを、デモを交えて紹介した。この流れは、OpenStackのコミュニティにおいてもKubernetesは無視できない重要なポーションを占めていることが語られたとも言えるだろう。
またIntelが強力にプッシュしているコンテナランタイムであるKata Containersについては、Project Team LeadとAWSが公開したFirecrackerに対するサポートが紹介された。同時にRustで書かれたRust-vmmについても紹介された。コペンハーゲンで初めて紹介されたKata Containersは、仮想マシンの特徴を備えたコンテナランタイムだが、Intelと中国のHyperが同時期に同じ発想でコンテナランタイムを開発していた際に、別々にやるのではなく一緒に開発をしようということで始まったプロジェクトだ。現在はOpenStack Foundationでホストされている。Intelが開発に加わっているということで、x86以外のプロセッサーでのサポートが危惧されたが、ARMやPowerPC、S390などのシステムをサポートしていることが簡単に紹介された。
最後に登壇したのは、CanonicalのCEO、Mark Shuttleworth氏だ。ここ最近のOpenStack SummitではCanonicalやUbuntuの名前はあまり露出されていなかったが、今回のカンファレンスでは、トップのスポンサーとして返り咲いており、ここでキーノートの最後を飾る形になった。
Shuttleworth氏は、かつてのインフラストラクチャーは商用ソフトウェアベンダーに独占されていたが、その後のLinuxとそれを継承する形となったOpenStackの隆盛により状況が変わったことを紹介し、オープンソースの運営母体としてのFoundationの優位性を語った。そこからCanonicalが発表したUbuntu Advantage for Infrastructureを紹介した。これはOSだけではなくインフラストラクチャーとして必要とされるOSとKubernetes、OpenStack、Cephなどをパッケージにしたもので、ユーザーは年間のサブスクリプション契約を行うことで、全てのオープンソースインフラストラクチャーについてサポートを受けられるというものだ。
ここでは特にRed HatとVMwareが比較対象として挙げられており、「それぞれ個別のソフトウェアについてサポート契約をすることでコストが嵩む」ことを紹介して、かつての強気なShuttleworth節が健在であるとこが確認できたとも言える。
全体的に見れば、オープンソースとコラボレーションが重要ということの再確認と、IntelやAT&T、Red Hatと言った大企業が推進するエッジコンピューティングやコンテナランタイム、CI/CDツールの紹介が目立ったキーノートとなった。
参加者が約2000名に留まった理由の一つが、北米での開催のために中国からの参加者が激減したことというのは妥当な推測だろう。中国のエンジニアにしてみれば、北米に出向くよりも11月に上海で行われるOpen Infrastructure Summitに参加するほうが容易であろうし、言葉の問題も少ないことは想像できる。中国はOpenStack FoundationもCNCFも最重要視する市場であり、しばらくは北米、ヨーロッパ、中国という3拠点でカンファレンスが運営されていくことを考えれば、北米で開催されるカンファレンスはコアなコントリビューターと大企業を中心としたユーザー主体の内容になっていくだろう。
さらにOpenStack自体については、ハイプの時代が終わってKubernetesやエッジなどとの連携にポイントが明確に移ったことを確認できたキーノートとなった。
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