レッドハットの女性エンジニアに訊いた「こんな上司は苦手」の真相
インフラストラクチャー系のソフトウェアの世界に女性エンジニアが少ないという日本特有の状況に対して、その原因を掘り下げるための連載シリーズは、これまで日本アイ・ビー・エムのエンジニアに複数回インタビューを行ってきた。今回は、オープンソースソフトウェアをコアに置くレッドハットの女性エンジニアにインタビューを行った。
今回、インタビューに応えてくれたのは、レッドハット株式会社テクニカルソリューション本部の2名の女性エンジニアだ。松田絵里奈氏はレッドハットのルールベースのビジネスロジックを実装するBRMSのプリセールスエンジニア、手塚由起子氏はレッドハットのパートナー担当のプリセールスエンジニアだ。松田氏はシニアソリューションアーキテクト、手塚氏はソリューションアーキテクトのタイトルを持つ。
それぞれソフトウェアのエンジニアという仕事をされていますが、そもそも最初にコンピュータの仕事をやろうと思ってきっかけはなんですか?
松田:私は学生の時の専攻は文系で、授業ではコンピュータを全然使っていなかったのですが、情報系の学部にいた友達のつながりでPCを触らせてもらったのが最初ですね。その時は何となくおもしろそうだなと言う感触はありましたね。それで就職活動をする時に、IT系の求人が一番多かったというのもあってシステムインテグレーターに就職したという感じです。友達にPCを触らせてもらうという経験がなかったら、そもそもそういう仕事があるのも知らなかったので、その友達のお陰ですね。
手塚:私は理系でしたが、生物学関連で大学院まで行ってそのまま研究者になろうかと思っていました。しかし、同じことを狭い領域で深く追求するのではなくて、もう少し広くできる仕事というか日常に近いことができる仕事に行こうかなということで就職活動を始めたんですね。その時はまだITの求人が良かったので、最終的にシステムインテグレーターに就職したという感じです。
松田:私も就職活動の当時はIT系の求人が多かったというのもあって、システムインテグレーターに就職しました。でもコンピュータがおもしろいと思ったのは実は就職してからで、そこの研修でCOBOLのプログラムを組んでそれがちゃんと動くというのを体験してからですね。その最初の印象は今でも残っています。「これ、おもしろい!」っていう感じです。それに論理的で私に合ってるって思ったのが大きかったですね。メインフレームのサーバールームに行ったりしてましたけど、なんて寒い所なんだろう! とか思ってました(笑)。
手塚:そうですよね。プログラミングで書いた通りに動くし、動くと思ったけど考えが足らなくて思った通りには動かないというのを体験しました。私の場合はJavaでしたけど。
手塚さんはコンピュータのどんなところをおもしろいと感じました? 松田さんは研修で作ったCOBOLのプログラムということでしたけが。
手塚:元々システムインテグレーターとして新卒で入社したら、先輩に付いて一緒に仕事を覚えるんですけど、設計という仕事でお客さんと打ち合わせて、私がやっているのはExcelシートに文字を入れることだけで、全然ソフトウェアのことは知らないっていうことに気付いたんですね。
「実際に動くものを知らないのに設計なんてできない」と思って、当時の上司にもっと現場でプログラミングとかを覚えたいと直訴して、3ヶ月ぐらいグループ会社の開発をやっているチームに派遣してもらいました。そこでプログラミングを実際にやりましたね。その時に初めてJavaのプログラムを自分で書いたんです。あー、こうあってエラーをキャッチするのか! とかをそこで初めて覚えて。それがとってもおもしろかったですね。
松田:知ることが重要だなと思うので、これからは男女平等で今では中学生でも男女関係なくプログラミングの教育とかが始まるのはすごく良いことだなと思います。プログラミングってどっちかというと男の子の趣味というかそういう印象があって、女子は入り辛かったと思うんですよ。でもそうやってプログラミングを知ることができて、女子でもプログラミングやっても良いんだと知って欲しいです。
レッドハットに限らず、これまで働いてきて女性で良かったこととか困ったことなどはありますか?
松田:レッドハットだけの話ではないんですけど、打ち合わせに行くと九人が男性で、女性は私一人だけみたいな場合は、女性であることで逆に記憶に残るっていうのはありますね。後でちゃんと覚えてもらえるというか。
手塚:それはありますね。個人的には、差別を受けるというような女性だから特別に何か悪い経験をしたことはないですね。
松田:以前の会社で派遣のエンジニアとしてある企業に行った時にあったことですけど、何人か面接を受けて複数のエンジニアが選ばれたんですけど、女性は私一人で、仕事を始めてみたらなぜか面接を行った管理職の人の秘書みたいなことをやらされて、派遣後1週間で「これはエンジニアの仕事ではないので続けられません」ってお断りしたことはありますね。夜の接待まで同行させられちゃって。
それはエンジニアの仕事じゃないですよね。いかにも日本の企業にありそうな感じです。逆に女性の管理職が若い男性エンジニアを秘書みたいに使うことがどれだけ異様なのか、考えれば分かるはずなのに。
手塚:そうですよね。私はあまりそういうことはなかったなぁ。
ちょっと質問を変えて、レッドハットはベースがすべてオープンソースソフトウェアという会社で大分ユニークだと思います。そういう会社でエンジニアとしては社内の活動だけじゃなくてコミュニティとも付き合っていき、活動していかないといけないと思うんですけど、そういうのってルール化されているんですか?
手塚:特に明文化はされていないですね。でも社内で積極的にやっている人はどんどんやってるし、それに影響されてみんなやるみたいな感じだと思います。
明文化されていないということは、すべて自分の判断にまかせて実行するということですよね?
松田:そうです。でも社外に限らず社内でもちょっと集まってプレゼンテーションするなんてことはしょっちゅう起こってますので、不便はないですし、問題もないと思います。そういう文化なんだと思いますね。趣味でやってるというか。
でも社内はそうなっていても社外のコミュニティ、つまり社員じゃない人達ともコミュニティ活動をしなきゃいけないじゃないですか。そういう時に女性であることのハンディキャップとかはないですか?
松田:特にはありませんが、どちらかというと女性とのコミュニケーションに慣れていない男性エンジニアに遭遇することが多いと思いますね、この業界では。
手塚:あー、あるある。男性だけだと話が盛り上がってるのに、女性が入ると途端に会話が途切れるというか。
つまりそれは男性だけだとめちゃくちゃ話ができるけど、女性が入ると話ができない男性エンジニアがいると。
松田:そうですね。目が合わせられないというか。目を見て話ができないという感じで。
その場合は女性に問題があるんじゃなくて男性側が女性に慣れていないということですよね。それは男性目線ではなかなか気付かないポイントですね。
松田:でもそういう状況からちゃんと話を聞いてもらうっていうのって、ハンディキャップを克服するってことじゃないですか。つまりマイナスの状態からプラスにすると、実際には大したことなくてもすごく結果を残したっていうことになりますよね。
逆にそういう逆境を跳ね返すのが楽しいみたいな。では、女性エンジニアの目からみて働きやすい上司っていうのはどんな人ですか?
松田:これはエンジニアに限った話じゃないのかも知れないですが。「何か相談ある?」って訊いてくれるのは良いんですけど、相談し始めて全部言わないうちから「だったらこうしたら良いよ」とかアドバイスをして解決しようとする人がいますね。
そうじゃなくて、とにかく私が言うことを全部「うんうん」って聞いて欲しいんですよね。仕事に関わる悩みって家族にも相談できないし、実際には何か問題があったとしても自分の中にある程度の解決策は持っていて、それをやろうとする自分を最後にちょっとだけ押してほしいだけっていうか、肩をポンと叩いて欲しいだけっていう状況ってあるんですよ。
なのに途中で「オレならこうする。こうやったら解決するから」みたいに即座に解決に行こうとする人には「あー、もう次から相談するのは止めとこう」って思っちゃう。まずは話を聞いて欲しいなと。
男と女のすれ違いの典型的なパターンですね。
手塚:私は相談してって言ってもらえるのはありがたいし、嬉しいんですけど、自分の過去の成功例とかをベースにして「こうすれば全部解決!」みたいなのを押し付けられるのが苦手ですね。その時とは状況も違うし、性別も違うのに押し付けないで欲しいなと思います。
最後に大きな質問になりますけど、これから女性エンジニアが増えるためには何をすれば良いと思いますか?
手塚:もっと啓蒙活動が必要なのかなと思いますね。女性でもプログラミングやっても良いとか。
松田:もっと女性エンジニアとしてロールモデルになるような人が出てくると良いかなぁと思いますね。どうしても見本になるような人がいないと、エンジニアを目指す人もやりにくいような気がします。あとはやっぱり女性にとってITの仕事を発見するためのきっかけになるような体験をして欲しいなと。データセンターの見学とかもやると良いのかも知れませんね。
同席したレッドハットの広報担当者からは、「欧米のレッドハットのオフィスで始まっている女性エンジニアを増やすための広報活動を、日本で展開する際のヒントになる」というコメントも得られた。このように、今回のインタビューが女性だけではなく男性エンジニアや管理職にとっても女性エンジニアを増やすためのヒントになることを祈りたい。
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