連載 :
  インタビュー

DX推進を担うAI・IoT分野のイノベーティブ人材への最短コース 早稲田大学の「スマートエスイー」でキャリアアップを

2021年3月9日(火)
小山 健治 (こやま けんじ)
DX推進を担うAI・IoT分野のイノベーティブな人材を目指す方に「スマートエスイー」を紹介する。

今注目の「AI・IoTを使える人材」の育成

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって、ビジネスのあり方や働き方はこれまでの「移動」や「対面」によるものから「オンライン」や「非対面」を中心としたニューノーマルへと急激な変化を見せている。そうした中で急務となっているのが、デジタルトランスフォーメーション(DX)だ。

ビジネスを取り巻く環境の急激な変化に追随していくアジリティ(俊敏性)と、予測不能な事態が起こった際にもしなやかに対応できるレジリエンス(弾性力、回復力)。これらを兼ね備えた企業でなければ、今後の社会では生き残ることはできないと言っても過言ではない。そして、そうした企業変革を体現するものこそがDXなのである。

この取り組みの鍵を握るのは、AIやIoTを中心としたデジタル技術を駆使し、ビジネスや価値に結び付けていく人材だ。なぜなら、IoTによって実世界から生成される膨大なデータは人間の能力で処理できる限界を超えており、AIとの協調・協働が必須となるからだ。ビジネスをデータドリブンで進めていく中から新しいサービスを生み出すことが可能となり、それが結果としてビジネスや価値の創造につながっていくのだ。

では、そうしたDX推進の担い手となるイノベーティブ人材は、どうやって育成していけばよいのだろうか? この課題に直面する企業の間で注目されているのが、AI・IoT時代の価値創造をリードする人材を、産学連携のネットワークで育成していくenPiT-Proの社会人向け講座「スマートエスイー」(代表校 早稲田大学、連携校 茨城大学、群馬大学、東京学芸大学、東京工業大学、大阪大学、九州大学、北陸先端科学技術大学院大学、奈良先端科学技術大学院大学、工学院大学、東京工科大学、東洋大学、鶴見大学、情報・システム研究機構(国立情報学研究所))だ。

スマートエスイー事業の責任者を務める早稲田大学理工学術院・教授の鷲崎弘宜(わしざき ひろのり)氏に、育成する人材像や教育プログラムの特徴や受講のメリットなど、幅広い話を伺った。

早稲田大学理工学術院 総合研究所 最先端ICT基盤研究所 副所長・教授 鷲崎弘宜(わしざき ひろのり)氏

早稲田大学理工学術院 総合研究所 最先端ICT基盤研究所 副所長・教授 鷲崎弘宜(わしざき ひろのり)氏

スマートエスイーの詳細については、PDFを参照ください。
PDFのダウンロードはこちら
「Impress Business Library」(インプレス・ビジネスライブラリー)に移動します

スマートエスイーが育成する
イノベーティブ人材像

スマートエスイーは、文部科学省が推進する「成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成(enPiT-Pro)」事業に採択される形で2018年度に開講した。ニューノーマル時代の超スマート社会を、国際的にもリードしていくイノベーティブ人材の育成を目的とした社会人の学び直しプログラムだ。

鷲崎氏は「早稲田大学を代表機関として、共同申請の13大学ならびに多くの企業や業界団体と連携する形で、AIやIoTを中心としたデジタル技術およびその周辺にある組織と社会、ビジネスと価値、基盤技術、プロセスからなる体系的な育成を図っています」と、その概要を語る。

AI・IoTを中心としたデジタル技術と周辺

AI・IoTを中心としたデジタル技術と周辺

そこで育成を目指す具体的な人材像として、大きく次の3つが示されている。

  • 組込み・IoTプロフェッショナル
  • システムオブシステムズ・品質アーキテクト
  • クラウド・ビジネスイノベーター

「組込み・IoTプロフェッショナル」はビジネスやイノベーションを見据え、センサ群とクラウドを組み合わせたIoTシステムを設計構築する人材だ。

「システムオブシステムズ・品質アーキテクト」はシステム群から全体を構成し、セキュリティを含む多面的品質評価、ビッグデータ分析を通じて改善を図る人材である。

そして「クラウド・ビジネスイノベーター」はビッグデータに対してAIを適用することで未来を予測し、クラウド上での適応的なサービス提供やビジネスモデルのデザイン&検証を担っていくリーダーだ。

これを支えるスマートエスイーの学習体系は、通信・物理、情報処理、アプリケーション、ビジネスといった階層からなり、受講者はそれぞれの希望に応じて科目を選択できる仕組みとなっている。「あとはその中で自分が特に深掘りしたい領域に集中的に取り組んでいくことが可能なカリキュラムとなっています」と鷲崎氏は強調する。

スマートエスイーが目指す具体的な人材のイメージ

スマートエスイーが目指す具体的な人材のイメージ

領域を超えた発想や思考ができる
人材を育てる

スマートエスイーの特徴をさらに詳しく見てみよう。

まず注目すべきは、前述した通信・物理、情報処理、アプリケーション、ビジネスといった領域をまたいで、特に「データを扱う」という観点から循環的かつ総合的なアプローチをフルスタックで学べるようになっている点だ。

例えば物理・通信の領域ではIoTやクラウドの基盤、センサといった科目が、情報処理の領域では機械学習や深層学習、ビッグデータ、さらに推論や自然言語処理といった科目が配置されている。また上位層のアプリケーションの領域に目を向けると、アーキテクチャや品質エンジニアリング、組込み、クラウド、セキュリティ、プライバシに関する科目が取り揃えられている。さらにビジネスの科目ではIoTとシステムズアプローチ、イノベーション、ビジネスモデル仮説検証といった科目が充実している。

重要なことは、これらのカリキュラムが「シームレスにつながっている」ことである。「特にビジネスや価値とのつながりを徹底的に意識するとともに、受講者がその内容をそれぞれに深めていけるプログラムとなっています」と鷲崎氏。

各領域をまたいだカリキュラムが用意されている背景には、日本においてイノベーションの阻害要因となっている「領域の壁」を打破していくという狙いがある。「これまでは細分化された専門領域の中で、理論やエンジニアリングを深めていくことが良しとされてきました。それはひとえに高品質・高信頼性の製品を作って提供していくことが、日本企業の強みとされてきたからにほかなりません。しかし、今後はそれだけでは通用しません。多様な切り口から生み出される新たな価値で、ビジネスや社会課題の解決に貢献していかなければなりません。それを実現できるのは、領域を超えた発想や思考のできる人材なのです」と鷲崎氏は説く。

DX時代に必要な領域横断の技術体系と教育

DX時代に必要な領域横断の技術体系と教育

さらにスマートエスイーでは、前述の「領域の壁」の打破に併せて「組織の壁」も打破していくことを目指す。新たな価値を創出していくための鍵は、自社だけでなく異業種・異分野の企業や大学、研究機関、自治体などが垣根を越えて連携するオープンイノベーションにあるからだ。

スマートエスイーでは座学による講習に加え、チーム単位での演習を重視している理由がそこにある。異なる業界や組織から集まったメンバーが1つの課題に向き合う中から、さまざまな気づきやアイデアが生まれてくるのだ。

プロジェクト式の科目としてIoTシステム開発実習やグローバル開発実習などがあり、最後はその集大成として受講者の所属している企業が実際に抱えている業務課題を持ち込んで取り組む修了制作という科目も用意されている。座学で学んだ技術や知識を、いかにしてビジネスや社会の価値に結び付けていくのか、どうやってオープンイノベーションを起こしていくのかを、実践的な形で学びを深めていくわけだ。

「特にIoTやAIといったデジタル技術を活用していく上では、エコシステムの考え方が非常に重要となります。要するにある業界の企業が導き出した成果を、別の企業が異なるビジネスに応用していくといった、アウトプットをつないで発展させていくという考え方を、スマートエスイーは自然な形で育成していきます」と鷲崎氏は訴求する。

産学連携ネットワークで
「理論」と「実践」を両輪として学ぶ

スマートエスイーのもう1つの重要な特徴であり注目すべきポイントとして、産学連携のネットワークによって運営されていることが挙げられる。

大学はさまざまな技術について、その理論を体系的に教えることは得意としているが、こと実践に関してはどうしても機会が少なくなる。一方で企業は理論・技術の重要性を理解しつつ、その技術を実ビジネスでどれほど効果的に活用できるかを重視している。

「DX推進の担い手となる人材を育成するためには、この理論と実践を両輪として学んでいただくことが重要であり、そのためにスマートエスイーでは産業界と学術界の講師がペアを組んでティーチングにあたることを徹底しています」と鷲崎氏は強調する。

教育プログラムの継続的なブラッシュアップも重要である。たとえばAIに着目してみると、機械学習や深層学習などの技術は現在も激しいスピードで進化を続けており、次々に新しい理論やアリゴリズムなどが打ち出されてくる。一方で企業の目線に立てば、さまざまな技術に対するニーズや適用範囲もどんどん変化していく。たとえば製造業では「モノからコトへ」というキーワードのもと、従来の製品の売り切り型からサービス提供型へとビジネスモデルの転換を進めている。解決を目指す業務課題そのものが大きく変化していくのだ。

そうした中から生じていくズレやギャップを常に見直し修正し続けていかないと、どんなに優れた講義や演習もたちまち陳腐化してしまうことは避けられない。

そこでスマートエスイーでは、教育プログラムの改定にも産学連携であたっている。「3~5科目ごとに配置された領域リーダーのもと、連携大学により得られた教材レビューの結果や受講者の声を総合して理論と実践のあり方をふまえて改定すべきポイントをまとめて担当講師陣へとフィードバックおよび連携しています」と鷲崎氏は語る。

修了者は業界をリードする人材としての
認定や認知を得る

上記のような取り組みによって、スマートエスイーの教育プログラムは「先進的かつ実践的である」という特徴を維持し続けているのだ。その結果としてスマートエスイーは各官庁や業界団体からも高い評価を受けており、修了者はさまざまな認定や認知を得ることができる。

たとえば、スマートエスイーの正規履修は学校教育法の規定に基づく履修証明プログラムであり、文部科学省の職業実践力育成(BP)プログラムの認定も受けている。修了者はその大規模な産学ネットワークを活用して、大学院進学や共同研究などにも活躍の場が広がっていく。

また、厚生労働省の専門実践教育訓練給付金の指定を受けるほか、モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)が実施しているIoTシステム技術検定の上級を受験する際には、研修部分が免除される。そしてこの上級試験に合格した暁には、業界をリードする人材であることが世間に広く認知される。鷲崎氏によれば「スマートエスイー修了者で上級試験を受験した人は、結果として見事に多く合格しています」とのことだ。

なおスマートエスイーを正規に受講するには、20近い科目群のうちの10科目、120時間を履修する必要があるが、社会人でも履修しやすいようにほとんどの科目をオンライン化するほか、一部スクーリングの演習についてもWASEDA NEO 早稲田大学日本橋キャンパスという、東京駅からもアクセスの便利な教室で学ぶことができる。また主に平日の夜間や土曜日に開講しているとことも、社会人にとって学びやすいポイントだ。

学びやすさの工夫とスケジュール

スマートエスイーにはコンパクトに受講できるコース履修もある。コース履修には総合実践科目であるPBLや修了制作指導はないが、正規履修と同じ内容で13科目が開講される。また、座学部分は完全オンデマンド化しているため、時間と場所の制約なく自学自習が可能だ。また、グループワーク等を必要とする演習は土曜日にオンラインでリアルタイムに実施されるなど、直接指導を受ける機会もある。(コース履修は履修証明プログラムではありません。)

さらに演習部分についても正規履修・コース履修ともに遠隔で参加可能な体制が整えられているため、コロナ禍であっても外出自粛などの制約はほとんど受けることがない。「実機を伴わないグループ演習では、ZoomのブレイクアウトセッションやGoogleスプレッドシートといった共同編集可能なアプリケーションを活用しています。また、実機を伴う演習についても実機を全員に送り、自宅などで受講していただくという形をとっているため、基本的にオンラインで参加することが可能です」と鷲崎氏は説明する。

スマートエスイーへの参加を待つ鷲崎氏

スマートエスイーへの参加を待つ鷲崎氏

スマートエスイーの詳細については、PDFを参照ください。
PDFのダウンロードはこちら
「Impress Business Library」(インプレス・ビジネスライブラリー)に移動します

* * *

今後のDX、さらには超スマート社会時代を切り開いていくイノベーションを担う人材を志向されている方は、ぜひスマートエスイーという場を活かしてキャリアアップに臨んでほしい。

スマートエスイー : スマートシステム&サービス技術の産学連携イノベーティブ人材育成
https://smartse.jp/

著者
小山 健治 (こやま けんじ)
システムエンジニア、編集プロダクションでのディレクターを経て、1994年よりフリーランスのライター。エンタープライズIT分野を中心に、WebメディアやITベンダー各社のオウンドメディアのほか、ホワイトペーパーや事例記事などのカスタム案件で取材・執筆を行っている。

連載バックナンバー

運用・管理インタビュー

本当に役立つプロダクト開発を目指し、ユーザーとなる社内の営業に向き合う

2024/11/13
15分という限られた時間で印象を残すには? KDDIアジャイル開発センターの、アジャイルな営業ツール開発とは
設計/手法/テストインタビュー

現場の声から生まれた国産テスト自動化ツール「ATgo」が切り開く、生成AIを駆使した次世代テスト自動化の最前線

2024/11/6
六元素情報システム株式会社のテスト自動化ツール「ATgo」概要と開発の背景、今後のロードマップについて、同社の石 則春氏と角田 聡志氏に聞いた。

Think ITメルマガ会員登録受付中

Think ITでは、技術情報が詰まったメールマガジン「Think IT Weekly」の配信サービスを提供しています。メルマガ会員登録を済ませれば、メルマガだけでなく、さまざまな限定特典を入手できるようになります。

Think ITメルマガ会員のサービス内容を見る

他にもこの記事が読まれています