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  インタビュー

「新人教育向けカリキュラム」をステップボードに、さらなるマンパワーの強化・育成を加速(前編)

2024年1月25日(木)
工藤 淳

ネットワーク社会の広がりで、都市圏と地方の格差は縮まりつつあると言われるが、人材の採用・育成となると、まだまだ現実は厳しいと感じている企業がほとんどだろう。そうした中、東京に本社を置きながら2018年には富山県に新事業所を開設。さらに最近は研修・教育をそちらに集中させつつあるのが、クリエーションライン株式会社だ。同社では2022年、新しい「新人教育カリキュラム」による研修を、この富山事業所を拠点に開始した。その狙いや内容、受講者の声などを、前・後編の2回に分けてご紹介しよう。

●クリエーションライン株式会社 富山事業所
https://twitter.com/cl_toyama

冒頭の画像は、初雪を冠雪した立山連峰夜。今年は初雪が遅く、11月中旬頃の冠雪に。遠くから見てもその荘厳さには圧倒される。

きっかけは、リモート研修への不安の声に
「これではいけない!」

少子高齢化で労働力人口が減少する中、「人手不足」「人材獲得に苦労する」といった声は、IT業界もまったく例外ではない。とりわけ若手エンジニアの確保には、ベンダーからシステムインテグレーターまで、それぞれが知恵をめぐらせ工夫を凝らしている。

そうした中、東京に本社を置きながら、2018年に富山県内に新たな事業所を開設したのが、クリエーションライン株式会社だ。2022年1月に取材へ伺ったときは、富山出身の社員を中心に、地元愛・仕事愛にあふれたマネージャーや社員の皆さんから「体制が整っていよいよこれから!」という声を聞かせていただいた。

【前回の取材レポートはこちら】
●「富山への愛」から生まれた事業所ならではの自由闊達な雰囲気と抜群のチームワークが自慢(前編)
https://thinkit.co.jp/article/19354
●「富山への愛」から生まれた事業所ならではの自由闊達な雰囲気と抜群のチームワークが自慢(後編)
https://thinkit.co.jp/article/19382

その富山事業所が、2023年度から「新人教育向けカリキュラム」を新たに作成。2022年以降入社の若手社員を対象に研修を実施しているという。まずはその背景と狙いについて、富山事業所 所長の池田 卓司氏に伺ってみよう。

「実は現在、新卒者教育など、初めてクリエーションラインに入った人に会社のことを知ってもらい、教育ができる環境というのは、東京本社ではなくこの富山事業所にあります。その意味で富山は現在、私たちの新卒採用の強化地点となっているのです」(池田氏)

クリエーションライン株式会社 富山事業所 所長 池田 卓司氏

この背景には、やはりコロナ禍があった。ちょうどその時期に採用した社員が東京採用のうえにコロナ禍が重なり、入社式で出社して以降はリモートで研修を行っていた。当時はどの企業もそうした不自由に見舞われたわけだが、受講者からは「こんな教育で、本当に成長できるのか」と不安の声が寄せられたという。池田氏は「これはやはり変えないといけないと考え、自分なりに新卒教育のカリキュラムを作ってみようと思い立ったのです」と明かす。

ソフトウェア開発の基本スキルが身につく
カリキュラムを

さっそく2021年からカリキュラムの作成に取り掛かった池田氏は「富山事業所のエンジニアは、今どんなことをやっているのか」を振り返るところから入っていった。富山事業所はソフトウェア開発者集団なので、当然仕事はプログラミングがメインになる。だが、ひと口にソフトウェア開発と言っても、インフラやネットワーク、データ分析など、技術領域も求められるスキルも非常に多岐にわたっている。最初から内容を盛り込みすぎると新卒者の頭がパンクしてしまうと考えた池田氏は、「ソフトウェア開発の基本的なスキルが身につく」をテーマに、カリキュラムの具体的な構想を練っていったという。

「とはいえ、本当に基本だけだとプロジェクトに入った時仕事にならないので、自分で作ったソフトウェアをそこに乗せて動かすインフラを、自分たちでも作れるような教育というのも盛り込んでいます。中心はもちろんソフトウェアなのですが、それを動かす環境を作れる技術をということで、基礎中の基礎であるLinuxやWindowsのOSの基本操作やクラウド上でのインフラの構築実習。そして、今や常識となったDockerのコンテナ操作の仕方といった項目です」

その項目を選ぶにあたっても、漠然と「これは必要なもの」を列挙することはしなかった。一般にIT系の研修はインフラやネットワークの仕組みがこうで、それを使ってこんなことをする……といった網羅的な説明になりがちだ。だがそれだと初心者には、どこが押さえておくべきポイントなのか見当がつかず、学習がぼやけたものになってしまう。そこで池田氏は「現場に入ったときに必要な要素とは何か」「クリエーションラインの強みとは何か」を基にして、教育カリキュラムの計画を練ったと説明する。

本物のプロジェクトそのままの
PBL実習で大きな達成感

池田氏の奮闘の甲斐あって、新しいカリキュラムも無事完成。いよいよ第1回の新人研修が2023年4~7月に実施された。4カ月がかりとあって、中身もかなり充実している。4~6月いっぱいまでは座学が中心で、ときどき手も動かしながら基本の知識をしっかりと固める。そして7月からは、いよいよその知識が試される場だ。PBL(Project Based Learning)と呼ばれるプロジェクト型式の実習を1カ月にわたって進めていく。

「もちろん本当のお客さんのプロジェクトにはまだ入れませんが、実際のプロジェクトとほぼ同じ内容の研修です。まずこのプロジェクトの目的は何か、ゴールは、どういうスケジュールで何をするか。後は設計や上流工程なども経験しつつ、『プロジェクトとはこういうもの』を体感してもらう教育になっています」(池田氏)

今回実施したPBLの課題は、MongoDBに関する記事を受講者が書くというもの。この第1回の研修には新卒者が3名参加していたが、全員がそれぞれに記事を執筆した。もちろん、あらかじめ資料が全部そろっていて、それをまとめるのではない。記事を書くにはネタ=素材が必要だが、そこから全部自分たちで考えるのだ。

「記事に載せるプログラムを書くために、実際の設計にも挑戦させました。初心者ですから最初からできるとは思っていませんが、とりあえず経験としてチャレンジしてもらったのです。もちろんあれこれアドバイスもしますし、できあがったコードも正直まだまだです。でも彼らが本気で頑張ったのが伝わってきたし、本人たちもそういう意味での達成感が得られたと思っています」(池田氏)

「新しいビジネスを立ち上げる」をテーマに
3人で取り組む

新人教育カリキュラムを使った研修では、先輩社員が講師を務めている。第1回の研修を担当した十松 和生氏は、これまでも富山事業所のエンジニア教育の担当として、新卒者や中途採用者の研修の指導を手がけてきた。今回の新人教育カリキュラムは、十松氏にとっても初めての指導だったが、どのような点に留意したのだろうか。

「私自身エンジニアとしてのキャリアは2019年からなのですが、自分が1年目でいろいろなプロジェクトに加わって手探りで苦労した経験から、もし自分が当時こういうことを知っていたら良かった、これができたらすごく役立ったということをイメージして、それを受講者に教えてあげたいという気持ちがまずありました」(十松氏)

また新卒者3名のうち、2名は地元の富山だが、1名は東京からオンラインで参加。また技術系の学校の卒業者と文系出身者では、知識や経験にも差があることから、1人だけが置いていかれないように配慮したと明かす。

今回の研修では「ビジネスモデル仮説検証研修」と題して、新しいビジネスを立ち上げるのをテーマに取り組んでいった。これは以前、富山県と早稲田大学が共同で実施し、十松氏自身も受講した研修を選んで採用したという。

「そのときは自分で、エンジニアにもビジネス的な視点が必要だというのを学ぶことができたので、それを新卒者にも共有してほしいという気持ちで選びました。内容としてはまずアイディアを出して、それをシステムに落とし込むには、こういう技術を使えばできるというあたりまで考えてもらいました。いわゆる基礎研修というのは課題もそんなに面白くないので、こういう『何かつくる』という流れで進めるのが、学ぶ方も教える方も入りやすいかなと感じています」(十松氏)

クリエーションライン株式会社 富山事業所 十松 和生氏

この研修では、一方的に教えるだけでなく、講師も受講者も一緒に取り組む雰囲気があり、その結果モチベーション高く進められて雰囲気も良くなった。「それで3人とも仲良くなって、今大いに活躍してくれています」と十松氏は評価する。

研修を受けた若手が
次の世代を育てる好循環をつくりたい

今後の展望として十松氏は、単に上から教えて終わりではなく、この学びを伝える取り組みを次の世代に伝えるような循環が生まれれば嬉しいと語る。

「私自身まだ3年と経験が浅く、講師としてふさわしいかという気持ちはありますが、それをあえて引き受けることで、自分自身の力もあげることができると考えています。また、今回研修を受けてもらった若手が、この次は講師になって知恵や技術を伝えていくような循環が社内にできると、お互いに大きなメリットが生まれるのではと思っています」

一緒に成長できる関係性を築いて、それを会社の教育システムの中に取り組んでいければ、先輩と若手の両方にメリットが生まれる形で、有効に時間を使えるのではないかと十松氏は期待する。

* * *

次回の後編では、実際に研修を受講した2人の若手社員による感想や、採用・人事担当者に、それぞれお話しを伺います。

フリーランス・ライター兼エディター。IT専門出版社を経て独立後は、主にソフトウェア関連のITビジネス記事を手がける。もともとバリバリの文系出身だったが、ビジネス記事のインタビュー取材を重ねるうち、気がついたらIT専門のような顔をして鋭意お仕事中。

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