「富山への愛」から生まれた事業所ならではの自由闊達な雰囲気と抜群のチームワークが自慢(前編)
近年の働き方改革やダイバーシティへの関心が高まる中、一極集中の東京や大都市を離れて出身地で働こうと考える人も急増中だ。またそうしたU/I/Jターン組や現地採用を視野に入れ、あえて地方に事業拠点を起ち上げる企業も少なくない。OSSサポートや各種トレーニング、アジャイル開発推進に取り組むクリエーションライン株式会社は、2018年に富山県内に新たな事業所を開設した。東京に本社を置く同社が、なぜあえて富山県という離れた場所にビジネス拠点を置いたのか。その狙いや地方で働くメリット、そしてビジネスにおける新たな目標などを伺った。
●クリエーションライン株式会社 富山事業所
https://twitter.com/cl_toyama
なお、冒頭の画像は、雪の富山城だ。写真には写っていないが、すぐそばを流れる神通川に浮かんで見えることから「浮城」とも呼ばれた。
富山出身者たちの熱意から生まれた
「みんなが集まる拠点」
クリエーションライン株式会社富山事業所は、コロナ禍が始まる以前の2018年に、富山県富山市に現地出身者を中心として新たな事業所を開設。東京本社と連携して開発業務を手がける一方、地域社会や地元企業との新たな連携のためのビジネス創出を探っている。
これまでもメーカー系のITベンダーならば、地方の得意先に合わせて拠点を置くのは珍しいことではなかった。また最近は、コロナ禍によるリモートワークの拡がりをバネに、地方勤務のエンジニアなどのネットワーク構築を試みる例も増えてきている。
とは言うものの、クリエーションラインは、東京の本社もあわせて総勢約250名の会社だ。小回りの利く組織ならではのリモートワークの方が、フットワークも、またコスト面でも有利なのではと思ってしまうが、あえて富山県という離れた場所に拠点を置いた理由は何だろうか。富山事業所 所長の池田卓司氏は、ひとえに「富山県への愛」だったと設立の経緯を語る。
「ここを開設した人たちが富山出身で、地元への愛着が強くてついに事業所を設立したというのが発端です。実際に私も含めて社員には富山を始め北陸の出身者が結構いるんです。私も地元にいながら2012年から5年間、リモートワークで仕事をしてきました。そのうち同郷の人間も増えてきたし、みんなが集まる拠点が必要だなという話が出て、じゃあ作ろうかと、当時の上司たちが発案しました。社長も結構そういう軽いノリが好きなので、それなら作ったらいいよという感じで事業所開設が実現したのです」
もちろんそれだけではない。それまで東京だけに限られたビジネスエリアを拡大する第一歩として、また将来的に事業が拡大してエンジニアを増員するとなったときに、まずはこの富山を拠点に採用ネットワークを拡大していく目的もあったと池田氏は明かす。
事務所探しから人材募集まで
初めての経験を1人で乗り切る
池田氏が富山事業所の責任者を任されたのは、事業所立ち上げのときに「けっこう無理やり(笑)」だったという。もともと富山在住だった同氏は、2012年にエンジニアとして入社。東京に行く話もあったが、家族もいるし家も買ったしということで、ずっと地元からリモートワークで仕事をしてきた。それが事業所開設が決まったとたん所長に任命され、予算も渡されて事務所の立ち上げに奔走することになった。
「それまでずっとエンジニアでやってきたのが、自分1人で何をどうしていいのか全然わかりませんでした。とにかくあるのは部屋だけで机も何もないので、備品の購入から人事、総務まで全部、試行錯誤でやっていったのが始まりです」
まったくゼロからの起ち上げとあって、池田氏は物件探しからリフォームまでを1人でこなし、部屋を確保した次は最低限のインフラとしてインターネットを引いた。そうしてルーターも床に置いたまま、あぐらをかいてノートパソコンを叩き、少しずつ備品の購入を進めていったという。そんなわけで「2018年の事業所起ち上げ当初は、ほとんどエンジニアとしての仕事が手につかなかった」と振り返る。
奮闘のかいあって事務所の形が整ったら、次は人の手配だ。とりあえずハローワークに会社登録をして、求人票を出すことからスタートしたが、ここで池田氏は、人材獲得のために独自のアピール作戦を敢行した。
「登録や求人票のちょっとした変更などはファックスで済むのですが、ハローワークの担当さんに顔を覚えてもらうために、わざと毎回向こうまで足を運びました。それでクリエーションラインの池田というのをアピールしているうちに、何件か問い合わせが来るところまでこぎつけました。人事面でのちょっとした営業活動みたいなものですね」
やはりリアルのコミュニケーションは大事だと、このとき池田氏は改めて痛感したと言う。
初の新卒者向けオリジナルの
教育プランなどを作成中
池田氏は現在もプレイングマネージャーとして、マネジメントと開発の実務を兼任しているが、事業所の業務内容が充実してくるにつれて管理の仕事が増え、現在はマネジメントが業務の6割くらいを占めている。また自身も40歳を超えて、本格的に後進の教育に力を注いでいきたいと考え、具体的な取り組みを決めているところだと語る。
「2022年度には、3名の新卒者が富山事業所に入ってくる予定です。私たちとしても初めての新人教育ということで、教育プランの策定や教材作成をぜひ自分たちでやってみたいと思って、現在作業を進めています。ここで作った教育プランなどを、ゆくゆくは外販ビジネスなどにも展開できたらというもくろみも持っています」
池田氏は、さらにもう1つ教育関連の取り組みとして、プログラマー育成のための教育プログラムの企画書を練っているという。経験はほとんどないがプログラミングに興味がある人を集めて座学から始め、実際に社内で使ってもらうソフトウェアを開発する仮想プロジェクトまで、かなり長期にわたるカリキュラムだ。
「当社にはインフラ系の教育プログラムは複数あって外販もしているのに、社内向けのソフトウェア開発エンジニアの養成プログラムはまだないので提案したのです。よくあるテキスト通りにプログラミングして完成してOKではなく、実際にシステムとして動かすものを作って、ユーザーに提供するまでを経験させる実践的な内容を目指しています」
池田氏自身は、系統立った教育カリキュラムで誰かに教えてもらったという経験がない。プロジェクトの中で実務をこなしながら1つひとつ覚えてきただけに、自分がわかっていても、それをどう学ぶ相手に正確に伝えるのかという点で苦労していると語る。
「難しいですが、若い人を育てるのはマネージャーとして最も重要な仕事の1つです。この取り組みには、来年度もぜひ力を入れてチャレンジしていきたいと考えています」
県や早稲田大学との協働による
インターンシップなどに力を注ぐ
池田氏は富山事業所の今後について、「せっかく富山に根を張って活動しているのだから、地元の企業の皆さんと何か新しいことができたらいいと思っています。そのためにも、生活環境の面で非常に良い土地に住んでいるので、その良さが理解できる人をもっと増やして、そこから地元企業とのつながりを増やしていくのが目標の1つです」と展望を語る。
そうした富山の良さに惹かれて地域に戻ってくる、いわゆる「U/I/J ターン」の人たちの取り込みに富山県は力を入れており、富山事業所も協力を依頼されているという。最近ではU/I/Jターン層を対象にしたセミナー用に、富山の良さや就職先をアピールするビデオメッセージの制作に加わった。またU/I/Jターンに限定せず、富山県内のIT企業の代表として、各産業をアピールするセミナーにクリエーションラインが登壇したこともあるとか。
「また学生向けには、早稲田大学と富山県が協力して新規事業創造プログラムというものを毎年開催しています。内容は、早稲田の学生と県内の企業がペアを組んで、富山県における地域イノベーションのアイディアを考えるというものです。このプログラムには学生のインターンシップも含まれていて、2021年の8〜~9月、当社もアピールを書いて参加しました。もう4年くらい続いていて、この年はコロナ禍でZoomで開催したのですが、皆さんの熱意が伝わってくる非常に良い催しになりました」
インターンシップでは、クリエーションラインの業務を知ってもらうのはもちろんだが、池田氏はそれにも増して、富山事業所の「いい雰囲気」を感じてもらいたいと強調する。クリエーションラインでは、もともとコアタイムのないフレックスタイム制度を実施しており、社員は自分のペースに合わせて出社すればよい。
「そういう会社の制度や文化そのものが、他の企業とは大きく違っています。それに加えてこの富山事業所はチーム同士の仲も非常に良いし、若手や中途入社の人にも周りの人が積極的に仕事を教えたり、支えたりする風土があります。ぜひ実際に来て、見て、話をする中で体感していただきたいと願っています」
最近では事業所のTwitterのアカウント宛に、ダイレクトメールで問い合わせが来ることもある。「ぜひ気軽に連絡して、私たちの富山事業所の良さをご自分の目で確かめてみて欲しいですね」と言う池田氏だ。
* * *
次回の後編では、富山事業所のスタッフの皆さんに、それぞれの仕事の詳しい内容や富山事業所の良さを語っていただきます。
●後編はコチラ↓
https://thinkit.co.jp/node/19382/
●取材を終えて
取材を通じて感じたことは、富山事業部が「チーム」としての活動を重視している点だ。教育プランの作成に力を入れているのも「長く気持ち良く働いてもらうために、置いてきぼりを作らない」という強い思いがあるからだ。そして、その思いが、池田氏の言う富山事業所の「いい雰囲気」の源泉となっているのだろう。
また、インタビューを通じて、池田氏の所長としての優しさとリーダーシップ、静かながらも熱い思い、素朴な人柄の中にも芯の強さを感じることができた。富山事業所には、未経験でもしっかり学び、成長していける下地がある。エンジニア不足と言われる昨今、このような取り組みこそが課題解決に繋がるのではないか。(Think IT編集部:伊藤 隆司)
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