Open Source Summit Japan 2023から、金融業界における最新動向をアップデートするセッションを紹介
Open Source Summit Japan 2023から、The Linux Foundation配下の組織Fintech Open Source Foundation(FINOS)の概要を解説したセッションを紹介する。プレゼンターはFINOSのCTOであるJane Gavronsky氏だ。動画は以下から参照して欲しい。
●動画:Open Source is Transforming Financial Services
Gavronsky氏は過去の経歴としてクレディスイスやリーマンブラザーズなどの職歴を持つことから、金融業界のベテランと言えるだろう。LFに参画したのは2021年5月で、FINOSの創設時から関わっているようだ。この22分のプレゼンテーションの中で、あまり外部に出てこないFINOSのプロジェクトや業界の傾向と変化、そしてFINOSが行ったリサーチなどについて解説を行った。
FINOSのメンバーとして加入している企業について概略を語り、主に金融関連企業で構成されているが、GitHubやGoogle、Red Hat、SUSEなどのIT業界の企業もメンバーになっているのがポイントだろう。
その後、FINOSが行ったオープンソースソフトウェアの利用などに関するリサーチについても触れ、多くの金融関連企業においてオープンソースソフトウェアが大きな意味を持つようになってきていることを紹介した。サマリーの部分に書かれている内容を紹介すると、オープンソースソフトウェアは未来に対して価値があると考えている組織は90%近くにも及ぶという。またオープンソースソフトウェアに貢献することを禁止している組織の数は70%も減少したことなどが解説されている。
リサーチの内容については以下のURLを参照して欲しい。
そしてレギュレーションの影響で金融関連企業が公開されているソフトウェアにコードを提供することなどを禁止する組織が多くあったことは常識だったが、今や社内のエンジニアによるオープンソースへの貢献を禁止している企業は約5%まで減っていることを紹介した。
その後はFINOSが関係しているさまざまなプロジェクトや新しい試みについての解説となった。
オープンソースソフトウェア利用のための準備ができているかを確認するためのガイドであるOpen Source Readinessや、オープンソースソフトウェアの利用がどのぐらい進んでいるのかを判断するためのガイドであるOpen Source Maturity Modelなどを公開したこと、Open RegTechは規制が強い業界におけるオープンソースソフトウェアへの理解を深めるための活動、FDC3はFinancial Desktop Connectivity and Collaboration Consortiumの略で、FINOS配下のプロジェクトでアプリケーションとデータ、APIに関する業界標準を作成することを目的としているという。
単なるアプリケーションやミドルウェア、OSなどの標準を決めるだけではなく、金融関連企業がオープンソースソフトウェアに貢献する際のリスクなどを減らすためのトレーニングを開発しているのがユニークと言えるだろう。単にガイドとしてドキュメント化するだけではなく一歩進んでトレーニングと認定試験に昇華させることで、より多くの金融関連企業がオープンソースソフトウェアを消費するだけではなく貢献をするという立場に代わっていってほしいという強い意志を感じる施策だ。
またCommon Cloud Controls(CCC)という新しいプロジェクトについても簡単に紹介。これはCitiが開発したパブリッククラウド上に金融サービスなどを構築する場合の標準を決めるもので、それぞれのクラウドサービスごとに異なる実装となってしまうことで規制当局による監査が難しくなるという状況に先行して、クラウドプロバイダー間の差異をなくすためのスタンダードという内容のようだ。金融業界は常に規制当局との関係が重要であり、ベンダーの技術先行型の開発に乗って行ければ他社との競争に勝てるが、それはベンダーロックインに他ならないし、障害発生時には一蓮托生になってしまうということを規制当局から指示される前に標準化して、パブリッククラウド側に守らせようという発想のようだ。
そしてFINOSがホスティングしている主なオープンソースソフトウェアについては、CNCFのランドスケープとほぼ同じ仕様のFINOS Landscapeを使って紹介。
しかしプロジェクトの多くはあまり活発に開発されているとは言い難い状況のようだ。金融業界においても、業界特化のソフトウェアよりも活動が活発な多目的なソフトウェアを使うというのがデベロッパーをリクルートするうえでも重要ということだろう。
ここで業界最大手の金融機関におけるオープンソースソフトウェアの活用についても触れ、OSPOを立ち上げ、デベロッパーが開発に貢献できるように条件を緩和したことでリクルートにも役立ち、多くのプロジェクトへの貢献、CCCをリードする立場にまで変革が進んでいると紹介した。これはCitiの事例のようだが、タイトルにCitiの名前が使えなかったのは何かしらの事情があるのだろう。
最後にモントリオール銀行で行われたFINOS配下のプロジェクトに対するハッカソンを紹介。ニューヨークとロンドンで合計100名のデベロッパーと金融の専門家が参加したという。
約20分という時間の中でリサーチの結果、多くの新規プロジェクト、トレーニングや認定試験、そしてイベントを紹介するという難しいタスクをこなしたGavronsky氏だったが、欧米の金融関連企業がオープンソースソフトウェアに対して消費するだけではなく貢献を返す側になろうという姿勢を見せていることを感じる内容となった。金融機関向けのシステムを開発している日本の大手システムインテグレーターにも、ぜひ聴いてもらいたい内容のセッションであった。
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