徹底比較!!SaaS vs.パッケージ 4

ユーザにとってのベネフィット

ユーザにとってのベネフィット

   さて、ここまでは、SaaSおよびパッケージの導入・利用に対してユーザが支払うコストについてみてきた。単純なコスト比較で見ると、条件によって SaaSの方が有利な場合とパッケージの方が有利な場合とがあった。しかしビジネスにおいて、本来そのコストが高いかどうかはそれ単独で決まるものではな く、コストの対価として得られるベネフィット、つまりROI(Return on Investment:投資収益率)によって判断されるべきものである。

   まず、SaaSとパッケージがそれぞれユーザにどのようなベネフィットを提供するのかについて主なポイントを整理したものが以下の表5になる。


ベネフィット SaaS パッケージ
投資効率の良さ
(短期間・小額投資で回収できる)
導入期間の短さ
(ビジネスチャンスを逃さない)
柔軟な機能変更対応
(ビジネスチャンスを逃さない)
オンデマンドなサービス提供
(容量変化への対応)
大規模処理の高速性
外部システムとのデータ連携
セキュリティの確保
表5:ユーザにとってのベネフィット
(ベネフィットの大きさを便宜的に◎○△の3段階で表記)

SaaSの投資効率の良さが生み出す利益〜「Time is money.」

   SaaSが提供するもっとも大きなベネフィットは、その投資効率の良さにあるといえるのではないだろうか。すなわち、短期間でリターンが得られ、少額の投資でそれに見合う価値を得られることである。

   パッケージは、投資回収に時間のかかるモデルである。システムの初期構築に費用を投じてからそれがリリースされるまでに半年から1年かかる。その間 に、もしシステムが動いていたならば、ユーザ満足度の向上などに伴って得られたはずの売上増などに関して機会損失が発生する。また、一度作ったシステムは 基本的にそのままで、顧客ニーズの変化に対応して機能拡張などを柔軟に行えないため、新たな顧客価値を開拓していくことが難しい。

   高額な初期投資を回収するほどの価値を得られるまでに果たして何年かかるだろうか。投資に見合う価値を得る前に、次の投資が必要になる場合もあるかもしれない。

   これがSaaSの場合は、システム導入に着手して3ヵ月後にはサービス利用を開始できる。そしてその後も頻繁なバージョンアップで、顧客ニーズに応 じて柔軟に機能改善を行っていく。パッケージシステムの進化が止まっている間に、SaaSは次々に新たな顧客を獲得し、利益を生み出していることになる。 もともとの投資額も少額であるため、回収率が高くなる。

   改めて考えてみれば、必要な時に必要なものを提供する、ということの価値は極めて大きい。逆にいえば、必要なタイミングで提供されないサービスは価 値を持たないに等しい。例えば、今晩寝る場所を探している旅人にとって、今日泊まれないホテルなどまったく意味がないことは想像すれば容易にわかるだろ う。

   その点、パッケージシステムはどうだろうか。機会損失は目に見えないため、日頃強くは意識されないが、初期開発や機能改善に時間がかかっている間 に、通り過ぎていってしまった顧客や利益がいかに多いことだろうか。「Time is money.」ということを忘れてはいけない。

将来のビジネスチャンスを掴むというベネフィット

   日本郵政公社が、顧客問い合わせ管理システムを導入するに当たってセールスフォースを選択したことの理由の1つは、将来どのように変わっていくかわからないビジネスモデルに対して柔軟に対応できることであったそうだ。

   日本郵政公社のセールスフォースに対する初期投資コストは、先にみた通り総額で9億円ほどであり、パッケージと比較して絶対的に安いといえる投資額 ではないだろう。しかし、日本郵政公社はそれへの対価に値するものとして、柔軟に機能変更ができるというメリットを活かし、それにより他社に先んじてビジ ネスチャンスを掴めるというSaaSのベネフィットを買ったのだといえるだろう。このように、ROIの視点を持つとサービスの選び方が変わってくるのだ。

あらためてSaaSのコスト破壊力について

   コストというのは、単に出て行く一方のものではなく、必ず対価として効果や利益が生み出されるべきものだ。その意味ではハイスピードで立ち上げて柔 軟に機能変更しながらプラスの利益を生んでいくSaaSは、投資効率が良く、コスト競争力の高いサービスであるといえる。

   SaaSは、従来の「システム=資産」という概念を覆し、ROIを大幅に高めることによって、支払ったコストをあっという間に利益に変えていくこと を実現しつつある。そして、かけたコスト以上の利益を生み出していくことによって、結果としてエンタープライズITサービスの世界に「コスト破壊」を引き 起こそうとしているのだ。

次回は

   本連載の最終回である次回は、SaaSの現状課題とSaaSを含めたエンタープライズITサービスの今後・ビジョンについて検討する。

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