連載 [第51回] :
  月刊Linux Foundationウォッチ

LF ResearchがOSS開発者のキャリアアップに関する調査レポートを公開。カギは「新しいスキルの習得」と「ネットワーキング」

2024年12月27日(金)
吉田 行男

こんにちは、吉田です。今回は、Linux Foundationから公開された「オープンソース ソフトウェア開発者レポート」について紹介します。

【参照】オープンソース ソフトウェア 開発者レポート
https://www.linuxfoundation.jp/publications/2024/12/open-source-developer-survey-2024-jp/

このレポートはLinux Foundationに加入するメンバー企業/組織を中心に332名の調査対象者から集められた回答をまとめたもので、対象者(回答者)は「開発者、またはソフトウェア開発チームの管理者のいずれかで、ソフトウェア開発に関わるIT職に就いている」「⁠フルタイムまたはパートタイムで雇用されている(自営/学生含む)⁠、または失業中でIT職を探している」という基準を満たしており、また回答者が所属組織を代表して質問に正確に回答するのに十分な専門経験をもっていることも事前に確認されています。

興味深いのは「オープンソース開発者がキャリアアップと役割遂行に最も重要視していること」ということで、96%がOSSを利用しているという回答者は、キャリアップに対して「新しいスキルを習得する」「既存のスキルを向上させる」など、専門的な知識を深めたり、拡大したりすることが重要だという認識があるようですが、それだけではなく「他の専門家とつながる」といった、さまざまな専門分野にまたがるネットワーク作りやコラボレーションも重要であると認識しているようです。

具体的にもう少し詳しく調査の内容を見ていきたいと思います。この調査の回答者は、どのような方法で専門的な知識を獲得しているのでしょうか。下図のように重要なリソースとしてドキュメント(99%)やサンプルコード(89$)などが挙げられていますが、オープンソースイベント(72%)やミートアップ(63%)なども重要なアクティビティとして認識されているようです。これらがベンダーのトレードショーよりも上位に来ていることは、とても興味深いですね。

オープンソースイベントやミートアップでは、どのようなことが重要視されているのでしょうか。

下図にあるように、オープンソースイベントやミートアップでは「他の専門家とつながる」を一番重視しているようで、イベントで他の専門家と交流することで、開発者は学習の機会を得ることができます。ヨーロッパ出身で20年以上の経験を持つソフトウェアアーキテクトは「私は、イベントから戻ると、アイデアがいっぱいで、技術的なヒントや推奨事項をフォローアップしたくてうずうずしています」と回答しています。

また、オープンソースイベントは、開発者が「現在の役割において卓越した能力を発揮するため(59%)」「既存のスキルを向上させること(52%)」「新しいテクノロジーが業界に与える影響を理解すること(56%)」に役立つと回答しています。これは、オープンソースのイベントがスキル開発、知識習得、専門的なネットワーク構築のための包括的なプラットフォームを提供しており、キャリア アップの重要なリソースとなっていることを示していると言って良いと思います。

次に、開発者はオープンソースイベントに参加して、どのような価値を得られると考えているのでしょうか。

この調査は「モチベーション」「⁠インスピレーション」「⁠スキルの伝達」「⁠ベストプラクティス」「⁠コミュニティ開発」「⁠楽しみ」「⁠ネットワーキング」など多岐に渡っており、オープンソースへのより深い関与を促進する手段として効果的であることが分かります。特に「インスピレーションとモチベーションを見つけること」は63%、「⁠ネットワーキングの機会」は53%が高い価値または非常に高い価値があると評価しており、オープンソースイベントで得られる新しい知識と人脈を今後のキャリア形成につなげようとする傾向が表れています。

では、どのようなオープンソースイベントに参加しているのでしょうか。

下図にあるように、最も参加者が多いイベントは「KubeCon/CloudNativeCon」で、回答者の40%がこのイベントに参加した経験があると回答しています。次に、回答者の27%が参加した「Open Source Summit」、そして回答者の15%が参加した「PyCon」が続きます。KubeConの参加者は、このイベントについて「KubeCon Americasは、オープンソースが唯一の方法であると、私を完全に納得させてくれました」と述べています。

これだけ意義のあるオープンソースイベントですが、一般的にすべてのイベントに参加することは不可能だと考えられています。イベントへの参加を妨げる障壁としてどのようなものがあるのでしょうか。「参加費用」も大きな問題なのですが、地理的な障壁、例えば「イベントが遠すぎる、またはその地域では提供されていない」といった問題は特に大きな課題となっているようです。

最後に、今後「生成AI」がどのように影響してくるのかも大きな課題であると言えると思います。下図にあるように、生成AIは「継続的な学習と適応能力」「インタラクティブな学習プラットフォーム」「個別学習コース」で利用が検討されており、開発者の既知のニーズや予測されるニーズに具体的に応えるようになることを期待しているように思います。

このように、オープンソースに深く関わっている人たちが、スキルアップについてどのように考えているかを知ることができる、とても興味深いレポートとなっているので、スキルアップ等について興味のある方は、ぜひ、このレポートをお読みになることをお勧めします。

2000年頃からメーカー系SIerにて、Linux/OSSのビジネス推進、技術検証を実施、OSS全般の活用を目指したビジネスの立ち上げに従事。また、社内のみならず、講演執筆活動を社外でも積極的にOSSの普及活動を実施してきた。2019年より独立し、オープンソースの活用支援やコンプライアンス管理の社内フローの構築支援を実施している。

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