連載 [第52回] :
  月刊Linux Foundationウォッチ

Kubernetes誕生から10周年の節目に、LFが実務者の体験談や見解を集めたグローバルレポート「Kubernets 10周年」を公開

2025年1月31日(金)
吉田 行男

こんにちは、吉田です。今回は、Kubernetesが誕生から10年を迎え、この節目を記念して公開された「Kubernets 10周年」について紹介します。本レポートは、Kubernetesがソフトウェア業界の将来を形成し続ける中で、その影響と進化を理解するために、2024年8月にLinux FoundationがKubernetesの実務者から体験談や見解を集めたグローバル調査の結果レポートです。

【参照】Kubernets 10周年
https://www.linuxfoundation.jp/lfr_kubernetes10_110124a-jp.pdf

Kubernetesは、クラスタ全体にわたるコンテナ化されたアプリケーションの管理の複雑さに対処することを目的として開発された、デプロイ、スケーリング運用の自動化を提供するプラットフォームです。Googleの内部プロジェクトとして誕生しましたが、2014年にオープンソース化され、現在は15,000人のコントリビュータによって54万以上のコミットが行われているプロジェクトに成長しました。この目覚ましい成長は、すでにKubernetesがインフラの重要な役割を担っていることを浮き彫りにしています。

Kubernetesの最大の利点は?

Kubernetesを採用する最大の利点として、下図のように「拡張性(54%)」が一番に挙げられています。多くのアプリケーションは、需要に基づいてリソース割り当てを動的に管理する必要があり、そのような場面でKubernetesのメリットを最大限に享受できます。

次は「デプロイメントの自動化とDevOpsプラクティスの改善(48%)」で、Kubernetesは運用効率を向上させる継続的インテグレーションと継続的デプロイメントパイプラインをサポートし、これらのプロセスを合理化しますが、それだけではなく、さまざまなDevOpsツールとシームレスに統合して自動化を促進することで作業ミスを軽減できます。このあたりが評価されるポイントになっているようです。

【出典】「Kubernets 10周年」p.8

ソフトウェア導入プロセスの改善または悪化の理由

Kubernetesが、下図のようにソフトウェアの導入プロセスに改善を促進する要因として「デプロイメントの自動化(72%)」が挙げられています。前述したように作業ミスを軽減するメリットがありますが、皮肉にもKubernetesの学習の難易度が高く、複雑性や設定ミスを引き起こす可能性があるため、このデプロイメントプロセスに悪影響を与えると回答しているが65%もいることが分かりました。小規模なプロジェクトやチームでは、Kubernetesを効果的に管理するために必要な時間とリソースがメリットを上回る可能性があります。

【出典】「Kubernets 10周年」p.11

ソフトウェア開発プロセスの改善または悪化の理由

また、ソフトウェア開発プロセスという視点では、デプロイの速度が重要な改善として挙げられています。これは、アプリケーションのロールアウトを加速し、市場の変化に対する俊敏性と応答性を高めるKubernetesの能力を反映しています。KubernetesとCI/CDパイプラインの統合により開発プロセス全体が合理化され、新機能の市場投入までの時間が短縮されます。

もう1つの注目するべき影響としては「アプリケーションのパフォーマンス、信頼性、その他の非機能要件」です。また「標準化された開発プラクティス」も非常に重要です。開発者が別のチームに移動したとしても、標準化されていることで瞬時に生産性を向上させることができ、開発の速度が大幅に向上したという声もあります。

【出典】「Kubernets 10周年」p.14

Kubernetesの重要性と将来計画

すでにKubernetesはさまざまな環境でアプリケーションのデプロイとオーケストレーションのサポートに不可欠なツールとなっており、下図にあるように77%が「極めて重要」または「非常に重要」と回答しています。また、Kubernetesの重要性は76%が採用を増やそうとしているという事実からも明らかで「すべてのアプリケーションをKubernetesで実行するように移行する全社的なイニシアチブがある」と回答している企業もあるほどです。

【出典】「Kubernets 10周年」p.18

Kubernetesの改善状況

Kubernetesの進化も依然として止まっていません。特に「セキュリティ」「可観測性とモニタリング」「APIとCRD」「信頼性」などの主要な技術的な特性が改善されたと感じているユーザ80%以上も存在しています。それ以外にもさまざまな項目で改善を報告していますが「使いやすさとセットアップ」は依然として改善の余地があり、32%が現状維持または悪化したと回答しています。

また「新しい機能の習得」も依然として問題点として挙がっており、習得に時間がかかっているようです。これは、Kubernetesが技術的な能力を向上させている一方、教育面での改善が必要であることを示しています。

【出典】「Kubernets 10周年」p.20

Kubernetesの今後の課題

今後5年間で直面する課題としては「新規ユーザにとっての複雑さ(59%)」が一番に挙がっています。これは、何度も指摘しているように技術の習得の難しさが原因ではありますが、Kubernetesが学びにくい理由として、その本質的な複雑さと多くの概念を含んでいることにあると指摘しています。コンテナ化、オーケストレーションなどへの深い理解が求められ、初心者にとっては少しハードルが高いような気がします。

続いて「セキュリティに関する懸念(44%)」で、Kubernetesには、さまざまなコンポーネントのアクセス制限の管理、マイクロサービス間の通信のセキュリティ保護、コンテナの分離の確保など、独自のセキュリティに関する課題があります。

【出典】「Kubernets 10周年」p.23

このレポートには、この10年間に世界中の無数のITインフラの基盤要素となっているKubernetesが組織と個人の両方に与える影響を示しており、熱心な採用と利用拡大の計画は、この技術の明るい未来を表しているように見えます。しかしながら、習得の難しさ、セキュリティ上の懸念、人材不足などの課題は依然として存在していることを忘れてはいけません。

このように、Kubernetesに関連する話題が豊富に詰まったレポートとなっていますので、興味のある方は、ぜひ本レポートを読み、認識を新たにしていただければと思います。

2000年頃からメーカー系SIerにて、Linux/OSSのビジネス推進、技術検証を実施、OSS全般の活用を目指したビジネスの立ち上げに従事。また、社内のみならず、講演執筆活動を社外でも積極的にOSSの普及活動を実施してきた。2019年より独立し、オープンソースの活用支援やコンプライアンス管理の社内フローの構築支援を実施している。

連載バックナンバー

Think ITメルマガ会員登録受付中

Think ITでは、技術情報が詰まったメールマガジン「Think IT Weekly」の配信サービスを提供しています。メルマガ会員登録を済ませれば、メルマガだけでなく、さまざまな限定特典を入手できるようになります。

Think ITメルマガ会員のサービス内容を見る

他にもこの記事が読まれています