なぜスタートアップはシリコンバレーで始めるべきなのか Part 1

2015年1月9日(金)
藤川 幸一(ふじかわこういち)

また少し間があいてしまいましたが、前回の続きとして、シリコンバレーのスタートアップエコシステムについてもう少し書きたいと思います。

GoogleやFacebookに匹敵するような大企業を生み出そうと、シリコンバレーのようなスタートアップ環境を再現するようなプロジェクトが、日本も含めて世界中でたくさん進められています。しかし、シリコンバレーと同じことを実現するのはなかなか難しいようです。

シリコンバレーがシリコンバレーである理由、つまりこのように世界的に成功している企業を多数生み出すことができたのは、なぜでしょうか。私はそれを、今まで蓄積されてきたもの(歴史、資金、成功した人材、その周りのプロフェッショナル)が巨大な「環境(エコシステム)」を構成している点にあると考えています。このエコシステムがあるからこそ、新しい時代の流れから発生しつつある大きなイノベーションの周りに、優秀なスタートアップが多数集まります。そして、強豪揃いのなかでの厳しい生存競争に打ち勝った少数の企業こそが、本当に世界を変える企業になれるのです。

上記の条件をすべて満たすには、それまでの蓄積や実績、さらに世界一優秀な人材やスタートアップを集められるかどうかにかかっています。そのため、ウェブスタートアップの“Winner takes all”と同じように、先行者であるシリコンバレーを他の地域が超えるのは(キャッチアップでさえ)なかなか難しいと思っています。その主な原因は、シリコンバレーを目指している地域のいずれも、シリコンバレーほどの競争を起こせていないからと考えています。

そこで、どのような点がシリコンバレーのエコシステムを構築しているのか、少しブレイクダウンして見てみたいと思います。

共通意識

エコシステムを構成する要素として共通意識をトップに持ってきたのは、もちろん私がこれを一番大事だと思っているからです。「共通意識」というものは説明するのがとても難しいのですが、シリコンバレーのスタートアップに関わるすべての人々(起業家、投資家、従業員を問わず)のコモンセンスというように認識していただければと思います。

例えば「スタートアップにとって一番大事なことは何だ」と問われたら、彼らは「世の中にあるまだ解決されていない大きな問題を、自分たちが一番得意な方法でイノベーションによって解決する」という意味の答えを、それぞれの表現で返すでしょう。

またテクニカルな話であれば、資金調達については大まかには1回の資金調達で12~18ヶ月走ることができる金額を調達するのが常道なのか、といったこともあります。さらに詳細な話となると、スタートアップの形態(SaaSかECかレベニューが見えないB2C(!)か、など)によって、シード期、Aラウンド、Bラウンド、ミドル、レイターの各ステージでおおよそ達成しているべき基準や、その時点で調達可能な資金レンジなど、いくらでもあります。

実はこのような大きな話も細かい話も、シリコンバレーでスタートアップをやっていればある程度自然と身についてくることが多いのです。もちろん、こういった情報を公開するサイトもあり、VCや起業家による情報発信も行われています。ですが、シリコンバレーの外からブログなどを経由して情報を得るだけでは、おそらく身につかないだろうと思われます。なぜなら、その情報が正しいか正しくないか、肌感覚をもって判断できないであろうからです。そこがこの共通認識の一番の特徴であり、シリコンバレーに物理的にいなければいけない理由でもあります。

事実有力VC各社は、基本的にシリコンバレーのSand Hillと呼ばれる1本の通り(といっても郊外なので長いのですが)に自らオフィスをかまえています。さらに彼らがアーリーステージのスタートアップに投資する場合、シリコンバレーへの本拠の移動を要請することもあります。それほどシリコンバレーにいることは、重要視されているのです。

図1: 筆者撮影。筆者のオフィス近くでよく走っているGoogleの自動運転車。シリコンバレーでは、世界最先端のイノベーションのための試行錯誤をよく目にすることができる。

スタートアップの人材

カネやモノといったリソースが潤沢にないスタートアップにとって、いつでもヒト(人材)は非常に重要です。特にスタートアップの初期(10人程度まで)に参加する人が、上記のスタートアップの共通認識を持っていないと、目指す方向性を一致させるのに非常に苦労します。また、スタートアップを成功させる上でも、そのようなマインドセット(常に小さな失敗をするのが当たり前であり、計画通りにはなかなか行かない、その中で常に最善手を選んで力強く実行していけるか、など)とその実行能力を持っていないと厳しいです。スタートアップは、まだこの世にあまり認められていない価値を実現しようとしているので、そのチャレンジも難しくなります。

幸いなことに、シリコンバレーには起業家、従業員もしくは投資家としてスタートアップに関わった体験のある人材が山ほどいます。もちろん彼らは、共通意識を持っています。また、限られたリソースと難しい状況で、いかに力を出して事業を進めていくか、ということも経験として知っています。

人材において重要なのは、この連載のテーマであるように常に「ものづくり」ができるエンジニア、デザイナー、プロダクトマネージャ等ですが、それ以外のマーケティングや営業などの職種でも他のスタートアップでの経験があれば大きな戦力になります。

ここでいう「ものづくり」とは、もちろんプロダクトを作り出せる能力です。物理的なモノを作るわけではありません。最近はモノを作るスタートアップも増えてきましたが、彼らの作っているものは、もちろん「プロダクト」そのものです。

シリコンバレーでは、過去から現在まで常に競争が続いています。これはつまり、成功または失敗したスタートアップに関係した経験のある専門的な従業員候補が多いということです。これも、シリコンバレーの大きなアドバンテージになっています。

さらに、シリコンバレー外からもたくさんの超優秀な人材を引き寄せています。そのような人たちにとっては、シリコンバレーはチャレンジし甲斐のあることがたくさんある場所です。加えて、優秀なものづくりができる人々には(あとビザが取れそうであれば)他の地域に比べて大きな報酬を得られる、というのも魅力です。

この点については、次回(来週掲載予定)のPart 2で詳しく説明します。

著者
藤川 幸一(ふじかわこういち)
FlyData Inc.
学生時代からStartup (電脳隊・PIM)に関わり,PIMがYahoo! JAPANに買収された後は,エンジニアとしてYahoo!モバイルを開発。アジャイル開発コンサルやデリバティブ取引システムなどの開発経験を経て,シリウステクノロジーズでテクニカルマネージャ&夜はIPA未踏人材育成事業でHadoopのミドルウェア開発プロジェクト。日本JRubyユーザグループ発起人。
シリウスがYahoo! JAPANに買収されたのを機に,2010年FlyData Inc.(旧社名Hapyrus)をUSにて起業。カリフォルニアSunnyvale在住。
Twitter:@fujibee

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