多階層ネットワークが抱える問題
ネットワーク・トラフィックの変化
クラウド・サービスの基盤となる、設備やネットワークなどのインフラは、どのようなものでしょうか。おそらく皆さんがイメージしているのは、従来のデータ・センターを拡張したようなものではないでしょうか。
「クラウドとは、従来のデータ・センターのインフラ設備をベースにしながら、サーバー・リソースやアプリケーションなどをユーザーに対して動的かつ迅速に割り当てる機能を与えたもの」。このようなイメージを持っているのではないでしょうか。
クラウドを支えるインフラとは、クラウド・サービスを作り出す、あるいは展開するためのメカニズムと言えます。「使いたいときに、使いたいだけ」という利用形態が基本となるため、これらのインフラは複数ユーザーによって共有されるのが前提です。つまり、新しいビジネス・モデルやインフラ・モデルへと変化しているのです。
こうした、ネットワーク利用形態の変化に、既存のネットワーク・インフラは、柔軟に対応できるのでしょうか。
1980年代を振り返ると、クライアント・サーバー型(C/S型)のアプリケーションが主流でした。このモデルでは、大多数のネットワーク・トラフィックは、エンドユーザーのクライアントPCと、データ・センターにあるサーバー機との間で発生していました。
C/S型では、業務アプリケーションが稼働するサーバー機とデータベース・サーバーが同居し、ストレージが直結(Direct Attached Storage)しているのが普通でした。これらの間の通信にネットワークを介する必要がありませんでした。ネットワーク機器にトラフィック負荷を与えるネットワーク通信は、主にデータ・センターの出入り口となる部分で発生するものだったのです。
しかし、この10年間で、Webアプリケーション・サーバーやSOA(サービス指向アーキテクチャ)などの普及により、アプリケーションのアーキテクチャが進化しました。こうして、アプリケーションやデータは、データ・センター内に分散配置され、個々のサーバー同士がコミュニケーションのためにネットワークを使うようになりました。
ストレージも、ネットワークを介して、多くのサーバー間で共有されるようになりました。結果、ネットワーク・トラフィックに根本的な変化が起こりました。ネットワーク・トラフィック全体の75%以上がデータセンター内部の通信となり、データ・センターの出入り口の通信は、わずかに25%となりました。
図2: アーキテクチャの変化とデータ・フローの変化 |
ネットワークの単一化が求められている
アプリケーションのアーキテクチャが変化したことに加えて、サーバーとストレージの性能が大きく進化していることも、データ・センターに求められる要件を変化させています。
サーバー機の性能は、同じコストであれば24カ月(2年)単位で倍増しています。ストレージの進化はさらに急で、同じコストであれば18カ月ごとに容量が倍増しています。つまり、サーバー性能やストレージ容量の確保が容易になってきています。
この一方で、サーバーやストレージを設置するスペースや消費電力、冷却コスト、およびこれらの管理にかかわる人件費などの運用コストは、増加し続けています。つまり、データ・センターにおける運用コストの課題に対処することが急務となっているのです。
運用コストの削減に対しては、サーバーにも、ストレージにも、技術的進化がみられます。
サーバー分野やリソース分野では、ロード・バランシング(負荷分散)や仮想化などの技術を使って、コンピュータ・リソースの統合化/グループ化が進んでいます。リソース・プール化が進んでいるのです。
こうした時代に必要なのは、リソースを統合してプール化するために適した、単一化されたネットワークです。サーバーやストレージからの、刻一刻と変化する要求に対処できる、共有リソースを用いた単一のクラウド・ネットワークです。そして、それは、効率化と規模の経済を促進するネットワークです。
つまり、「新しいネットワーク」が必要なのです。