自分たちの「運用」を知る - 運用設計の本質
「運用設計」とは何か
「運用設計」という言葉は、運用現場で日常的に使われている割には「その実体がはっきりしない」という不思議な言葉です。では、「運用設計」とは何なのでしょうか。
「運用設計」の中身
「運用設計」とは、「各現場に適した、運用業務の枠組み(フレームワーク)を作り込むこと」と考えると、実際の仕事の内容を捉えやすいのではないでしょうか。
「フレームワーク」という言葉は、世間一般に「物事を整理する手法」という意味で使われているようです。この意味と共通する「客観的な立場に立ち、科学的/論理的手法を用いて分析し、継続的に見直しサイクルを構築する」という意図を、ここでは込めています(「KAIZEN」の概念に極めて近い、という指摘を受けたことがあるので、それなりの妥当性はあるようです)。
つまり、「運用設計」とは、個々の運用現場に特有の「事情」を念頭に置きつつ、その運用現場の業務のために、下記の性質を全て備える「フレームワーク」を作り上げること、と考えられます。
- 客観的な立場
- 科学的手法による測定(実績などの見える化)
- 論理的手法による分析(モデル化)
- 継続的な見直しサイクル
このときに、一貫した設計思想を基に、運用現場にとって効率的で分かりやすい「フレームワーク」を作り上げることが正しい「運用設計」であり、それを実現するのが「運用のプロ」の仕事なのではないでしょうか。
「運用設計」が無い現場はどうなるのか
では、「運用設計」を適切に実施していない運用現場は、どのような状態に陥ってしまうのでしょうか。以下のような状況になると考えられます。
- 意見や分析が主観的になる
- 感覚値で論じられることが多くなる(非科学的)
- 論理的な議論ができず非合理的な結論になりやすい(非論理的)
- やりっぱなしになる(非サイクル性)
残念ながら、「どこかで見た光景」と感じる方もいらっしゃるでしょう。もし、そうであれば「運用設計」を見直す意義は大きいでしょう。
「運用設計」の目的と本質
以上、「運用設計」とは何なのか、について分析してきましたが、そもそも「運用設計」の目的とは何なのでしょうか。
それは、「高負荷、属人的、見えぬ費用対効果」という運用現場が困ることを決して招かない「仕組みを作ること」です。
以下の3つの仕組みを、それぞれの運用現場の実情にあわせて作り上げる必要があります。
- 業務の「複雑化を許さない」仕組み
- 業務の「ブラック・ボックス化を許さない」仕組み
- 「業務価値の陳腐化を許さない」仕組み
運用設計の目的1. 業務の「複雑化を許さない」仕組み作り
運用現場の「高負荷」には、質と量という2つの側面があります。「量的な高負荷」に対しては、やや安直ですが、人を増やすことによって短期的には解消できるでしょう。一方、業務の複雑さに起因する「質的な高負荷」は、容易には解決できません。
運用設計の第1の目的は、こうした質的な高負荷を招かないために「業務をシンプルに保つこと」となるでしょう。「シンプルな業務」は、必要なスキル・セットやツール仕様の決定を容易にし、作業品質の安定、業務スケーラビリティの向上など、多くの恩恵をもたらすでしょう。
運用設計の目的2. 業務の「ブラック・ボックス化を許さない」仕組み作り
運用現場の「属人化」には、次の2つの意味があります。(1)定常運用のような「ブラック・ボックス化が許されない」領域と、(2)非定常運用や運用設計などのように、担当者の「ノウハウや個性」が期待される領域、です。運用現場において大きな問題になるのは前者です。事業継続性リスクを生み出すことにつながります。
運用設計の第2の目的は、「属人化が許されない領域」において、「常に業務が見える」状態を維持すること、になるでしょう。「常に見える業務」は、業務の効果測定や継続的な改善を容易にするとともに、運用メンバーの業務負荷平準化、要員の退職による事業継続性リスクの低減、対外的な業務説明責任能力の向上など、多くの恩恵をもたらすでしょう。
運用設計の目的3. 「業務価値の陳腐化を許さない」仕組み作り
「費用対効果」については、「費用」と「効果」で性質が異なることを考慮する必要があります。一般的に、「費用」は、何らかの事情が無い限り、時間が経過しても一定のままです。一方、「効果」は、時間の経過とともに経年劣化していくのが普通です。この経年劣化は、「技術の進歩による業務の陳腐化」や「運用の受け入れ当時は喜んでいたユーザーが、時間の経過とともに、だんだんそれが当たり前と感じてきている様子」などにより具現化していきます。
運用設計の第3の目的は、運用の「効果」を経年劣化させずに、少なくとも、その「効果の価値を維持すること」になるでしょう。可能であれば、その「効果」を増進させる必要もあります。これは非常に難しいことだと思いますが、現場視点からのサービス提案や改善提案などによって新たな業務価値を生むことができれば、運用現場のみならず、メンバー個々人の評価向上など、その運用現場で働く人々に多くの恩恵をもたらすでしょう。
図5: 「運用設計」の目的(クリックで拡大) |
これら3つの仕組み作りを追求し、「サービスの安定、業務負荷の平準化、運用に対する評価の適正化」を実現することが、「運用設計」の本質ではないでしょうか。
「運用設計」の副次的な効果
「運用設計」を適切に実施して「客観的な立場に立ち、科学的/論理的手法を用いて分析し、継続的に見直しサイクルを構築」した場合、目に見える効果が出るまでには時間がかかるでしょうが、これとは別に、以下の3つの副次的な効果が期待できます。
- 1. 運用のステークホルダー間の共通言語の醸成
- 「運用設計」により運用業務を明文化することで、その運用現場に関わるステーク・ホルダー間で「共通認識」が確立され、同じ前提の上で議論できるようになります。
- 2. 現状と理想の差分の明確化
- 「運用設計」において、論理的・合理的な「理想」を描き、科学的手法を使って「現状」を測定することで、現状と理想の「差分」が明確になります。この「差分」を改善サイクルで解消していくことによって、より理想に近付けることができます。
- 3. 環境変化に柔軟に対応できる運用体制の構築
- 「運用設計」は、運用業務全体の「見える化」を実現します。これは、変化に対応するために必要な変更ポイントを明確にします。これにより、迅速で柔軟な対応が可能になります。
「運用方法論」の全体像
第1回では、以下の2点について解説しました。
- 運用方法論の目的(「安定して、楽で、評価される運用」の実現)
- 運用現場の問題点の分析(3つの「問題点」と3つの「要因」、「運用でカバー」による弊害)
今回の第2回では、以下の2点について解説しました。
- 運用現場の問題点の分析(「要因」解消のための3つのポイント、解消サイクル)
- 運用のフレームワーク化(運用設計アプローチ、「運用設計」とは何か)
これらを含めて「運用方法論」の全体像を示すと、図6のようになります。
図6: 「運用方法論」の全体像(クリックで拡大) |
前述した通り、「運用設計」とは、「各現場に適した運用業務の枠組み(フレームワーク)を作り込むこと」です。
しかし、ゼロからフレームワークを作り込むことは、改善までなかなか手の回らない運用現場においては、非現実的と言えます。各現場での「フレームワーク」のひな型となる実践的な運用設計リファレンス「運用フレームワークfwop」を、筆者を含む有志による「運用研究会」では、継続的に検討・議論しています。
次回は最終回
本連載の最終回となる次回は、「運用フレームワークfwop」を中心に、運用設計の今後について展望していきます。