100Gイーサネット回線の利用例、今後の期待と課題

2013年10月4日(金)
中島 英規田中 雄作

データセンター間接続への100GE回線の利用

近年のサーバー仮想化技術の進化とデータの大容量化により、データセンターを跨いだサーバーリソースの移動、データのトランザクション、バックアップ処理等のトラフィックへの対応がデータセンター間接続で求められています。現在、これに対処するため10Gイーサネット回線が複数本使用されているケースが多いのですが、新たな選択肢として100Gイーサネット回線を活用することができます。そして100Gイーサネット回線でのデータセンター間における接続法として現時点で2つの方式が考えられます。

1つ目は、100GBASE-LR4インターフェースを使った拠点ルーターによる拠点間直接接続です。この方式では10Gで既に同様の方式を使っている場合、既存の光ファイバー(シングルモード)を活用しルーターのインターフェースのアップグレードのみで対応することが可能なため、最小限の追加投資で導入が可能というメリットがあります。しかしながら100GBASE-LR4ではサポートされている伝送距離が現時点で最大10km、構内のコネクタ損失等を考慮すると実際に伝送可能な距離は半分以下になる可能性があるため、適用できる場所が限定されるというデメリットがあります。
一方、伝送距離の長い100GBASE-ER4(最大40km)トランシーバーは一部のメーカーで出荷が始まったばかりのため業界での評価はこれからであり、価格も非常に高価なため普及までには時間を要します。さらには、いずれの場合においても損失・反射・光分散(PD)・偏波分散(PMD)が一定の範囲内に収まるよう、ユーザーは拠点間接続に利用するシングルモード光ファイバーの品質を自身で管理する必要があります(下図4参照)。

図4:コアルーターによる拠点間接続(クリックで拡大)

2つ目の手段としては、拠点間の伝送路は通信キャリアの100Gイーサネットサービスを利用し、各拠点のキャリア終端装置(NTU)と100G対応ルーターを100GBASE-SR10で構内接続(構内距離=100m以内)する方式です。 この場合拠点間の品質は通信キャリアによって設置された伝送装置等により確保されるため、100Gイーサネット回線の導入を検討しているユーザーにとってはハードルが低い方式であるともいます(下図5参照)。

図5:通信キャリアサービスを利用した拠点間接続(クリックで拡大)

ユーザーからみた100G回線導入における現時点での課題点

ユーザー目線で100Gイーサネット回線における課題を考えた際、まず気になるのは価格です。一般的な100G対応ラインカードとCFPを組み合わせたポート単価は現状400万円~800万円(SR10またはLR4を想定)といわれており、100GBASE-ER4が必要な場合はさらに高額になります。ラインカードやルーティングエンジンの冗長化など構成にも依存しますが、ルーター1台としての価格は10Gベースの構成と比較して2倍以上~3倍近くなってしまいます。拠点間を100Gイーサネット回線で冗長化した場合、合計4台のルーターが必要であることを考えると、ユーザーへの負担は大きく、100Gイーサネット回線を採用するメリットと投資負担の検討に慎重にならざるを得ません。
現時点で最も安価である100GBASE-SR10においても、前述の通り20芯のマルチモードファイバを割り当てなくてはならず、ケーブリングのコストが別途必要です。従って既存のケーブリングが流用可能なインターフェースのコストダウンが今後求められるでしょう。

次に運用面での懸念ですが、第2回の技術詳細で述べた通り100Gイーサネット回線では1G/10Gの単一波長での信号伝搬とは異なり、複数の光波長を多重(SR10 = 10G x 10波長、LR4 = 25G x 4波長)して100G化による信号劣化を最小化しているため、障害発生時に波長単位レベルの状況測定・監視が要求されますし、複数波長内のどこで障害が発生しているのか、またその波長の障害がインターフェースに与える影響、復旧方法等もこれまでの単一波長よりも繊細な配慮が必要です。

100Gイーサネット回線導入に向けての今後への期待

先に述べた通り、今後は100Gインターフェースのコストダウンとともに、LAN・WAN内でのさらなる伝送距離の延長や、従来の1G/10Gとは異なった光信号の伝搬方式に対応した運用・管理インターフェースの向上が期待されます。 

コスト面の課題においては業界にて100Gイーサネット回線の新サービスや導入をサポートするサービスが出始めています。例えば、KVHでは国内初となる100ギガビットイーサネットネットワークサービス「KVH 100Gイーサネット専用線サービス」をメトロエリアにて2013年3月より提供を開始し、さらには、本ネットワークサービスとシスコシステムズの100Gbps対応ルーター「Cisco ASR9000シリーズ」をバンドルした「100Gネットワークアップグレードパッケージ」を2013年8月より開始しています。2年契約時の月額費用は500万円~となり、これまでイニシャルコストの高さを考慮して100Gへの移行を躊躇していた企業に最適な選択肢を提供しています。

また、実現されるのは少し先の話になりますが通信事業者の間ではSDN(Software Defined Network)をWANサービスと融合して新しいサービスを提供しようという動きがみられます。現在クラウド事業者が仮想サーバーによって実現しているコンピューティングリソースに対する柔軟な利用形態や時間単位での課金等を、ユーザーのデータトラフィックに対しても適用できないか検討を始めています。このような迅速性・柔軟性が高いレベルで求められる環境において、WANの部分にギガビットクラスの専用サービスに使用されているOTNとイーサネットを同時に処理できるテラビットクラスのファブリックをサポートした100G対応スイッチが適用されることで、さらに広範囲なサービスクラスと帯域をダイナミックに割り当てていくことが可能となります。そして100Gイーサネット回線は通信事業者のコアネットワークに必要不可欠な存在となり、最終的にエンドユーザーはこれまで得られなかった魅力的なサービスを選択できるようになることが期待されています。

KVH株式会社

KVH株式会社 システム&テクノロジー本部 ネットワークストラテジー&アーキテクチャ部 エキスパート。入社以来、レイヤ1-2を主としたネットワークサービス開発に従事。これまで、メトロWDMおよびイーサネットプラットフォーム導入と基盤ネットワーク構築、各種ネットワークサービス開発を行う。現在は、伝達レイヤの統合化および開発に取り組んでいる。

KVH株式会社

KVH株式会社 事業開発本部 スペシャリスト。2003年入社以来、金融系顧客をターゲットとした低遅延イーサネット回線、広域イーサネットのサービス開発業務、ならびに国内外のネットワーク展開プロジェクトに従事。現在は専用線、イーサネット回線、VPNサービスのプロダクトマネージャーを務める。

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