“スタートアップ”の正しい意味を理解していますか?
創業者(ファウンダー)がエンジニアであることの意味
このように、スタートアップにはプロダクトが不可欠なので、それを作ることができるソフトウェアエンジニアが必要である、ということはわかります。であれば、かつて日本でもよく見られたように、ビジネスが出来る創業者がエンジニアを社員にして、もしくは外注して、プロダクトを作ればいいのでしょうか(さすがにこのへんの認識は、現在は日本でもかなり変わってきていると思いますが……)。
シリコンバレーでは、創業者チームは2〜3人で少なくとも1人はエンジニアが必要だと思われています。そうでないと、おそらく投資を受けることが出来ません。さらに、CEOとなるトップはエンジニアであることが好ましいでしょう。これは、一言で言えばファウンダーはそのスタートアップそのものを表していて(このことは後のステージになっても変わりません)スタートアップ(つまりプロダクト)に魂を込めて生み出し続けるのはエンジニアにしかできないからです。逆に言うと、MBAホルダーに代表されるビジネスパーソンは、既存のビジネスをうまく回すことは長けているでしょうが、新しいプロダクト・ビジネスを生み出すことができるか、というと難しいでしょう※3。
特に初期は、小さなチームでリーン・スタートアップに代表される細かい検証・フィードバックループを素早く回していくことになります。その際にファウンダーたちは、自分たちが実現したいビジョン(解決したい問題)を正確に把握して、プロダクトによってそれを解決する必要があるのです。ファウンダー以外の誰が、それをやることができるでしょうか。
[※3] 誰にとっても難しいです。でも、プロダクトを生み出すことで可能になります。シリコンバレーでは、よくアイデアには価値はなく、実行にのみ価値がある、と言われます 。
またこのループは、スタートアップが大きくなってからもずっと続いていきます。シリコンバレーは世界中の能力のあるソフトウェアエンジニアが集まっている場ですが、特に優秀なエンジニアは激しい奪い合いになります。これがシリコンバレーのエンジニア給与を高騰させる原因なのですが、世界を大きく変えるようなスタートアップが多数あるこの場所では、エンジニアこそがその一番大きな原動力なのです。
その際に、最も優秀なエンジニアを惹きつける最大の理由は何でしょうか。私は、尊敬できる素晴らしいエンジニアがその会社に大勢いることだと思います。それにより、気持よく仕事が出来ますし、自分の能力を切磋琢磨して向上させられます。そのような環境を、エンジニア経験の無い人が作るのはなかなか難しいでしょう※4。
さらに、継続的な成長には継続的な製品開発が不可欠です。開発環境や重要かつ技術的な最終判断、機能の優先順位など、それにより会社の運命が左右されることも少なくありません。これも、エンジニア出身のトップが責任をとれる、ということは大きな意味があるでしょう※5。
このようにシリコンバレーのスタートアップにとって、エンジニアがファウンダーであることの価値は計り知れません。その一方で、エンジニアが生来不得意で、会社の経営に重要なことももちろんたくさんあります。その辺りをシリコンバレーの生態系がどのようにカバーしているかを、次回お話しようと思います。
[※4] 最初に素晴らしいエンジニアを1人確保するのが大変です。ニワトリと卵問題ですね。つまりファウンダーであるエンジニアは、エンジニアリング的にも優秀であるのがベストです。
[※5] もちろん、これらはCTOまたはVP of Engineering(技術部門の現場代表)の役割ですが、ファウンダー(もちろんそれがCTOでも構いません)ができる・もしくはわかることでスタートアップのスピードは一段と増します。継続的な成長にはスピードが命です。
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