愛知県から世界へ! 日本最大のオープンイノベーション拠点「STATION Ai」がグランドオープン
10月31日、日本最大規模のオープンイノベーション拠点となる「STATION Ai」がグランドオープンし、オープニングセレモニーが開催された。名古屋駅から中央本線で2駅、徒歩10分の駅近にある。鶴舞公園や鶴舞中央図書館、サッカーグラウンドが隣接しており、全国各地からのアクセスも良い。
本記事は2部構成となっている。前半はSTATION Ai株式会社 代表取締役社長兼CEO 佐橋 宏隆氏の挨拶と施設概要の説明、後半は愛知県知事の大村 秀章氏、ソフトバンク株式会社 代表取締役社長執行役員兼CEO 宮川 潤一氏、STATION Ai株式会社 代表取締役社長兼CEO 佐橋 宏隆氏の3名の基調講演の内容をお送りする。
スタートアップと作りあげた
日本最大規模のオープンイノベーション拠点
はじめに、STATION Ai株式会社 代表取締役社長兼CEOの佐橋 宏隆氏による挨拶と施設概要の説明があった。
「STATION Aiプロジェクト」は2018年、愛知県スタートアップ構想が「Aichi-Startup戦略」とともに誕生し、2021年4月にソフトバンク株式会社が入札して採択された経緯がある。かつて、この地域は「スタートアップ不毛の地」と言われた時期もあったが、3年前に名古屋で支援を開始した85社から、現在では500社まで増えた。「NAGOYA INNOVATOR'S GARAGE」「なごのキャンパス」など、様々なスタートアップを支援する投資家やベンチャーキャピタル、事業会社、大学、自治体等が、この地域のスタートアップエコシステムが盛り上げているゆえんだろう。
佐橋氏は「現在の会員数は、スタートアップが500社(内海外企業7%)、パートナー企業が200社と、非常に多くの会員と一緒にスタートを切れたことを嬉しく思う」と挨拶した。
続いて、施設概要について説明があった。
STATION Aiは地上7階建て、延べ床面積2万3,000平方メートルを誇る非常に大きな施設だ。1階・2階・7階は一般開放ゾーンとなっていて、1階にはイベントスペースや工作機器、2階には3Dプリンターや大判プリンターなどプロトタイプも作れるテックラボや飲食店・託児所がある。7階にはホテルとフィットネスジム(月額2,200円で使い放題)のほかルーフトップバーがあり、誰でも利用できる。3〜6階は会員専用のオフィスエリアで、貸し会議室やイベントスペース、配信スタジオといった様々な機能を兼ね備えている。
STATION Aiの特徴の1つは「多くのスタートアップ企業と共に作り上げて来た拠点」である。ドローンやスマートフォンで撮影した建造物の画像データを3Dモデル化して配筋・配管等の作業に活かす株式会社Liberaware、7階のホテル「Minn STATION Ai Nagoya」でDXソリューションによる次世代の宿泊体験を提供する株式会社SQUEEZE、同じく7階のフィットネスジムでAIカメラを活用した画像解析ソリューションを提供する株式会社Opt Fit、植物性の廃棄物から樹脂を抽出し3Dプリンターで家具等を生成する株式会社Spacewaspなど、多くのスタートアップが関わっている。
また、館内には世界的にも話題になっている株式会社ヘラルボニーが手がけるアートが152点(知的障害アーティスト等の作品)あり、日本で一番多くの作品が見られる場所にもなっている。
「スマートビルディング」と「ロボットフレンドリー」
続いて、もう1つの特徴である「スマートビルディング」の構成と概略説明だ。
来館者数、各フロアの室温・電力使用量・混雑具合など、施設内のあらゆるセンサーやカメラ等のデバイスやビルシステムから得られるデータはスワッピングプラットホームに集約・解析処理され、ユーザーの各種アプリケーションや館内の様々なサイネージ(ディスプレイやタブレットなどの電子表示媒体を活用した情報発信システム)で可視化される。
また、ゲートやエレベーターとの連携、ロボットが走行可能な環境を用意するなど、通信環境や充電場所等の事前準備を行い、国内屈指のロボットフレンドリー環境が整っている。実際、既存のビルに沢山のロボットを導入しようとしても、なかなか運用していくことは難しい。
現在は移動式サイネージロボット、荷物を載せて人に追従する運搬追従ロボット(清掃員の掃除道具を載せて運用することを想定)、床洗浄ロボットの3台が稼働している。
全てのステージの
スタートアップに対応可能。ダイバーシティに注力
東海、特に愛知県の地域は特に自動車産業や航空・宇宙産業を中心とした製造業の本社が多く、企業と共にBtoBのSaaS(Software as a Service)領域、製造業の現場効率化、工場の省人化・無人化プロダクトのスタートアップが集まりやすい傾向にある。加えて、AIや医療・ヘルスケア領域等、愛知発のスタートアップも多数生まれている。しかしながら、今ではそれ以上に東京発のスタートアップ、さらに全国や海外からの集積も「PRE-STATION Ai」(WeWorkグローバルゲート名古屋内)の2年半で実現した。
「これから先、日本の未来を作っていく部分では、ダイバーシティを重要視している。女性起業家育成、海外スタートアップの来日、国内スタートアップの海外展開など、今後も様々な支援を充実させていきたい」(佐藤氏)
地域発のスタートアップも増やすべく、学生・社会人向けに起業支援を行っている。学生向け起業体験プログラム「STAPS」(STATION Ai Program for Students)は、実際に顧客の課題を解決して行くプログラムだ。すでに多くのスタートアップが生まれ、資金調達に至っている起業もある。
一方、社会人向けプログラム「ACTIVATION Lab」では、この地域の既存企業の潜在能力を活かし、まずは社内で新規事業を起こすなど、地域全体のスタートアップ関係人口を増やそうと新たな事業を起こして行くノウハウを学べるプログラムもある。
オープンイノベーションで
物づくり融合型のスタートアップエコシステムへ
STATION Aiを愛知県に設立する最大の意味はオープンイノベーションだ。かつて、この地域は日本の高度成長を支えた製造業の集積地であり、現在も既存産業による分厚い基盤がある。特に成長段階を迎えたスタートアップが今後大きく成長し、ユニコーンを目指す上では、こういった大企業の持つアセットが必要不可欠となる。
スタートアップの7割がITやインターネット、生成AI等のソフトウェア。「これまで、日本の経済を牽引して来た製造業の力とスタートアップを協業させ、物づくり融合型のスタートアップエコシステムを構築して行きたい」と佐橋氏は今後の展望を述べた。
STATION Aiには、スタートアップとの協業に関心の高い企業が約200社集積している。スタートアップへの投資や協業が未経験な企業も多く、オープンイノベーションを進める上で課題も見えていて、段階的に解決可能な支援メニューも多数用意しているとか。
目指せ! アジアのオープンイノベーションの聖地
パリにある世界最大とも言われるスタートアップの支援施設「Station F」には年間1万社の入居希望があり、「ヨーロッパで協業するならStation F」と様々なスタートアップと事業会社が集積する拠点になっているそうだ。
佐橋氏は「アジアでスタートアップと協業するなら「STATION Ai」と言われる状況を、これから作っていきたい」と語り、概要説明を締め括った。
「STATION Ai」から始まる
アジア最大級のイノベーションハブへの挑戦
続いては、報道関係者向け説明会の後に開催されたオープニングセレモニーにおける、愛知県知事の大村 秀章氏、ソフトバンク株式会社 代表取締役社長執行役員兼CEOの宮川 潤一氏、STATION Ai株式会社 代表取締役社長兼CEOの佐橋 宏隆氏の3による基調講演のレポートだ。
「STATION Ai」を日本、
さらにアジアのイノベーションハブへ
愛知県は今から6年前の2018年10月31日、産官学県でスタートアップを後押ししていこうと「Aichi-Startup戦略」を作成した。その中核がSTATION Aiだ。約3年前、愛知県の事業「BT(Build Transfer)コンセッション方式」のコンペを行いソフトバンク株式会社が落札した。設計から建設、中身まで全てソフトバンクのノウハウを生かし、AI・IOT(Internet of Things)も全て導入した世界最先端のスマートビルディングとなっている。
2020年1月にWeWorkグローバルゲート名古屋内に「PRE-STATION Ai」をスタートさせたとき、スタートアップは9社だった。それが2024年10月現在、オンラインも含めた入所数は500社、パートナー企業は200社を超えている。
大村氏は「STATION Aiは日本最大、恐らくアジア最大のスタートアップ・インキュベーション拠点。スタートアップ企業とパートナー企業が同じ建物にあり、毎日マッチアップすることでイノベーションが起こりやすい環境があるのは、日本国内でもここだけ。ヨーロッパのイノベーションハブである、パリの「Station F」と世界で唯一のアライアンスを組んでいる。日本、さらにアジアのイノベーションハブと連携し、第二のシリコンバレーを目指してほしい」と語った。
未来のスタートアップのため智慧を共有したい
続いては、ソフトバンク株式会社 代表取締役社長執行役員兼CEOの宮川 潤一氏だ。
宮川氏は愛知県犬山市出身。禅寺の長男として育ち、26歳で起業。愛知県で10年間事業を継続している。特に愛知県はスタートアップにはなかなか厳しいエリア。「創業間もない会社が我が社の門戸を叩くとは何ごとだ!」とよく言われたそうだ。
「私自身、地元企業や金融基幹、自治体含め、スタートアップが育ちやすい社会環境を作って行くことが本当に大事だと痛感していた。失われた30年と言われてきたが、今や35年。すぐに40年と言われかねない。一方、アメリカや中国経済の成長は、ここ30年以内に出来上がったスタートアップが国を引っ張っている。10年後・20年後の日本を引っ張ってくれるようなスタートアップが、ここから生まれることを切に期待している。私もこれまでの自身の戦略や戦術を伝えて行きたい」と抱負を語った。
もう「スタートアップ不毛の地」とは言わせない
最後は、再びSTATION Ai株式会社 代表取締役社長兼CEOの佐橋 宏隆氏だ。
PRE-STATION AiがWeWorkグローバルゲート名古屋にオープンしたとき、スタートアップは9社だった。今では500社(3割が愛知、4割が東京、残り3割は海外含む全国各地)が集まっている。
愛知県はこれまで、日本の高度成長を大きく支えて来た物づくり産業の集積地。大企業から中堅企業、さらには中小企業まで含め、その製造業が持っているアセットやノウハウは、スタートアップが今後大きく成長する段階で必要不可欠であるとともに、既存産業がアップデートを図る上でも欠かせない。
「既存産業との融合型スタートアップエコシステムを目指すSTATION Aiは、オープンイノベーションに最も注力していく。そして、アジアにおけるオープンイノベーションの聖地と呼ばれる存在を目指して行きたい。参考にしたSTATION Fはスタートアップだけでなく、世界的大企業から協業したいという応募が年間1万社あるそうだ。アジアではSTATION Aiと言われるような価値の場を作って行きたい」と語った。* * * * *
起業家が沢山いる地域の方が起業家が生まれやすいことは、アメリカの統計でも明らかになっている。当たり前のように起業家がいる環境をいかに作って行けるかが、地域のスタートアップエコシステムを盛り上げて行くためには極めて重要だとか。「地域の方に最新のテクノロジーやプロダクトに触れる機会を増やして行きたい」と語る佐橋氏。この変革時代に生きていることを喜び、地域の方はもちろん遠方の方も、まずは体感してみよう。
ここから生まれたプロダクトやサービスが日本、そして世界に広がっていくことを楽しみにしている。
写真提供:STATION Ai株式会社連載バックナンバー
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