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ソフトウェア作成において、美しさや優雅さより大切なこと

2014年9月19日(金)
Jaroslav Tulach(ヤロスラフ・ツゥラッハ)柴田 芳樹(しばた よしき)
APIデザインの極意 Java/NetBeansアーキテクト探究ノート
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この記事は、書籍『APIデザインの極意 Java/NetBeansアーキテクト探究ノート』の内容を、Think IT向けに特別公開しているものです。

この連載では、何回かに分けて本書の内容を紹介します。今回は前回に続き、第1章の一部を掲載します。

美しさ、真実、優雅さ

みなさんの多くが、前述の無知を称賛していることをもどかしく思っていると私は確信しています。重量級のクローラ・トラクタで積み上げられたゴミの山をどうやって優雅なものにできるのでしょうか。アプリケーションが醜い時にどうやって正しくすることができるでしょうか。そんなのはうまくいかないのではと思われます。しかしながら、うまくやることはできます。私達の多くが持っている先入観をもっと注意深く観察する必要がありますが。

私達の科学の源(みなもと)は、それでも私達の支配下にあり、常に私達の考え方に影響を与えています。それらは、何十世紀も前に古代ギリシャ人により明らかにされ、今でも、私達が真理と美の間の関係を扱う方法を形成しています。ギリシャの哲学者の視点からは、最も重要な科学知識は、何らかの誤解により意味が隠蔽されることなく、明瞭でありはっきりとしていました。すなわち、曖昧ではありませんでした。当然のことながら、最も高く評価された科学は幾何学でした。その主な理由は、それが実世界についての科学ではなく、むしろ幾何学的な世界についてだからでした。つまり、2つの点の間の線が直線であり、球体は絶対に丸いといった世界です。このレベルの完璧性は他の科学にはなく、特に実世界の学習に関心がある科学にはありません。球状の石は、遠くから見た時に幾何学的な球体に見えるかもしれません。しかし、近づいて見ると、その球状の形は単に知覚の錯覚にすぎないことが明らかになります。したがって、石の科学は、はっきりとしたものではなく、純粋な幾何学と同等の明瞭さは得られません。物体の構造における誤りを考慮する必要があります。

ギリシャの幾何学の世界と実世界の主な違いは、安定性でした。今日の石は粉々に砕くことができたり、明日は彫刻にしたりと実世界の物体は変化していきますが、幾何学の世界の物体は絶対に安定しています。たとえば、正方形を取り囲んでいる円は常に同じであり、直角は常に90度です。結果として、幾何学、つまり、物体と物体の間の関係についての思考と推察は、永遠に正しいのです。実世界についての真実と異なり、幾何学における真実は永久に続きます。そのため、ギリシャ人は幾何学を絶対的真実についての科学と見なしていました。

幾何学の世界では、物体の複雑さは様々です。たとえば、円を定義するためには、中心点と半径が必要です。楕円を定義するためには、1つではなく、2つの半径が必要です。すなわち、円は、楕円よりも定義するのが簡単だということです。同様に、正方形は長方形を定義するよりも簡単です。幾何学は明瞭性を好みますので、円と正方形は、楕円と長方形よりは「純粋」あるいは「美しい」ということになります。ギリシャの哲学者がこのことに気付くと、すぐに幾何学は真実の場所だけではなく、美しさの場所になりました。それ以来、真実と美しさは、幾何学だけでなく、芸術や他の分野でも対を成すものと見なされてきました。ギリシャ彫刻は、幾何学的な真実、美しさ、優雅さを持つように、その構成要素間の様々な割合に細心の注意が払われ、幾何学的になっています(たとえば、頭部は体全体の1/8であり、そこには黄金比があるといったことです)。

古典的なギリシャ様式、および、比率、美しさ、調和に関するギリシャ人の考えは、ルネサンス時代に芸術と科学において当たり前になりました。実際、その頃の芸術は、名前※1から分かるように、ギリシャの美的遺産の上に構築されました。しかし、その影響は、芸術の分野を超えてかなり広がりました。哲学の領域に広がると同時に、実世界についての新たな科学である物理学を生み出しました。ガリレオと他の人達は、幾何学を実世界へ持ち込みました。彼らは、理想的で完璧な幾何学の世界を取り上げて、実世界の背後に位置付けたのです。彼らは、窓枠を通して見るように実世界を通して見ることを始めて、実世界を観察し、実世界を探求しただけでなく、その背後にある幾何学の世界も探求しました。たとえば、実世界の物体を質点と見なし、その動きを軌跡と見なし、その回転を円上の動きと見なしたのでした。これらすべてが、幾何学をさらに現実世界へ近づけました。幾何学的世界は、実世界の背後の世界となりました。そして、幾何学と一緒に、真実と美しさも実世界へと拡大したのです。

[※1] 訳注:ルネサンスは、文化や学問などの復興、再興、再生という意味です。

著者
Jaroslav Tulach(ヤロスラフ・ツゥラッハ)
NetBeansの生みの親で、初期のアーキテクト。NetBeansは当初、Java統合開発環境として開発され、現在はJavaScript・Ruby・PHP・C/C++などにも対応。今も、オープンソースプロジェクトで開発が続けられている。著者は、NetBeansを支える技術の生みの親として、このオープンソースプロジェクトの成功に貢献。現在も、プログラマーの設計スキルを向上させる新たな方法を探求しつつ、このプロジェクトに参加している。
著者
柴田 芳樹(しばた よしき)
1959年生まれ。九州工業大学情報工学科で情報工学を学び、1984年同大学大学院で情報工学修士課程を修了。以来、様々なソフトウェア開発に従事。ゼロックス社のパロアルト研究所を含め、5年間米国に駐在してソフトウェア開発に携わる。現在はソフトウェア開発、教育、コンサルテーションなどを業務としている。 本書の翻訳を担当。

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