Dockerを取り巻く各社の状況を見る
VMwareの動向
VMwareは、他社よりも強くエンタープライズを意識して、Dockerとの融和を考えているように感じられる。VMWorld 2014では、継続的インフラストラクチャを提供するための新サービスである「VMware vRealize Code Stream」を発表している。これは開発者が必要とする環境を継続的に提供するサービスで、その環境としてDockerが選択出来るようになるというものだ。従来VMで実行されていた領域にDockerコンテナを配置し、ネットワークやリソース割り当て等のDocker単体では制御しにくい部分をVMware側で管理することになるのではと推測している。まだ詳細な発表はないが、VMwareの提唱するSoftware-Defined Data Center(SDDC)とPivotal、そしてDockerの関係性は今や切っても切れないものとなりつつある。そしてそのどれもが、競合することなく融和していくとも発表があった。
その他にもVMwareは、Googleの「Kubernetes」開発プロジェクトへの参加や、Dockerが開発しているlibswarm、libcontainer、libchanへの開発参加も表明している。
Docker社の動向
最後に、Dockerを開発しているDocker Inc.についても触れておこう。現在Docker Inc.ではdotCloudをcloudControlへ売却し、Docker一本に的を絞って開発を進めている。Dockerの今後については、dockercon2014でロードマップが発表された。発表資料によると、これまでにDockerはSandboxであるlibcontainer、Networkingであるlibchan、Orchestrationであるlibswarmを提供してきたとある。そして同資料の中で、今後はidentityとauthorizationをなんらかの形で提供することを発表している。また2014年7月には、マルチコンテナを管理するツールであるOrchardのFigを買収することを発表した。マルチコンテナを管理という見方をすると、Figにはlibswarmと共通する部分があるが、今後どのように使い分けをされるかは明らかになっていない。
同じく2014年7月には、GoogleがDockerの総合ツールであるKubernetesを発表している。Docker Inc.もKubernetesプロジェクトに参加しているが、あくまで外部ツールとしての位置づけにするのか、それとも一部機能をDocker自体に取り込むのか住み分けが重要になるだろう。
投資家も注目するDocker
Dockerは技術者やIT企業だけでなく、投資家からも注目を集めている。シリーズBでは1500万ドルの投資を受けたのに続き、シリーズCでは4000万ドルもの投資を受けている。この資金が実際に使われるのは、2015年から2016年と言われている。資金に余裕があるということは、Docker Inc.が一つの団体として存続できることを示している。すなわちどこかのベンダーに買収され、Dockerコンテナの技術自体が特定ベンダーにロックインされてしまう事態を防いでくれる。利用者の我々からすれば、買収されていつベンダーロックインされるか分からないOSSを利用するのは不安を伴うため、Docker Inc.に潤沢な資金があることは望ましい状態である。
なぜDockerは、投資家からも注目されているのだろうか? 筆者は、Dockerのコンテナ技術が他の技術と競合しないからだと推察している。当初、競合になり得ると予想されていた既存のVM製品も、Dockerを自社製品に取り込んで発展させる方向に向かっている。競合がなく親和性が高いため、周辺技術と組み合わせて一緒に成長出来る技術であることから、投資家達も投資を惜しまないのではないだろうか。
各社の動向を踏まえて
各社ともDockerの優位点であるリソース使用量の小ささやコンテナの作成スピード、ポータビリティの高さを享受し、それと自社製品を組み合わせることでさらに価値を生み出そうとしている。
ハイパーバイザベンダ各社から見れば、従来よりも少ないリソースで高速に動作するコンテナを作成出来て、ハイパーバイザとコンテナ間のオーバーヘッドも小さくなることによりパフォーマンスも向上するDockerは有用だろう。そこに既存のハイパーバイザ管理機能で利便性と安定性を付加した製品を生み出すことによって、Dockerコンテナと自社製品両方のメリットを持った技術が生まれてくることだろう。
クラウド事業者からの立場からすると、Dockerの軽量なコンテナはリソース占有量が少ないため、より安価にVM(コンテナ)を提供出来るようになるのではないだろうか。さらにオーバーヘッドが小さくなることによって、パフォーマンスも向上する、そこに従来のクラウドサービス管理を組み込めば、事業者と利用者双方のメリットとなる。
Dockerの懸念点としては、まずライセンス料が挙げられる。コンテナ内にライセンスが必要なアプリケーションを導入した場合、どういう扱いになるのかは各社とも対応が遅れているように見える、コンテナ内のアプリケーションから見れば、コンテナはVMに見えるが、ホストOSから見ればコンテナはただのプロセスだ、このズレを今後どういう扱いにするか、引き続き注目していきたい。
もう一つの懸念は、各社の開発している技術が多すぎるという点である、近年、技術をオープンにする傾向が強くなっていくが、Dockerの周辺技術が増えすぎると技術者としては、楽しみな反面追いかけるのが大変にもなる。
次からの連載ではDockerにより深く切り込み、既存仮想化技術との機能比較や性能比較、開発現場で使うためのカスタマイズ方法等を紹介する予定だ。