女性がプログラミングを学ぶきっかけを作りたい!「Rails Girls Shiojiri 1st」開催レポート
女性がプログラミングを学ぶイベント「Rails Girls Shiojiri」が、3月6日(金)と7日(土)の2日間、長野県塩尻市で開催された。
フィンランド生まれの「Rails Girls」
「Rails Girls」は、女性を対象としたプログラミングを学ぶワークショップ型のイベント。参加者の多くはプログラミング初心者で、ワークショップを通じて「Ruby」と「Ruby on Rails」でのプログラミングを学びながら、自身のアイデアをWebアプリケーションとして実装する。2010年に北欧のフィンランド・ヘルシンキでスタートしたこのイベントは、いまや世界中の227都市で開催されている。ワークショップへの参加者が延べ1万人以上にのぼる、とても人気のあるイベントだ。塩尻で開催された3月7日は、フィンランド、ブルガリア、オーストラリアの各都市でも開催が予定されていて、「Rails Girls」がグローバルな広がりを見せていることを実感させた。
日本では、2012年に東京で初めて開催されたのを皮切りに、札幌、京都、松江、名古屋、大阪、奈良の各地で開催されてきた。今回の塩尻は、日本国内では8都市目、回数としては13回目の開催となる。
「Rails Girls」の大きな特徴のひとつとして、参加者を女性に限定し、さらにプログラミング初心者を対象としているという点が挙げられる。塩尻の参加者の職業は、学生やWebデザイナー、医師などさまざまだったが、本格的にプログラミングを経験したことがある人はいなかった。そもそも「Ruby on Rails」という言葉を、初めて聞いたという参加者ばかりだった。
かつて日本では、女性が「技術」を教育として受けられる機会に乏しかった時期がある。現在、日本のソフトウェア業界における女性比率は2割ほどと言われているが、人口の男女比と比較すると、非常にアンバランスな数字だ。ソフトウェア業界の歪みは、女性が技術教育を受けてこなかったことが影響していると言っても過言ではないだろう。
また、ソフトウェアは、多種多様な思考を取り入れながら開発されることで、創造性豊かなものとなる。女性が参加できないことで、多種多様な思考を取り入れる機会を失っているとしたら、そのソフトウェアにとって好ましくない状態だ。このような状態がソフトウェア業界全体に広がっているとしたら、得策ではないだろう。
「Rails Girls」は、そのような女性が被ってきたに不利益に対するアファーマティブ・アクション(接触的な改善措置)としての側面も持ちあわせている。今までプログラミングを学ぶ機会に乏しかった女性にその機会を広く提供することで、プログラミングやソフトウェア開発に興味を持つきっかけを作って欲しい。きっかけができたら、継続して学べる場を提供しようというものだ。
国内13回目の開催地は「長野県塩尻市」
今回の開催地である長野県塩尻市は、人口6万7000人ほどの地方都市である。長野県のほぼ中央に位置し、西には3000メートル級の北アルプスが望める自然豊かな田園都市だ。標高は約700メートルで、降雪は少ないが、3月とはいえ朝晩の気温は連日氷点下となる。
特産品として、ワインやぶどう、漆器、レタスなどの高原野菜が挙げられる。また、冷涼な気候と澄んだ空気を活かした精密機器の製造も発達している。近年では、その精密機器を制御する組み込みソフトウェアに力を入れている企業も多い。
また、塩尻市は2015年の「世界インテリジェント・コミュニティ」のトップ21にも選ばれるなど、行政も積極的に情報化施策を推進しているという背景がある。塩尻市立図書館や塩尻市役所では、RailsをはじめとしたOSSを活用したシステムも多く稼働し、日常業務で使用されている。
日本各地で開催されてきた「Rails Girls」だが、今回の開催地である塩尻は、他の都市と比べると格段に小さい町だ。人口も少ないし、商業施設も少ない。開催場所である塩尻インキュベーションプラザから最寄りのコンビニまでは歩いて15分以上かかる。
そんな塩尻での開催に踏み切った理由を、オーガナイザーの小林智恵さんは次のように述べている。
「男性に比べ女性のプログラミング仲間はまだまだ少ない。それに加えてコミュニティ活動や勉強会の開催も少ない。都市部の初めての場所へ行き、初めての人たちに会い、初めての技術の勉強会に参加するのは、ハードルが高い。それなら地元で開催して、継続して勉強するための場所と仲間をつくりたかった。」
「Rails Girls」は、女性オーガナイザーが自発的にきっかけを作ることで開催に漕ぎつけることができる。そのきっかけとなるのは、「この土地で開催したい!」という強い思いだ。
もともとコミュニティ活動が活発でなく、勉強会が開催されることの少ない地方都市にあって、このようなイベントを開催するときの最大の懸念は、果たして参加者が集まるだろうか?という点だ。ところが、募集を開始してみると、参加定員10名のところに予想を超える応募があった。オーガナイザーが感じていたように、このような地方都市にもプログラミングを学びたい、そのための場所と仲間を必要としている女性が多く存在していることを改めて認識させた。
「インストール・デイ」でRailsプログラマの第一歩
初日の3月6日(金)は、「インストール・デイ」。
塩尻インキュベーションプラザには、夕方になると参加者が続々と集合してきた。やってくる参加者の、期待と不安が入り混じった表情が印象的だった。
「インストール・デイ」は、翌日のワークショップでプログラミングができる環境を準備する作業だ。自分のパソコンにRubyとRailsをインストールしていく。インストールにはコマンドプロンプトやターミナルを使うが、参加者の多くはそれらの扱いに慣れておらず、最初から悪戦苦闘の連続だった。それでも、コーチの助言を受けながら着実に構築を進めていく。最初は緊張した表情を見せていた参加者だったが、その緊張も徐々にほぐれ、次第に他の参加者やコーチとも打ち解けてきた。環境が整うころには多くの笑顔が見られた。中には、翌日のワークショップで自分が作ろうとしているアプリケーションについて、アイデアをコーチと共有する参加者もいて、やる気をみなぎらせていた。
2日目の3月7日(土)は、薄曇り。朝のキリッと冷えた空気が信州らしさを感じさせつつも、日中は春の訪れもすぐそこと感じさせるような柔らかな陽が差す1日だった。集合してきた参加者は、前日よりもいくらか不安が解消された様子を見せつつも、まだまだ硬い表情の参加者も多かった。
朝のコーヒータイムのあと、オーガナイザーの小林さんから「みんなで楽しい場にしましょう!」と開会の挨拶があり、いよいよ「Rails Girls Shiojiri」が始まった。
そして、「Rails Girls Shiojiri」に寄せられた動画メッセージが紹介されるサプライズがあった。Ruby言語設計者のまつもとゆきひろ(matz)さんと、RailsGilrls創始者のリンダ・リウカス(Linda Liukas)さんからのメッセージだ。まつもとさんは、「今まではRubyといえば男性ばかりだったが、最近はだいぶ改善してきた。みなさんの力で、もっと多様性のあるコミュニティにしましょう」とメッセージを送った。
フライデーハグ(両手を広げてハグするようなポーズ)で記念写真を撮ったら、いよいよワークショップが始まる。
いよいよワークショップ、そして、ランチ
ワークショップは、参加者一人にコーチが一人付くというマンツーマン形式で行われた。コーチやスタッフは、地元のプログラマやWebデザイナーが中心だが、東京や名古屋で開催したRails Girlsのオーガナイザーやコーチ経験者に応援にきてもらうことで、強力な援護となった。このように、知見を共有するサイクルができているのもRails Girlsの特徴の一つだろう。
参加者は、コーチとともに初めてのWebアプリケーションを構築していく。コマンドプロンプトとエディタとブラウザを行き来しながらプログラムと格闘。写真をアップロードするアプリケーションを作成した参加者は、ブラウザで動きを確認すると歓声をあげ、周囲から拍手される場面もあった。楽しいを共有できた瞬間だ。
RailsGirlsは、ランチもお楽しみの一つだ。ランチは、塩尻市内のフレンチレストラン「トムズレストラン」から、ジビエカレーが届いた。塩尻市内で生産された人参をベースにしたドレッシングを使ったサラダやスープに、参加者は大満足だったようだ。
もう一つのサプライズ
ランチのあと、もう一つのサプライズがあった。同日、オーストラリアで開催されていた「Rails Girls Perth」とネットを繋いで、オーストラリアのガールズとの交流があった。「Rails Girls Perth」は参加者が100人とのことで、規模は違っていたが、お互いの「Rails Girls」に興味津々で、「ランチは何を食べたの?」など質問も飛び出して交流を楽しんだ。
午後もワークショップは続き、参加者は自分のアイデアをWebアプリケーションにしていく。構築が進むにつれ、エラーが出て思うように動かない場面も多くなったが、最後まで諦めず、真剣にプログラムに向き合う姿が多く見られた。
そして、イベントの最後はアフター・パーティ。塩尻産のワインも振る舞われ、参加者とコーチはすっかり打ち解けた和やかな雰囲気のなかで談笑を楽しんだ。パーティのなかで、プログラマという職業に興味を持ったという話も聞け、プログラミングやソフトウェア開発に興味を持つきっかけができたと感じた。
こうして「Rails Gilrs Shiojiri」は大成功で幕を閉じた。
「Rails Girls」はコミュニティ
「Rails Girls」は、イベントの開催がきっかけとなるコミュニティだ。アイデアを形にするための技術を身につける場所があって仲間がいれば、ソフトウェア開発の「楽しい」を共有できる。「Rails Girls Shiojiri」も1回限りのイベントではなく、継続的に勉強会などを開催していく予定だという。また、日本国内では、この後、京都と博多での開催も予定されているそうだ。お近くで開催される機会があれば是非参加して欲しい。
もっと多くの女性がプログラミングなどの技術的なことに関わりを持ち、女性も多く参加することでできあがる多様性を許容する社会は、新しいものをどんどん創造できる「楽しい」社会だ。
世界はもっとよくなる。一緒に楽しいものを作りましょう!
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