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Apple Musicはパンドラの箱だ: 開けるのなら自分のリスクで

2015年9月10日(木)
ReadWrite Japan

これを書く前に後数日待ったほうがいいのかもしれない。そうすれば私も落ち着きを取り戻し、ひょっとすると自分の音楽も戻ってくるかもしれない。

お察しの通り、私も「三ヶ月お試し期間」の落とし穴に嵌まった。サービスを試すためにApple Musicに切り替えた。このサービスで自分が懐かしがっていると気づかなかったハワード・ジョーンズなどの昔の好きな曲を漁る事が出来、また自分の知らないバンドを見つけることが出来た(ジョニー・マーのソロアルバムとか? 他にもいいのがあったら教えてほしい)。

Apple MusicのUIはひどいものだが、好きな様に音楽を漁れると約束されていることから、私はこれを使い続けた。それも妻がこの悲惨なUIはもう使いたくないと言い出すまでの事だった。私はサービスを解約した。

ここからが本当の問題の始まりだった。私は望まない形で、既存のユーザーにしてはいけないことのケーススタディーともいえる被害者になった。

単に私が欲しかったのはペプシ(と音楽)だ

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私は家族でiTunesのアカウントをシェアしている。私と妻と子供が共通のAppleIDを使っており、購入はこのアカウントを通して行われる。私が独身だったら、アップルの同期問題は起きなかっただろう。しかし自分の音楽を自分のものに、妻や子供の音楽を彼女らのものに分けておくよう設定するのはいつも悩んでいることだった。

しかしそれも過去の話で、何年かかかって動悸の問題は克服した。私の手順は、ラップトップとiPhoneの同期を止め、iTunes Matchを立ち上げ、単に全部をiPhoneにダウンロードするというものだ。これで問題は解決した。

しかしそこで私はApple Musicを有効化した。

それはパンドラの箱を開けてしまったようなものだった。突然Apple Musicの分かりやすいインターフェイスでのナビゲーションは悪夢の様なものになった。画面には山ほどの聞いてない、あるいは所有して無い音楽が表示され、今再生されている音楽に行き着くまでが困難な状態になった。(曲の先送りなどでは大事な点だ)

アップルは私が好きな音楽はこういうものだろうという事を知らせようと、「おすすめ」タブを仕向け続けてくる。何度かこういうことをやってるうちに、我慢の限界に達した。アップルがなぜ十年以上自分の音楽を保存しているミュージックライブラリーを参照させないのかが理解できない。

全部が全部悪いことばかりではない。勧めてくるものの中には気に入ったものもあった。The CharlatansやJohnny Marrのソロなどだ。私は長いこと聞いていなかったIron MaidenやBlack Sabbath, Depeche Modeの曲をリストからはずした。驚くべきことだ。

そしてストリーミングサービスの解約で、驚くべき、しかし苦痛に満ちた結末を迎えることになる。

Apple Musicへの怒り

Apple Musicがやらかした事はこれだけではなかった。解約と同時に私のミュージックライブラリが無効化されたのだ。

突然、My Musicにあった音楽が消えてしまい、家族たちのものに入れ替わっていた。Iron MaidenもAC/DCももう手元に無い。代わりにあったのは以下のものだ。

Apple Music

Apple Music


John Denverを悪く言うつもりは無い。Jesus Jonesが有名になった曲の事も覚えている。だがこれらは私の音楽ではないのだ。

更に悪いことに、これら自分のもので無い音楽を手元からなくす事は不可能に近い。楕円形のマークを押すと、「My Musicから削除する」という選択肢が出てくる。これで消せることは消せるのだが、iPhoneに入れるつもりが無かった数百ものアーティストに対して同じことを必要がある。

あるアーティストの場合はこの選択肢が無い場合もある。その場合iCloudから完全に削除する以外の選択肢は無い。自分だけなら別にかまわないが、家族が今後も聞くか聞かないのか分からないJimmy Durrantを勝手に消してしまうリスクはとれない。

というわけで、どうすれば家族のミュージックライブラリから完全に削除しないですむか全くわからないまま、私は欲しくも無い曲を携帯に残す羽目になった。

失敗の原因は全て私自身だ(いや、そうだろうか?)

家族と音楽を共有していない人たちも含めて、Apple Musicのやり方を理解できなかったのは私一人だけではない。個人的にこれが素晴らしいものであればと思っていただけに非常に残念だ。お金の事など気にはしていないが、私個人と家族のためにこれを使い物に出来なかった。

私たち家族が使っているデバイスは全てアップル製だ。MacBooksに数台のiPad、iPhone、Apple TVも2台ある。私たちアップル製品に入れ込んでいるものの、Apple Musicについては別だ。

何らかの意味で私がApple Musicが考えるシンプルさを理解していない事は責められることなのだろう。しかしそうであろうがなかろうが、私にとっては使い物にならず、一月前まではきちんとした状態であったMy Musicを元に戻すことは出来そうも無いようだ。

新しいサービスを始めるにあたって想定しないようなこともある。また音楽ストリーミングは幾つかの理由から複雑な事柄だ。レーベルとのからみや、多大な負荷に耐えるサーバーその他のバックエンドシステムの確保だけではない。これらはアップルにとって、例えばスタートアップ企業達にとってほどの重荷にはならないだろう。しかしアップルですらこれは簡単なことではない。そして一度サービスが立ち上がった以上、ユーザーエクスペリエンスがここまで失墜してしまう事は企業にとって言い訳が出来ないことだ。

熱心なアップル信者達にとってすら、悲惨なインターフェイスや不可解な同期の問題については擁護のしようがない。この事を他のメーカーは教訓にするべきだ。自分がユーザーに提供したいエクスペリエンスをよく考え、それを最初から最後まで間違いなく組み上げなければならない。

違う言い方をするならば、そのユーザーが最初にあなたのサービスを使い出した頃のようなシンプルでエレガントな別の選択肢を用意するべきだということだ。この事は多くのサービスプロバイダーが人々を自分のエコシステムに取り込んでいる事を誇りに思っているという事を考えると理解しづらいことかも知れない。しかし次のことを考えて欲しい。例えば私の場合は既にアップルのエコシステムに深く入り込んでしまっているわけだが、Apple Musicの問題の一部ないし全部が修復されたとしても、もう一度試してみるのはためらってしまう。

全ての人がハッピーになるサービスなど無いわけだから、そのハッピーでないユーザーをどうするかが大事だ。ストレスが溜まる環境にユーザーを置いてけぼりにすることで彼らの好意は育まれないという事は、もし彼らにもう一度サービスを試してもらいたいのであれば抑えておかなければならない点だ。

画像提供:
トップ画像:Phillipe Put
Apple event画像:captured by ReadWrite

Matt Asay
[原文]

※本記事はReadWrite Japanからの転載です。転載元はこちらをご覧ください。

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