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SIerの存在意義と抱える悩み

2016年9月14日(水)
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)

はじめに

みなさん、お久しぶりです。Think ITで連載を持つのは2004年11月の「即活用!企業システムにおけるプロジェクト管理」と2005年6月の「即活用!業務システムの開発ドキュメント標準化」以来なので、「はじめまして」と言った方がいいですね。

今回のテーマは「これからのSIerの話をしよう」というものです。「え、今さらSIer?」って声が聞こえてきそうですね。実は、「SI(システムインテグレーション)」という言葉には30年もの歴史があります。1987年に当時の通産省が創設した「システムインテグレーション認定制度」により一気に広まった言葉ですが、この頃はエリート企業のみが認められる輝かしいネームだったのですよ。

そして、私が1995年に創業した当社の社名もなんと! 「株式会社システムインテグレータ」というもの(笑)。名前に反してずっとパッケージソフトの企画・開発を続けているパッケージベンダなのですが、今でもこの社名には矜持と愛着があります。

SIerに対するいわれなき誹謗とバッシング

あれから数十年、後ろにerを付けられて「SIer(エスアイヤー)」と呼ばれるようになるにつけ、あまりいい意味では使われない言葉に堕ちてしまいました(上記の制度も2011年3月に廃止となっています)。実際に”SIer”というキーワードでググって一番目に表示される「はてなキーワード」では、SIerの問題として次のような悪口が書かれています。

SIerの問題(はてなキーワードより)

  • ヤクザ関係者多数
  • 低劣な技術者多数
  • 技術の分からない文系役職者多数
  • わけのわからない契約多数
  • 組織犯罪者との内通多数
  • セキュリティ駄々漏れ事態多数
  • 使途不明とも取れる不要な支出多数
  • ブラック企業のブラック求人多数
  • 労働関係法令ぶっちぎり多数
  • 派遣偽装請負多数
  • 非日本人系の人間多数

「なんともひどい言われようだ」と笑ってしまいますが、現在の日本におけるSIerのイメージがここまで悪くなっているという証左でもあります。

「SIerはもう消える」「SIビジネスの終焉」。かれこれ20年くらい前から、そんな声を山ほど聞いてきました。しかし、どっこいSIerは今も元気で日本のIT産業の中核にどっしり根を張っています。ネットを検索すると、上記のような悪口や卑下する言葉の嵐ですが、雇用面でもSIerは日本のIT産業を支えており、大多数のエンジニアが所属しています。

存在意義のないものは存続し続けられません。つまりSIビジネスは社会から必要とされているし貢献しているのです。それなのに現代の風潮では、誰一人SIerの肩を持つ人がいない不思議な状況なのです。

そうした風潮になっている理由は2つあります(図)。1つはSIerと呼ばれる企業の経営や体質が古く、自社のコアコンピタンス作りやエンジニア育成、働きやすい環境作りなどを疎かにしてきたことです。そして、もう1つは、そこで働く社員がそうしたイケてない環境に慣れっこになって、自己研鑚を怠りがちになってしまったことです。

図:SIerがいわれなき誹謗・バッシングにさらされる理由

SIerの存在意義を冷静に考える

みなさんは「inception deck(インセプションデッキ)」というものをご存知でしょうか。これは、プロジェクトをスタートするにあたり、チームで目標や方針を共有するための”プロジェクト憲章”のようなものです。

従来のプロジェクト憲章と違うのは、プロジェクトリーダーが作って指し示すのではなく、チームのみんなで10の質問に対する回答を出し合うところです。メンバーがお互いに意見を出し合って議論することにより、各自が目的や方向性を共感し、それぞれに腑に落ちるのです。私はそんな実効性が気に入っており、当社でもよく使っています。

インセプションデッキの10の質問

  1. 我々はなぜここにいるのか(Why1)
  2. エレベーターピッチを作る(Why2)
  3. パッケージデザインを作る(Why3)
  4. やらないことリストを作る(Why4)
  5. 「ご近所さん」を探せ(Why5)
  6. 解決案を描く(How1)
  7. 夜も眠れなくなるような問題は何だろう(How2)
  8. 期間を見極める(How3)
  9. 何を諦めるのかをはっきりさせる(How4)
  10. 何がどれだけ必要なのか(How5)

中でも、第1問「我々はなぜここにいるのか(Why1)」という質問にいつも「ハッ」とさせられます。”Back to the source”。つまり「原点に立ち戻って」ものを考えると、プロジェクトの真の目的が見えてきて、これからみんなで歩む方向を間違えなくて済むのです。

みんながバッシングすることに考えなしに乗っかって、一緒に悪口を言うのは日本人の悪い点です。SIerは、本当にここで言われているほど悪いのでしょうか。インセプションデッキの1つ目の質問の”我々”という部分に”SIer”を入れて、SIerの存在意義、社会にどんな価値を提供するかを冷静に考えてみましょう。

この質問は、逆に考えるとわかりやすいでしょうか。もしSIerがいなければ、ほとんどのユーザー企業はシステム化がにっちもさっちもいかなくなります。なるほどパッケージソフトやクラウドサービスがあるから、一見してSIerはいなくてもと思われる向きもありますが、それらでカバーできるのは型にはまった部分であり、自社のこだわり、競争力の根幹となる特徴的な部分まではカバーしてくれません。

昔のオフコン時代のように、ユーザー企業自体がシステム開発要員を抱えて自社開発するのも選択肢の1つです。最近、外部SIerの体たらくに愛想を尽かしたユーザーで、こうした動きが見られます。でも、自社開発のピークに合わせて要員を多く抱えれば過剰になるし、少なめにすれば大きな開発が始まると結局外部SIerに頼らなければなりません。そもそもITが本業でないユーザー企業がエンジニアを採用するのは大変ですし、育成する仕組みまで整っていない企業も多く見られます。

<<コラム>>SIerは日本にしかいないのか?

よく「SIerは日本独特のもので、アメリカにはいない」などと言う人がいます。まあ、人の話を鵜呑みにして自分の意見っぽく言うタイプなのでしょうが、こんなのはデマもいいところで、当然ながらSIerはアメリカにもその他の国にもいます。もっともSIerは和製英語なので、そういう意味ではアメリカにはいませんが(笑)。英語ではInformation Technorogy services company(ITサービス企業)の方が一般的ですが、System Integretor(システムインテグレータ)もちゃんと使われていますよ。

ただし、アメリカの場合はユーザー企業が自らエンジニアを抱えている割合がずっと大きいのです。2009年の調査ですが、ITサービス企業(SIer)のユーザー企業に対する技術者数の割合はアメリカではおよそ5分の2と半分以下なのに対し、日本では逆に3倍となっています*。つまり日米で比較すると7.5倍にもなっていて、この歴然とした差が過大に伝わり、「SIerは日本にしかいない」などとまことしやかに言われるようになったのでしょう。

この結果を見て、「だから日本はSIerに丸投げなんだ」と批判する人もいますが、なんでも盲目的にアメリカが正しいと思う必要はありません。国土の広さや企業文化などが違うので、それぞれの国の事情で合理的状態に収まっていると考えています。

少なくともSIer自身が卑下する必要はありません。日本のSIerは業務知識に強く、ユーザー企業技術者になり代わってエンドユーザー部門の意見を聴き、真摯にその会社のためを思ったシステムを作り上げているわけですから、胸を張っていいと思います。

*【参考】IPA「グローバル化を支えるIT人材確保・育成に関する調査」概要報告書 P21

話を戻しましょう。

プログラミングの自動化が進み、プログラマーがいらなくなるという「プログラマー不要論」を唱え、だからSIerは消滅すると主張する人もいます。でも、こんなことを言う人は自分でプログラミングしたことがない人です。

30年も前からCASEツールやコードジェネレータ製品が華々しく現れては消えを繰り返しているのは、そう簡単にUIに優れた完成度の高いソースコードを自動生成できない証です。追い続けても手に入れることのできない錬金術のようなものです。もちろん、こうした開発ツールや開発支援ツールは進化し続けており、それによってプログラミング手法や技術も変化していますが、プログラマーはその変化に対応して必要とされ続けるでしょう。

同じ30年前頃「SE30(35)歳定年説」がまことしやかに喧伝されましたが、それが全くの嘘だったことは今の状況を見れば明らかです。「プログラマー不要論」も昔から繰り返されているのですが、同じような絵空言です。確かにプログラム仕様書の通りにコードを書くという低レベルなプログラミングは減り続けていますが、プログラマーのカバー範囲はより高度により広範囲になって存在意義は増しているのです。

では、「SIerの良さ」とは、なんでしょうか。私が一番に挙げるのは、パッケージベンダやSaaS提供者など均一のものをマス提供する事業者よりも、ずっと顧客寄りなことです。住宅に例えれば、前者はマンションでありプレハブ住宅なのに対し、SIerは注文住宅を請け負う建設会社です。注文主に寄り添い、その思いや希望を聴き取って、満足度の高い家を提供します。

つまり、役割が違うのです。世の中にあるパッケージやサービス、ツールなどを使って、顧客のニーズに応える対応力、大きなプロジェクトを完遂できる組織力、そしてさまざまな業界や顧客に対応できる柔軟性など、SIerならではの力量が発揮されているからこそユーザー企業はシステム化によるメリットを享受できているのです。

これからのSIerが目指す方向

とは言え、指摘されている事が間違っているかというと、残念ながらほとんど当てはまっています。実に痛いところを突かれていると言えます。でも、ならば改善するまでです。バッシングに一緒になって卑下している暇があったら、改革して胸を張って仕事をしましょう。本連載は、そんな前向きなスタンスで、「これからのSIerのあるべき姿」、「そこに到達するためにやらなければならないこと」について、大真面目に論じたいと思います。

課題は山のようにありますが、大きく分けると「企業として取り組まなければならない問題」と「個人が意識改革してやらなければならない問題」があります。

1.企業が取り組まなければならない問題

  1. 社員の教育、人材育成、スキル向上
  2. 働きやすい環境作り
  3. ツールやシステム活用による生産性向上
  4. 標準化と開発手法の見直し
  5. ナレッジの蓄積と活用
  6. 会社のコアコンピタンス(強み)作り
  7. 品質確保やプロジェクト管理を徹底する体制、組織
  8. コミュニケーション強化のための仕組み
  9. 営業・マーケティング力強化
  10. 経営力・マネジメントの強化

2.個人がやらなければならない問題

  1. 自己キャリアパスのプランニング
  2. 技術や資格習得の計画と実践
  3. 外部セミナーへの積極的参加
  4. 外部コミュニティへの積極的参加
  5. 目標を立てて自宅でも勉強する

SIerが本来の魅力あふれる仕事をしてユーザーに感謝され、諸外国のようにITエンジニアが憧れの職業と思われる。そんな日を再び取り戻すためには、企業も個人も頑張らなければなりません。次回からは、こんな輝きを持つために、SIerが何をどうやるべきかについて当社の取り組みを題材に提起していきます。当社がやって成果が上がったこと、イマイチうまく行かなかったことなどを開けっぴろげに披露しますのでお楽しみに。

ちょっとアジャイル開発をやっている、クラウド関連をやっている、そんなことで偉そうにSIerをバカにする人。みんなの尻馬に乗ってSIerをバカにすることで、自分はその上だと思いたがる輩。そんなちっちゃな技術者がたくさんいますが、「何をやっているか、ではなく、何を作り上げたか」で価値が決まります。自己をバージョンアップして、価値を生み出す仕事をしましょう。

アメリカの動向を常にウォッチして、「だから日本のITはダメなんだ」と批判ばかりしているマスコミも、そのスタンスが何も生み出さないと気づいて欲しいものです。確かに警鐘を鳴らすのは大切ですが、自分たちのことを棚にあげて駄目だしばかりしていても仕方がないでしょう。企業の文化もとっくに「誉めて育てる」に変わっているのに、マスコミの姿勢は古くさいままだと感じています。

良い所をきちんと評価して、改善すべき点を建設的に指摘する。私は、そんなふうにSIerを応援していきたいと思います。

著者
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
株式会社システムインテグレータ

東芝、SCSKを経て1995年に株式会社システムインテグレータを設立し、現在、代表取締役社長。2006年東証マザーズ、2014年東証第一部上場。

前職で日本最初のERP「ProActive」を作った後に独立し、日本初のECパッケージ「SI Web Shopping」や開発支援ツール「SI Object Browser」を開発・リリース。日本初のWebベースのERP「GRANDIT」をコンソーシアム方式で開発し、統合型プロジェクト管理システム「SI Object Browser PM」、アプリケーション設計のCADツール「SI Object Browser Designer」など、独創的なアイデアの製品を次々とリリース。

主な著書に「Oracle8入門」シリーズや「SQL Server7.0徹底入門」、「実践SQL」などのRDBMS系、「グラス片手にデータベース設計入門」シリーズや「パッケージから学ぶ4大分野の業務知識」などの業務知識系、「実践!プロジェクト管理入門」シリーズ、「統合型プロジェクト管理のススメ」などのプロジェクト管理系、ほか多数。

「日本のITの近代化」と「日本のITを世界に」の2つのテーマをライフワークに掲げている。

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