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この連載が書籍になりました!『これからのSIerの話をしよう エンジニアの働き方改革

会社のコアコンピタンス作り

2016年12月27日(火)
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)

はじめに

みなさん、こんにちは。前回は「社員がイキイキ働ける職場つくり」というテーマで、「meme(ミーム)」を育てることとイベントを活性化することを取り上げました。今回は「コアコンピタンス作り」と「ナレッジ・マネジメント」について一緒に考えてみましょう。

「会社の改革のためのその6」―自社のコアコンピタンス(強み)を作る

コアコンピタンスって言葉は、いかにもカタカナかぶれのコンサルタントが使いそうな言葉です。Wikipediaを見ても「競合他社を圧倒的に上回るレベルの能力」「競合他社に真似できない核となる能力」などと大層なことが書かれています。実際は「自社の強み」で十分なのですが、何事も外来語を使った方がありがたがられるので、今回は”強み”と引用符を付けてコアコンピタンスで行きます(笑)。

自社のコアコンピタンスは何か

皆さんの会社のコアコンピタンスはなんですか。SIerの経営者に尋ねると「いや~、コンピタンスっていうのは特にないのですが、強いて言えば社員がみんな真面目で一生懸命なところでしょうか」と口をそろえて答えてくれます。

もちろん謙遜も(そして自負も)入っているのでしょうが、実際、明確なコアコンピタンスを挙げられないSIerは多いです。常駐・派遣ビジネスの功罪を考えるでSIerのホームページを見ると「技術力」「ソリューション力」「高品質」などの漠然としたアピールしかできていないと指摘しましたが、SIerの多くが「これといった強み」を持っていないのは大きな課題と言えます。

パッケージソフトやクラウドサービスなど明確な商品で稼げているのなら、それを強みに挙げるでしょう。しかし、売上の大半が常駐・派遣であったり受託開発であったりするなら、稼ぎの源泉は”人”であるため、強みはと問われれば社員の特徴を挙げるしかないのです。

しかし、実は決してコアコンピタンスがないわけではありません。厳しい競争社会でビジネスができているのですから必ずコアコンピタンスはあるのですが、それが目に見える形になっておらず、経営者自身も明確に把握できていないのです。

同じ価値を持つ商品なら特徴がはっきりしている方が売れます。企業も同じで、コアコンピタンスが明確な方が顧客に対してもリクルート面でも有利です。ならばコアコンピタンスを明確な武器に顕在化させましょう。

コアコンピタンス作りは鉱床から鉱石を掘り出し、精錬して金属を取り出して、磨いて宝石に仕立てあげる作業です。クラウドやiOTなど新しいビジネスにチャレンジするのも良いですが、その前に、いや、そのためにも

  1. コアコンピタンスを認識して、
  2. 武器すべきコアコンピタンスを選り抜き、
  3. そのコアコンピタンスを育てて、
  4. 「◯◯に強い会社」

と社会に認めさせましょう(図1)。

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図1:コアコンピタンス作りの4つのステップ

コアコンピタンスをTTWで認識する

コアコンピタンスは人々が認めて初めて成り立つものなので、実は自分の思い込みと世間の評価のギャップが大きいものです。いろいろな人の意見を聴いてみましょう。前回紹介したTTW(Think Tank Windows)とMindMapの組み合わせが有効な手段です。経営幹部が集まったときにTTWの真ん中の窓に「自社のコアコンピタンスは何か?」というテーマを入れて、みんなが挙げてくれたものをMindMapに整理してみると、見えていなかったコアコンピタンスがぼ~っと浮かんできます。

また、他人(他社)の意見も聴いてみましょう。お付き合いしている顧客や仕事仲間に「うちのコアコンピタンスってどんなことだと思いますか?」と聴いて廻り、それを先ほどのMindMapに付け加えるのです。自分たちの思いに他社が見る客観的な評価が加わり、像の輪郭がさらにはっきりしてきます。

おそらく「真面目」とか「顧客想い」とか、武器に仕立てにくいものも多く出てくるでしょう。それはそれで悪いことではありません。そのままでは使いにくい特徴ですが、社内外からそんな良質の強みが挙げられるのは喜ばしいことです。

そのような”自社の良さ”の土壌の中に、磨けば光りそうな原石をちらほら発掘できたらしめたものです。例えば、製造業のお客様が多い、物流に強い社員がいるなどの業界モノでも良いし、AWSをやっている、スマホアプリの仕事が増えているなどの技術モノでも良いです。

ここはまだ輝いていない原石を見つけ出す段階なので、「こんなものコンピタンスにならない」と思うようなものもていねいに拾い上げてください。そして第2段のTTWを行って掘り下げるのです。2回目は取り出した原石をTTWの真ん中において、「◯◯におけるコアコンピタンスは何か?」と該当部門に聴いてください。原石の中から、いろいろな輝きが光を発してくるはずです。

武器とすべきコアコンピタンスを選り抜く

玉石混交の輝きの中から武器になりそうなコアコンピタンスを選り抜くには、市場ニーズとも照らし合わせなければなりません。粒が大きい(得意度合いが高い)石でも市場価値の低いものであればいったん横に置いて、小さくても高値の付く貴石を選びましょう。真珠の核入れと同じく、これと決めたら時間をかけて大きくしていけば良いのです。

横に置いた石でも、捨てないで活用する方法を考えてみましょう。例えば“会計に強い”という原石が見つかった場合、それをクラウドサービスで展開するとか、IFRS(国際会計基準)に特化した強みを持つとか、AIと組み合わせたAI会計を先駆けるとか、市場ニーズに合った台座に載せかえれば十分価値が増して武器になりえます。

「三人寄れば文殊の知恵」と言います。良いディスカッションはすばらしいアイデアを産みます。1人で独善的に考えるのではなく、現場のキーマンたちとディスカッションして選りすぐってください。

コアコンピタンスを育てる

コアコンピタンスを決めるよりも、それを通用する“武器”にする方がずっと大変です。ここでいう武器とは必ずしも自社製品やサービスを作って新事業を始めるというものではありません。SES(System Engineering Service:常駐・派遣)の仕事でも請負開発の仕事でも、コアコンピタンスを意識して時間をかけて磨いていけば必ず同業他社との差別化になります。自社なりの武器をイメージして段階的に育てていきましょう。

口先だけでコアコンピタンスを育てる作業は失敗します。きちんと計画を立てて、担当者をアサインして、先行投資も辞さない、そんな”本気度”を伴った根気強いものでなければ、途中でウヤムヤになってしまいます。次の3ステップを踏まえて3年、5年、10年というスパンで育てていく決意で臨んでください。

  1. アクションプランを作る
  2. 担当者と責任者を決める
  3. きちんと予算を取る

コアコンピタンスを認めさせる

どんなに良い製品を作っても、営業・マーケティングしなければ売れません。コアコンピタンスも同じで、良い武器になったとしても、それを顧客にアピールできなければ宝の持ち腐れになります。

一般にSIerは営業・マーケティングが下手くそです。専用組織すら満足になく、”トップや開発部門長が営業を行う人”という形態のところも多いです。しかし、コアコンピタンスを武器にするからには、きちんと営業・マーケティングの予算や体制を確保しなければなりません。そして、そのコストもバカにならないのです。その覚悟をアクションプランと予算に反映してください。なお、営業・マーケティング力の強化方法については、別の機会に取り上げる予定です。

ナレッジ・マネジメントを成功させる

TTWから見えてくるコアコンピタンスは、的は当たっているものの尖っていません。概括的なものが多いため、他社にも似たり寄ったりのものがあります。これを削って磨いて差別化できる武器にするためには、別の角度からも結晶を探しだす必要があります。

ナレッジ・マネジメント(KM)にもう一度チャレンジしてみましょう。ここで”もう一度”と付け加えているのは、おそらく過去に失敗したことがあると勝手に想像しているからです(笑)。業務改善などでヒアリングすると、必ず出てくるのが「ナレッジの共有がなされていない」という意見です。「では」ということでナレッジ共有の仕組みを作っても、いつの間にか形骸化して活用されなくなってしまう。KMはかように定着が難しい管理領域なのです。

それほど難しいKMをあえてもう一度やろうって言うのは、それがコアコンピタンス作りに欠かせない唯一無二の方法だからです。SIerの宝は社員です。社員1人ひとりのスキルや経験、ノウハウが会社の財産なのです。財産が社員1人ひとりの中に眠っている状態は、鉱床にゴロゴロ原石が埋まっているのと一緒です。

常駐・派遣形態だとKMが難しいと思われますが、さまざまな企業に社員が分散しているSESこそKMは必要になります。1人ひとりとよく話してみてください。先駆的な技術に取り組んでいて、お客様以上に実質のノウハウを持っている社員がぞろぞろいます。そんな個々の原石を集めて、会社としての”強み”に具現化するためには、どうしてもナレッジの共有が必要なのです。

<<コラム>>KMはSIerのデータマイニング

IT業界では次々と新しい技術や製品・サービスが登場します。それがこの業界の面白さですし、新しいものにチャレンジするのが醍醐味なのですが、ともすると次から次へと目移りするだけで、自分たちのビジネスに落とし込めていないことになります。

ビッグデータを背景にデータマイニングやAIなどに興味を持つのも良いですが、SIerにとって一番価値のある情報はクラウド上ではなく社員1人ひとりの頭の中にあったりします。みんなが自らやりも(やれも)せずにSNSだビッグデータだAIだと”ぶっている”ときに、社員1人ひとりの頭からのデータマイニングを行う。そんなふうにインターナルに目を向けてKMを成功させた会社の方がずっとかっこよく思えます。

失敗しないナレッジ・マネジメント

今度こそ失敗しない。そのためには「過去はどうして失敗したか」を考えてみる必要があります。KMがうまくいかない落とし穴は次の3つです(図2)。1つでも穴に落ちてしまうとたちまち廃墟となってしまう、それがKMの難しいところです。

  1. みんながナレッジを登録してくれない
  2. ナレッジが役に立たないものばかり
  3. ナレッジを誰も活用してくれない
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図2:ナレッジ・マネジメントがうまくいかない3つの落とし穴

では、穴に落ちないためにどうすれば良いか。ポイントは5つです。

(1)ナレッジ・マネジメント推進担当者(KMO)を設定する

最近のSIerは、組織できちんとプロジェクト・マネジメントを運用するためにPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)という担当を設定しています。同じような位置づけでナレッジ・マネジメントを推進するための担当者(PMOにちなんでKMOと呼ぶことにします)を決めてください。

その際に気をつけて欲しいのは若手には任せず、それなりの権限がある人にすることです。今度こそ失敗しないために本気度が問われているのです。私は自社のプロジェクト・マネジメント・ツールをお客様に導入する際に「この会社のプロジェクト・マネジメントがうまくいかなかったら誰の責任ですか」と聞くようにしています。それと同じく「ナレッジ・マネジメントがうまくいかなかったらあなたの責任です」というセリフをきちんと受け止められる人でなければ、ハナからうまくいかないのです。

(2)ナレッジ登録のルールを作る

半期に1人2件以上登録する、PJ終了時に必ず登録する、など登録ルールを作成し、ナレッジ登録を義務化したり、目標管理の目標に設定したりします。ナレッジの登録は、そのナレッジを持っている本人にとっては面倒なだけです。ルールがない限り、人はきちんと運用してくれません。

(3)ルール違反を取り締まる

交通法規があっても、警察官が取り締まらなければ守ってくれません。KMにおいても仕事の忙しさを理由にルールを守らない人がたくさん出てきます。KMOは部門長と力を合わせてルール違反をチェックし、厳しく指摘してルールを守らせる必要があります。このとき、ボス自らがルール違反を容認しているケースもあるので、KMOにそれなりの権限が必要になるのです。

(4)ナレッジ登録フォームを工夫する

本来、ナレッジの共有はコアコンピタンス作りのためではなく、あくまでもギブ・アンド・テイクです。自分に役立つ情報が蓄積されているからこそ、自らも有用な情報を提供しようと思うわけです。

有用な情報を書いてもらうためには、設問と記入例でかなり工夫する必要があります。ナレッジは報告書ではないので、一般的なことを記入してもらっても仕方がありません。例えば、「このプロジェクトならではのユニークな取り組みは?」「先進的、新規性のあることは何をやったか」「他の人に役立ちそうな技術・ノウハウは?」などと”読む人に役立つ情報を書く”という意識を持ってもらう設問にします。さらに、その主旨に沿った記入例も書いておくと有益な情報が集まるようになります。

(5)ナレッジ浸透の場を作る

ナレッジに蓄積しておけば、誰でも必要な時に検索して活用できる。確かにそれがKMなのですが、それだけでは教科書が本棚に並んでいるだけの状態と同じです。社内研修会を開いて教育するように、ナレッジの存在と有用性を1人ひとりに伝える積極的アプローチを考えてください。

例えば、SI社では「カスタマイズ情報共有会」というものを行っています。自社のECパッケージソフトをカスタマイズした場合に、カスタマイズすることになった背景(顧客ニーズ)や、どうカスタマイズしたかなどのナレッジを登録しているのですが、単なる蓄積だけに終わらせず、情報共有会を開いて説明するのです。

「あ、今のプロジェクトでやろうとしているのと同じだ」「私も以前に同じ要望を受けたけど、こういうやり方にした」「こういう方法があるのに、なぜその方法にしたのですか」など有益なディスカッションがなされ、参加者それぞれに気付きがあって活気づいています。

SI社のものは自社製品主体のナレッジですが、さまざまなお客様と接するSESなら先端技術だったり開発手法だったり、より幅広いナレッジを個人が取得できています。ナレッジを蓄積するだけに比べて、こういう浸透の場を設けると効果が10倍にも20倍にも膨れ上がりますので、自社に合った”ナレッジ共有会”を企画してみてください。

著者
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
株式会社システムインテグレータ

東芝、SCSKを経て1995年に株式会社システムインテグレータを設立し、現在、代表取締役社長。2006年東証マザーズ、2014年東証第一部上場。

前職で日本最初のERP「ProActive」を作った後に独立し、日本初のECパッケージ「SI Web Shopping」や開発支援ツール「SI Object Browser」を開発・リリース。日本初のWebベースのERP「GRANDIT」をコンソーシアム方式で開発し、統合型プロジェクト管理システム「SI Object Browser PM」、アプリケーション設計のCADツール「SI Object Browser Designer」など、独創的なアイデアの製品を次々とリリース。最近は、AIを利用したサービスに取り組んでいる。

主な著書に「Oracle8入門」シリーズや「SQL Server7.0徹底入門」、「実践SQL」などのRDBMS系、「グラス片手にデータベース設計入門」シリーズや「パッケージから学ぶ4大分野の業務知識」などの業務知識系、「実践!プロジェクト管理入門」シリーズ、「統合型プロジェクト管理のススメ」などのプロジェクト管理系、最近ではThink ITの連載をまとめた「これからのSIerの話をしよう」を刊行。

「日本のITの近代化」と「日本のITを世界に」の2つのテーマをライフワークに掲げている。

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