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この連載が書籍になりました!『これからのSIerの話をしよう エンジニアの働き方改革

営業力を強化する

2017年2月23日(木)
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)

はじめに

みなさん、こんにちは。これまで社員の育成や合理化のための投資など、内向きの課題について取り上げてきました。今回は、いよいよ企業の成長に欠かせない「営業力の強化」について考えてみましょう。

「会社の改革のためのその9」ー「営業力が弱い」に情愛を感じていてはいけない

SIerは「営業力が弱い」に甘んじている

「企業が成長するためには営業力が重要だ」。おそらく誰もこの言葉に異論はないでしょう。しかし、続いて「あなたの会社は営業力が強いですか」と質問をすると「いや〜、うちは技術中心なので営業力は弱いんだよなぁ」と少し自虐的な答えが返ってきます。

さらに、「では営業力を強化する具体的な取り組みを行っていますか」と突っ込むと、「今考えているところ」となんとなく頼りない回答だったりします。まるで「俺って不器用だから」「私ってわがままだから」と言ってるくせにちっとも治そうとしない人のように、「営業力が弱い」ことに対して、どこか諦観というか情愛のようなものまで感じられます。

会社のコアコンピタンス作り」の中で、「一般にSIerは営業・マーケティングが下手」「トップや開発部門長が営業を行う人という形態のところも多い」と述べました。いったい、なぜSIerは営業力が弱いのか。今回はこの現実に向き合って、このままでいいのか今一度考えて行きます。

”率”をKPIとして管理する

まずは、営業にどれくらいコストをかけているかを数値で把握してみましょう。「あなたの会社の売上高販売費率はどのくらいですか」。実は、この質問におおよそでもパッと回答が返ってくることはそう多くありません。どこも財務諸表に出てくる売上高販管費率は算出しているのですが、売上高販売費率と売上高管理費率をそれぞれ独立したKPIとしてトラッキングしていないのです。

合理化・効率化のために先行投資をする覚悟」の中で、ソフトウェア業の売上高販管費率は19%という調査報告を紹介しました。実際のところ、常駐・派遣主体のSIerはこの値よりもかなり低く、1桁台の企業も多いと思います。

インターネットで”売上高販管費率”を検索すると、ほとんどのページで”低いほど良い”と書かれています。本当でしょうか。おそらく、これは経理畑の人が経営管理だけの狭い視点で言っているのだと思います。ビジネスという観点や社員の福利厚生、さらに研究開発への投資など事業全体を見渡して考えれば、「必要なコストを適切にかけるべき」ということは一目瞭然です。つまり、”低いほど良い”ではなく、今の会社に最適なコストを見極めてコントロールしてゆくことが大切なのです。

そのためには、「販売費及び一般管理費」という勘定科目区分ではどんぶり勘定過ぎます。なぜ、外向きのコストである販売費と内向きのコストである一般管理費を一緒くたに見るのでしょうか。少なくとも販売費と一般管理費は分けてチェックしてください。さらには営業人件費や広告宣伝費、研究開発費、コンピュータ関連費などにブレークダウンして予算と実績を管理する必要があります。

「え、そんなのやっているよ」。そんな声が返ってきそうですね。もちろん、どの企業もここで挙げたような勘定科目毎に予算を定め、実績をトラッキングしているはずです。ここで言いたいのは、「売上高販売費率」「売上高広告宣伝費率」など売上高に対する割合でKPI化してコントロールしているかどうかです。”率”に注目することによって、初めて自社に最適なコスト(投資予算)の多寡をイメージできるのです。

簡単な例で説明しましょう。下記の表は、販売に関わる数値を部門別に管理したものです。販売労務費(人件費)や広告宣伝費など、販売費の内訳となる科目それぞれの売上高に対する割合をKPIとしてトラッキングしています。

表:営業にかかるコストをKPIとして管理

この会社には専任営業がおり、営業部門が売上高を上げている想定です。SIerは既存顧客からのリピート注文を開発部門で取ることも多いので、開発部門の人が自ら営業行為をした工数を「営業支援費(開発振替)」としてカウントしています。営業部門がない組織の場合は売上高も販売労務費(営業に費やした工数)も開発部門自身の計上となり営業支援費という扱いは不要となります。

表の売上高販売費率を見ると、部門Aで4.1%、部門Bで6.2%となっています。みなさんは、この数値を高いと感じますか、低いと感じますか。「わからない」という方は、たぶん日頃自社の売上高販売費率を意識していないのでしょう。

同じような計算で自社の数値がどれくらいなのか確認してみましょう。実績把握だけでなく目標値も設定して予実管理してください。単年度だけでなく年次推移グラフでチェックしてゆくと、自社(自部門)に適した数値が徐々に見えてきます。

営業力の強化=成長

ここで悩ましい問題があります。営業力を強化するとして、いったい何を売るのでしょうか。本当のところ、「営業力が弱い」に甘んじているSIerは、”人”以外に売るものがないSES中心の企業です。それが証拠にディーラー上がりのSIerならば、コンピュータやネットワーク機器などのハードを販売してきた生い立ちなので、根本的に営業中心の企業風土が根付いています。

一方、ソフトハウス上がりのSIerは、常駐・派遣を継続(もしくは増員)してもらうリピート営業が主体です。ハード販売に比べて新規顧客開拓の比重が小さい分、営業コストを低く抑えてもやりくりできます。特に昨今のようなエンジニア不足が続いている状況では、新規開拓などしなくても十分食っていけます。つまり、”特段必要ないから営業にパワー(コスト)をかけていない”というのが実態なのです。

「じゃあ、いいじゃないか」。そう思うのは間違いではないかもしれません。しかし、景気は必ず循環します。今のうちに何か手を打っておかないと、いざ不景気になったときに「あの時、やっておけばよかった」ときっと後悔します。

また、5年後の企業の姿を思い描いてください。売上は何割アップしていますか、社員数はどのくらい増えていますか。このように会社の成長を考えたときに営業力強化は必須条件になります。今のまま”食っていけるからいい”と思っているうちは、いつまで経っても現状維持に毛の生えた低成長を余儀なくされるのです。

売上規模や社員数が小さい会社では、独立した営業部門が存在せず、社長が自ら人脈営業で勝負しているケースも少なくありません。創業してそれほど年数が経っていないアーリーステージの会社なら、これはこれでいいでしょう。でも、創業して10年も15年も経っているのに、さっぱり成長していないとしたら、営業力の強化を本気で考えなければならないのです(図)。

図:「営業力の強化」=「成長」

営業力の強化計画と強い意志

「よし、営業力を強化するぞ」。思い切ってそう決断したなら、具体的な「強化計画」を立てましょう。例えばこれまでSES中心でやってきて、営業専任部門がない企業であれば、次のようなアプローチになります。

(1)営業要員を拡充する
外部から営業を採用する、もしくは社内のエンジニアを営業にコンバートするなど、まずは営業要員をきちんと確保します。この際、前述の「売上高営業人件費率」や「営業一人当たりの売上高」なども意識してください。

(2)営業部門を組織し、役割を明確化する
SES主体の会社では、開発部門が営業活動も担っているケースが多いです。空き要員が出そうになると部門長自らが営業として既存顧客やツテを回り、受け入れてくれるところを探します。人手不足が続いているうちは、この低販売費体制もうまく機能します。しかし、不況に備えたり、会社の成長を思い描いたりする場合は、積極的な新規顧客開拓にも精を出さなければなりません。

新規顧客の開拓には、専任営業が必要となります。リピート営業は、お腹がすいたときだけ狩りに行くネコ科の猛獣スタイルでいいですが、新規開拓は絶えず獲物を探していなければなりません。専任営業を組織したら、例えば次のように新規開拓と既存リピートとで役割分担を明確にし、それぞれ目標を設定しましょう。

既存顧客のリピート:開発部門
新規顧客の獲得:営業部門

人手不足の昨今は、開発側の空き要員がないかも知れません。それでも、新規顧客獲得をやれ(やら)ないってことはありません。空きが出そうな時のために新規取引する相手を探しておいたり、今のお客様との契約条件で満足せず、自社にとってもっと良い顧客を開拓したりしていく攻めの営業が、次なる成長へ導いてくれるのです。

(3)強い営業を育てる仕組みを作る
営業力の弱いSIerが営業要員を確保して営業部門を確保しても、すぐには強くなれません。組織の営業スタイルを確立し、個人個人に合った営業スキルを身に着け、精力的に人脈を広げてゆく。営業力が強くなるまでには、相当な時間がかかることを覚悟してください。行き当たりばったりでなく、営業力強化の中長期計画を立て、都度、進捗を確認しながら強い営業を作っていきましょう。

<<コラム>>強いクラブの謎

意を決して営業強化に踏み切っても、なかなか満足のいく成果は出ません。営業部門を設置して、外部から営業を採用し、内部からも営業向きの社員をコンバートしてきちんと予算を取ってやっているのに、なぜ強くなれないのでしょうか。

若い頃、「強いクラブの謎」について考えたことがあります。たとえ話でお話ししましょう。中学時代にバドミントン部でライバル関係だった2人が、別々の高校に入学してそれぞれバドミントン部に入部しました。この2人が1年後に対戦すると、バドミントンの強豪校に入ったA君は弱小校に入ったB君よりも強くなっています。何が違うのかはっきりとは言えませんが、強い組織には自然と人を強くする空気が備わっているのです。

逆に言えば、営業力が弱い(苦手な)会社で強い営業を作るのは難しいことです。なかなか思うようにいかず、往々にして「うちはやっぱり営業が苦手なんだよなぁ……」と弱気になってしまいます。SIerの多くが体質強化による成長ではなく、M&Aを繰り返した社員の足し算による成長になりがちなのも、このあたりに原因がありそうです。

しかし、箱根駅伝でも弱くて出場できなかった大学が優勝を争うようなチームに変身したり、強かった伝統校が弱体化して予選落ちしたりすることもあります。今は営業力が強いと称される企業でも、最初から強かったわけではありません。”強いクラブの謎”の呪縛を認めた上で、「それでも努力していれば、きっと強いクラブになれる」と信じて3年、5年スパンで辛抱強く取り組みましょう。そうしない限り、会社はいつまでも成長しないのですから。

(4)”人”以外に売るものを作る
営業力を強化するといっても、この先も常駐・派遣の仕事だけ続けるつもりならば上記の(1)(2)だけで十分でしょう。でも、本気で成長し続ける会社を目指すのなら、”人”以外の売るものを持ちましょう。「会社のコアコンピタンス作り」で述べたように、売り物となるコアコンピタンスを持って、それを磨いて武器にしてください。そうすれば、それを売るための営業が必要となり、結果、営業力が強化されて成長できるのです。

赤い女王と三段論法

営業・マーケティング力の強い企業を3つ思い浮かべてください。きっとどの企業もいいペースで成長しているはずです。「同じ場所にとどまるためには、絶えず全力で走っていなければならない」。これは不思議の国のアリスの赤い女王の言葉です。企業は成長し続けないと澱んでしまいます。そう考えると「今のままでいい」などとは決して言えないのです。

最後に三段論法で締めたいと思います。

A(大前提) 営業力が強くなければ会社は成長しない。
B(小前提) 常駐・派遣中心でやっている限り、営業力強化の余地(必要性)は限定的である。
C(結論) 常駐・派遣中心のままでは、会社は成長しない。

なお、本来は営業力の先に“マーケティング力の強化”という重要課題もあるのですが、それは”人”以外に売る自社製品を持ってからの課題なので、今回は営業力のみ取り上げました。

著者
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
株式会社システムインテグレータ

東芝、SCSKを経て1995年に株式会社システムインテグレータを設立し、現在、代表取締役社長。2006年東証マザーズ、2014年東証第一部上場。

前職で日本最初のERP「ProActive」を作った後に独立し、日本初のECパッケージ「SI Web Shopping」や開発支援ツール「SI Object Browser」を開発・リリース。日本初のWebベースのERP「GRANDIT」をコンソーシアム方式で開発し、統合型プロジェクト管理システム「SI Object Browser PM」、アプリケーション設計のCADツール「SI Object Browser Designer」など、独創的なアイデアの製品を次々とリリース。最近は、AIを利用したサービスに取り組んでいる。

主な著書に「Oracle8入門」シリーズや「SQL Server7.0徹底入門」、「実践SQL」などのRDBMS系、「グラス片手にデータベース設計入門」シリーズや「パッケージから学ぶ4大分野の業務知識」などの業務知識系、「実践!プロジェクト管理入門」シリーズ、「統合型プロジェクト管理のススメ」などのプロジェクト管理系、最近ではThink ITの連載をまとめた「これからのSIerの話をしよう」を刊行。

「日本のITの近代化」と「日本のITを世界に」の2つのテーマをライフワークに掲げている。

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