vForum 2016レポート:オンプレミスとパブリッククラウドの連携に賭けるヴイエムウェアのクロスクラウド戦略とは
仮想化基盤のリーダーであるヴイエムウェア株式会社は、2016年11月8日にプライベートカンファレンスである「vForum 2016」を開催した。2日間の会期に行われた100以上のセッションを通じて、最新のハイパーバイザーの紹介、vSphere 6.5の概要、Software Defined StorageであるVSANの解説、パートナーセション、顧客事例紹介などが行われた。
vForum 2016の前日に開かれた記者会見で、VMwareのCEOであるパット・ゲルシンガー氏と日本法人の社長、ジョン・ロバートソン氏は、VMwareが提唱する「Cross-Cloud Architecture」に関して記者会見を行った。
クラウド上のITワークロード急増時代のVMwareの戦略
その会見の中でゲルシンガー氏は、「現行のオンプレミスのハードウェアで実行されているITワークロードは、2030年までに大きくクラウド側に移行する」というリサーチ結果を紹介した。VMwareとしては、オンプレミスで稼働しているワークロードはOpenStackなどのプライベートクラウドではなく、パブリッククラウドにその大半が移行すると予想しているようだ。つまりアマゾン、グーグル、マイクロソフトの3大パブリッククラウドが、そのワークロードを稼働させる土台となるわけだが、その上で稼働するハイパーバイザー、ストレージ、ネットワークスタックは全てVMware製品で構築していく、という戦略らしい。パブリッククラウドの強豪と直接競合することは避け、VMwareが2011年から提唱しているネットワーク、ストレージを全てソフトウェアで実現する「Software Defined Data Center(SDDC)」をキャッチコピーにして、エンタープライズを取り込んでいこうという発想だ。こうすることで、現在オンプレミスで稼働している仮想化基盤とその管理ノウハウがそのまま使えるというのが利点だろう。
これは、先日開かれたMicrosoft Tech Summitでのマイクロソフトも何度も繰り返していたメッセージである「オンプレミスでWindowsサーバーを使っているなら、そのままWindows 2016に移行すべき。Azureを使っているなら、そのままAzure Stackに移行できる」という部分と重なる発想だ。つまり、従来の知識と経験を無駄にせずに新しいプラットフォームに移行させるための方法論であり、多くの既存顧客を持っているベンダーとしては当然の選択と言えるだろう。
またRed Hatが進めるRed Hat VirtualizationやRHELを、AWSやAzureなどのパブリッククラウド上で展開していこうとする戦略とも似ているように思える。ただVMwareはOSそのものは持っていない(コンテナ用のフットプリントが小さいLinuxであるPhotonはOSと言えば言えるかもしれないが)ため、WindowsでもLinuxでも顧客の好きなものを使えばいいという意味では縛りがないと言える。VMwareは、同社が手がけるパブリッククラウドのvCloud Airを北米市場にのみ展開するということで、日本国内では他社のパブリッククラウド拡大の波に乗っていく作戦に見える。
Red Hatがオープンソースソフトウェアをコアにして、Red Hatがサポートする安定指向のエンタープライズ向けソフトウェアと、コミュニティが開発を進める開発のスピード優先のコミュニティ版ソフトウェアの2本立てで進んでいこうとしているのに対し、VMwareはあくまでも自社開発のソフトウェアだけでそれを実現しようとするやり方だ。ジェネラルセッションのゲルシンガー氏が紹介したデモでも、クラスターにNSXを組み込んでサーバー間の通信を暗号化したり、オンプレミスからパブリッククラウドに仮想マシンを移動するvMotionのデモでワークロードを瞬時に移行できることを見せたりしていた。その一方で、コンテナのオーケストレーションやアプリケーションのコンテナ化、PaaSを使ったモダンなアプリケーションの開発などには全く言及せず、ひたすら「データセンターのインフラ部分にVMwareソリューションを使って欲しい」「パブリッククラウドとの連携には(テクニカルプレビューとして公開が始まった)、VMware Cross-Cloud Servicesを使って欲しい」というのが伝えたいメッセージだったようだ。実際のデモは、ネットワーキングセキュリティ部門のプロダクト担当副社長、ミリン・デサイー氏が登壇して行った。
ゲルシンガー氏の発表に続いて、日本の顧客事例として大和総研、東レシステムセンター、ドコモ・システムズのキーパーソンが登壇し、プレゼンテーションを行った。大和総研はデータセンターのネットワークの部分にNSXを導入してコスト削減と柔軟性の実現、東レはハイパーコンバージドを使ったエラスティックなクラウド環境、ドコモ・システムズはモバイルに特化したVDIの活用と、3社がそれぞれVMwareの得意な部分を活用したユースケースを紹介した格好だ。
クラウドネイティブなアプリケーションの代表例としてのコンテナの話を一切出さずに、パブリッククラウドとの連携を主なメッセージとして打ち出した初日のジェネラルセッションであった。
イベントそのものは非常に盛況で、仮想化のリーダーがVMwareであることを示していたように思える。マイクロソフト、レッドハットなどのカンファレンスと比較して、スーツにネクタイ姿が多かったのは単に肌寒い季節に行われたカンファレンスであると言う以上に、エンジニアよりも管理職レベルの参加者が多かったということなのかもしれない。
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