One Cloud、Any Applicationの実現(前編)
2015年 仮想化プラットフォームの新事情
VMware vSphere 6.0、Microsoft Hyper-V、RHEV 3.5の仮想化プラットフォームについて、新機能と機能拡張を中心にその最新動向を探る。 この特集のまとめPDFを無料でダウンロードできるようになりました!VMware社が最近のビジョンとして掲げる"One Cloud, Any Application"を軸に、VMware vSphere 6.0で追加された新機能・拡張機能について紹介します。
One Cloud, Any Application
VMwareが訴える最新のメッセージが“One Cloud, Any Application”です。単純に日本語に置き換えれば、「1つのクラウドであらゆるアプリケーションを」という感じになるでしょうか。One Cloudは、同社が以前から主張しているハイブリッドクラウドを意味します。オンプレミスのITリソースと外部のクラウド上のITリソースを連携させ、あたかも単一のクラウドであるかのようにシームレスに扱える、ということを表しています。そして、この環境で実行されるワークロードはAny Application、つまり、従来はこうした仮想環境では実行が難しかった種類のアプリケーションも、実行可能になったと理解してよいでしょう。 vSphere 6では、総計で650以上の新機能が追加されたとのことですが、ここですべてを網羅することは到底不可能なので、同社のキーメッセージである“One Cloud, Any Application”に注目し、このコンセプトを実現するために追加された、新機能や機能拡張について概要を見ていくことにします。
One Cloudの実現
ハイブリッドクラウドというコンセプトは、パブリッククラウドが実用段階に入ったごく初期段階から語られており、決して目新しいものではありません。しかし、VMwareによれば今回のvSphere 6の投入によって、ようやく“真のハイブリッドクラウド”が実現可能になったのだといいます。その1つの意味は、クラウド間でvMotion(ライブマイグレーション)が可能かどうか、という点にあります。稼働中の仮想マシンを別の物理サーバーに移動するライブマイグレーションという技術には、前提となる制約条件がいくつか存在しています。よく知られている「移動元/移動先の物理サーバーが同一のL2ネットワーク上に存在する」という条件もその1つです。これは、移動の前後でIPアドレスを付け替えるわけにはいかない、という事情によるものですが、ほかにもさまざまな条件があり、そのうちのいくつかはハイブリッドクラウド環境で、クラウド間でのライブマイグレーションを実行する際の障害になっていました。
遠距離のライブマイグレーション:Long Distance vMotion
まず、vSphere 6では新たに “Long Distance vMotion”がサポートされました。名前から分かるとおり、長距離でvMotionを実行可能になったというのは、本質は地理的な距離というよりもネットワークの遅延にあります。従来のvMotionでは、RTT(Round Trip Time)が10ms以内、という条件があり、これはもちろん、単一のデータセンター内であればまったく制約にならないレベルだが、遠隔地間での実行の際にはネットワークの回線品質や混雑具合によっては達成できないこともあります。国内で言えば東京−大阪間くらい離れるとRTTは10msに近い値になってきます。Long Distance vMotionでは、この条件を緩和し、一挙に10倍の100msまで対応可能としました。この拡張によって、従来は不可能だった遠隔サイトをvMotion可能範囲に収めることが可能になり、移動先の選択の幅が拡大されたということです。
Cross vSwitch vMotionとCross vCenter vMotion
また、Long Distance vMotionを実現するためには、同時に対応する必要がある2つの機能拡張も同時に行われています。“Cross vSwitch vMotion”と“Cross vCenter vMotion”です。まず、Cross vSwitch vMotionは、異なる分散仮想スイッチ間でのvMotionを可能にするもので、仮想スイッチのタイプが異なっている場合も、標準スイッチから分散スイッチへ、という方向であればサポートされるようになっています。次いで、より恩恵が分かりやすいと思われる機能拡張がCross vCenter vMotionです。これは、異なるvCenter Serverの管理下にある物理サーバーへのvMotionが可能になるというものです。
vCenter ServerはvSphere環境の運用管理の中核となるため、独立した環境として構築/運用されているクラウドでは、それぞれvCenter Serverが稼働しているのが普通です。したがって、クラウド間でvMotionを実現しようと思えば、結果としてそれはあるvCenter Serverの配下にある物理サーバーから別のvCenter Server配下の物理サーバーへのvMotionという形にならざるを得ません。これがサポートされていない状態では、別のクラウドへのvMotionは不可能だったわけです。今回、Cross vCenter vMotionとCross vSwitch vMotionがサポートされ、さらにLong Distance vMotionが加わったことで、vMotion可能な物理サーバーの選択は従来の制限を超えて、ハイブリッドクラウド全体に拡大されたといってよいでしょう。
これが、同社の言う“真のハイブリッドクラウド”の意味であり、単一のクラウド環境内であれば実行可能であったvMotionを、複数のクラウド間でも実現できるようにすることで、複数のクラウドからなるハイブリッドクラウド全体を、“One Cloud”として扱うことができるようになる、ということです。クラウド間でのライブマイグレーションが必要となる状況がどれほどあるかというのは、ユーザーやワークロードによってもまちまちでしょうが、少なくともvSphere 6の市場投入によって、これまで常識とみなされてきたハイブリッドクラウドの運用上の制約が解消され、一段高いレベルに質的向上を図ることになるのは間違いありません。
vCloud Air
One Cloudという点に関しては、オンプレミス側の仮想化プラットフォームがvSphere 6になるだけではなく、外部のクラウドも同じくvSphere 6環境になっていなくてはシームレスな連携は実現できません。そのためのサービスとして提供されているのがエンタープライズユーザー向けのクラウドサービスである“VMware vCloud Air”です。パートナーモデルで提供され、日本国内ではまずソフトバンクグループと共同でサービス提供が開始されています。
もともとはエンタープライズ市場を軸に、オンプレミスのITリソースを仮想化することに注力してきたVMwareですが、vSphere 5、vSphere 5.5といった先行リリースで段階的にクラウド環境への対応を強化してきています。今回のvSphere 6では、ついにパブリックなクラウドサービスであるvCloud Airとの密接な統合で“One Cloud”を現実の環境として運用可能なレベルにまで実装しています。最下層の土台をなすハイパーバイザーや仮想マシンのレベルにおいても、継続的な進化を続けており、同社のビジョンの確かさと、ビジョンの実現に向けて中長期的な開発を継続する能力には改めて感心させられます。まさに現在のITインフラの土台を支えるにふさわしい、堅実な取り組みだと感じられます。
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