連載 [第4回] :
  Red Hat Summit 2019レポート

Red Hat Summit 2019で製品担当エグゼクティブが語るイノベーションの源泉

2019年6月20日(木)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
Red Hat Summit 2019で、製品とクラウド担当のEVP、SVPにRed Hat製品の未来について語ってもらった。

Red Hat Summit 2019では、CEOのJim Whitehurst氏を始めとして多くのエグゼクティブがメディアやアナリストの質問に答えるラウンドテーブルやブリーフィングが行われた。これはプレスリリースなどで発表された内容の詳細な説明や質疑応答を行うためのもので、ここからメディアやアナリスト達は方向性や将来性などを分析することになる。当然機会があれば、1対1のインタビューを行ってさらに深い内容に切り込んでいくことになる。

ジェネラルセッションに登壇するPaul Cormier氏

ジェネラルセッションに登壇するPaul Cormier氏

今回はRed Hatの製品とテクノロジーのトップであるプロダクトとテクノロジー担当のExecutive Vice President、Paul Cormier氏のラウンドテーブルと、クラウドプラットフォームのSenior Vice PresidentのAshesh Badani氏の個別インタビューをお届けする。

Cormier氏は文字通り、CEOに次ぐポジションとしてRed Hat製品のトップである。またBadani氏は、OpenShiftがバージョン3でKubernetesをベースに全く新しく書き直したところから、1000社以上のエンタープライズでの導入を成し遂げた現在に至るOpenShiftの躍進を支えたリーダーである。さらにBadani氏は、OpenShiftだけではなくOpenStackも統括するポジションとなり、Red Hatの中でクラウドを指向する製品を統括する立場になる。

まずはPaul Cormier氏のラウンドテーブルで行われた質疑応答を紹介する。冒頭に「今回のサミットのポイントは2つに集約される」として語ったのは「Linuxとオープンソースがイノベーションの源泉となった。すでに17年の歴史を持っているLinuxは、当初はエンタープライズ向けの堅牢性と安定性を訴求していたが、最近はイノベーションそのものがLinuxから発しているということに多くの企業が気付いている」ということだった。

そして「パブリッククラウドベンダーが『これからは全てがクラウドに向かう』と盛んに宣伝していたが、結局そうはならずにエンタープライズの選択はハイブリッドでマルチクラウドになった。つまりオンプレミスは今でも必要だし、クラウドについても複数のサービスを使い分けることになった。一つのパブリッククラウドベンダーに縛られることは、即ロックインになってしまうことがよく理解されているということだと思う」と語った。自らはパブリッククラウドのインフラを持たず、100%オープンソースという立場を変えないRed Hatの立ち位置がよくわかるコメントとなった。

オープンハイブリッドクラウドが企業のデフォルトになる

オープンハイブリッドクラウドが企業のデフォルトになる

以降は質問に答える形となった。

今回のジェネラルセッションでは多くのAIベンチャーが登壇していたが、今後Red Hat製品の中にAIが含まれるようになるのか?

RHELは昔から人工知能のためのプラットフォームとして使われてきた。「多くのイノベーションがLinuxとオープンソースから起こっている」と言う際のイノベーションには、もちろん人工知能も含まれる。またRed Hatには、20年にも及ぶLinuxのサポート経験がある。その経験を機械学習を通じて提供するのが、Red Hat Insightsだ。元は別のサービスとして提供していたが、それをRHEL 8に組み込んだ。今後も、人工知能を製品の中に組み込んでいくことは続いていくだろう。

また人工知能と同じくらいに重要なのは、自動化を行うということだ。これはモノリシックなシステムからマイクロサービス、サービスメッシュの時代になってきたことと関連している。つまり膨大なリソースをマニュアルで管理することが不可能になってきたために、自動化を進めないと運用ができなくなっているということになる。また自動化と近い意味で運用の効率を上げるためにOperatorフレームワークにも多くの経験則が使われている。言ってみればテンプレートだが、これによって様々なソフトウェアがベストプラクティスとして提供できる。

Googleが最近発表したAnthosについてコメントは?

GoogleのAnthos(旧名:Cloud Services Platform)については、確かに言われているようにGoogle版OpenShiftなのかもしれない。だがOpenShiftは、Red Hatが築いてきた信頼性の高いRHELの上に成り立っている。GoogleがAnthosをエンタープライズに使ってもらううためには、土台となるOS、つまりGoogle製のLinuxを信用してもらう必要があるだろうね。

次にAshesh Badani氏のインタビューを紹介する。こちらは1対1のインタビュー形式で行われた。

クラウドプラットフォーム担当、Ashesh Badani氏

クラウドプラットフォーム担当、Ashesh Badani氏

3年前にリスタートして以来OpenShiftは大成功を収めていますが、これからのチャレンジは?

これからのコンピューティングモデルは、パブリッククラウドベンダーが言うように全てがクラウドになるわけでもない。オンプレミスは、これからも存在するだろう。だからRed Hatが提唱しているオープンハイブリッドクラウドが現実的な解になるし、事実なっていると言える。その際に利用者の側から見れば、サーバーのコンピュートもストレージもより抽象化されて巨大なリソースプールになる。そして使い方に関しても、ビッグデータや機械学習に使う企業もあるだろうし、IoT、エッジに使う企業もあるというように多様化してくるだろう。そのような使い方がもっと簡単に行えるように、プラットフォームも進化しなければいけない。それがチャレンジと言える。

ElasticやMongoDB、Redisのようにパブリッククラウドベンダーのフリーライドを阻止するためにライセンスを変更しているベンダーもいます。Red Hatは100%オープンソースという選択を行って唯一成功している企業ですが、マネタイズに苦労している企業に対するアドバイスは?

Red Hatは100%オープンソースを選択しているわけだが、それを他の企業に強要することはできない。あくまでも良いサンプルになることしかできない。ただオープンソースソフトウェアをマネタイズするためのエコシステムを提供することはできる。それがOpenShiftのOperatorフレームワークだ。この上でオープンソースソフトウェアを提供し、それを企業が使うことで、エコシステムが回るようになるし、オープンソースの上でのイノベーションを継続することができると考えている。

Microsoftが良い例だ。かつてはオープンソースソフトウェアを嫌っていた企業が、そこでイノベーションが起きているということに気付いて方向を転換した。オープンソースを使って企業がサバイバルするというのは確かに難しいが、不可能ではないよ。

RHEL 8でRed Hat Insightsが組み込まれたことは、『人工知能がOSに組み込まれた』と言ってもいいと思いますが、Kubernetesが「クラウドのOS」と言われるのであれば、OpenShiftにも人工知能が組み込まれる可能性は?

「KubernetesがクラウドとOSということになれば、OpenShiftもクラウドのOSと言えるようになりますか?」というのは、あなたが3年前にインタビューをした時に私にした質問だね。それはよく覚えている。なぜかと言えば、その時にはっきりと「そうです」と言えなかったから。

そして今なら、確実に「そうです」と言えるとは思う。ただ勘違いしないで欲しいのは、Kubernetesは確かに重要なプラットフォームの一部だが、あくまでも一部でしかない、ということだ。実際エコシステムは拡大しているし、OpenShiftもKubernetes以外のプロジェクト、例えばIstioやKnative、サービスメッシュを可視化するためのKialiなどのプロジェクトを取り込んで、様々な使い方に対応している。

だからKubernetesだけが全てではない。もちろんRed HatはKubernetesにコミットしているし、Googleの次に多くの貢献をUpstreamにしているという自負もある。それでも、Kubernetesだけが全てではない。例えばOpenStackもまだ多く使われているし、ジェネラルセッションのデモでやったようにベアメタルの操作にOpenStackのIronicプロジェクトを使うということも可能だ。OpenShiftからコンテナだけではなく、仮想マシンを使うためのプロジェクトKubeVirtもある。それにトレーシングを行うJaegerを使うこともできる。プロジェクトの名前に惑わされずに、必要なオープンソースプロジェクトを上手く組み合わせて使う、という発想が重要だ。

Cormier氏もBadani氏も、ここ数年来の最大の発表となったRHELやOpenShiftに対する絶大な自信を見せつつも、ベンダーロックインを避けるための努力を怠らない、選択は常に顧客側にあるという姿勢が貫かれており、大風呂敷を広げないRed Hatらしさが出たインタビューとなった。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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