VMwareとAWS が打ち出したクラウドサービス「VMware Cloud on AWS」
遂に2017年8月に「VMware Cloud on AWS」の提供開始が発表されました。本連載では、オンプレミスとパブリッククラウドをシームレスに接続するVMware Cloud on AWSの内容やメリットを紹介し、このサービスが与えるインパクトについても考察します。 第1回では、これまでに公開された情報を整理しつつ今後のロードマップを紹介していきます。
VMware Cloud on AWSとは?
VMware Cloud on AWS は、簡単に言うとVMware社が提供する仮想化ソフトウェア(vSphere/vSAN/NSX)が実装された専用サーバを、AWS基盤上で稼働させるサービスです。ユーザはAWSのデータセンタにある物理サーバを専有で契約し、VMware仮想化環境でアプリケーションを稼働させるため、自社のオンプレミスにあるVMware環境と同じ操作感覚でクラウドサービスを利用できます。
VMware社はSoftware-Defined Data Center(SDDC)というビジョンを掲げ、データセンタで稼働するハードウェア機器をソフトウェアによって仮想化することで、より柔軟かつスケーラビリティのある仮想化環境を提供してきました。VMware Cloud on AWS では仮想化された物理サーバがそのまま提供されるため、VMwareの仮想化ソフトウェアとAWSのクラウドインフラストラクチャが融合した「SDDC as a Service」とも言えるサービスになっています。
VMware Cloud on AWSの4つの特徴
VMware Cloud on AWSがこれまでのパブリッククラウドサービスと違う点として、大きく以下4つの特徴が挙げられます。
- オンプレミスの操作感とパブリッククラウドのスピード感
- オンプレミスからパブリッククラウドへのスムーズな移行
- AWSサービスを利用可能
- VMwareが運用・保守を実施
1. オンプレミスの操作感とパブリッククラウドのスピード感
VMware製品を採用しているユーザにとっては、パブリッククラウドに移行すると管理・運用オペレータが慣れ親しんできたVMware管理ツールを使うことができなくなるというデメリットがあります。VMware Cloud on AWSでは、使い慣れたVMware製品の管理画面をそのまま使用できます。
利用開始までのスピードという観点でも、オンラインから申し込むとわずかな時間で利用可能になります。オンプレミス環境のようにサーバ購入手続きや、設置・ケーブリングなどの作業は一切不要ですので、運用担当者の負荷を大幅に減らすことができるのです。
2. オンプレミスからパブリッククラウドへのスムーズな移行
VMware Cloud on AWSではオンプレミスからパブリッククラウドへの移行もスムーズに行うことができます。サーバ移行時の課題としてIPアドレス変更が必要になる点がありますが、VMware Cloud on AWSには標準で VMware NSXが組み込まれており、オンプレミスと同じネットワークをクラウド上に構築することで解決できるのです。ソフトウェアによって仮想化されたVMware SDDCならではの機能と言えるでしょう。 オンプレミス環境とL2VPNでネットワーク接続する機能や、サーバを停止せずに移行する機能は原稿執筆時点(2017年10月)では提供されていませんが、今後提供される予定です。
3. AWSサービスを利用可能
VMware Cloud on AWSで提供されるサーバ環境は、AWSのネットワークと通信可能です。このためVMware Cloud on AWSで稼働するアプリケーションはAmazon S3やAmazon RDSなどネイティブなAWSサービスを使用できます。
4. VMwareが運用・保守を実施
VMware Cloud on AWS では運用もVMwareによって行われます。例えば、契約している物理サーバに故障があった場合は、ユーザ環境をモニタリングしているVMware社によって修理対応が行われます。サポートについてもVMwareが行いますので、ユーザは運用に手を煩わせることはありません。
オンプレミス環境の運用負荷になるポイントとして、ソフトウェアの不具合対応などで発生する仮想化環境のソフトウェアアップグレードが挙げられます。この点においてもVMware Cloud on AWSでは自動的に行われますので、ユーザは常に新しいバージョンを利用できます。
4つの特徴で見てきたように、VMware Cloud on AWSではユーザの運用負荷を下げる仕組みを多く取り入れており、運用コストを削減したいユーザの声を反映したサービスに仕上がっています。サーバの稼働時間単位(1時間)で課金される契約なので、必要に応じて契約しいつでも解約できるというパブリッククラウドのように気軽に仮想化基盤の調達ができるのです。
VMware Cloud on AWSが提供する環境
原稿執筆時点では、VMware Cloud on AWSで提供される物理サーバのスペックは固定されています。基本的なスペックは以下の通りで、カスタマイズすることはできません。
スペック | 備考 | |
---|---|---|
CPU | Intel E5-2686 v4 2CPUs/18コア 2.3 GHz | ハイパースレッドはデフォルトで有効 |
メモリ | 512GiBメモリ | |
ストレージ | vSANオールフラッシュ構成 約10.2TBのキャパシティ/物理サーバ1台 |
ESXiホストはAmazon EBSからBoot |
ネットワーク | 10Gbps+ のネットワーク帯域 | 仮想マシンのネットワークはすべてNSXによって提供される |
VMware Cloud on AWSでは最少のサーバ構成は4台となり、最大で16台までサーバを追加できます。4台構成/16台構成時の合計サーバリソースはおよそ以下の通りになります。
最少4台構成 | 最大16台構成 | |
---|---|---|
CPU | 144コア | 576コア |
メモリ | 2048GiBメモリ | 8192GiBメモリ |
ストレージ | 40TB | 160TB |
VMware Cloud on AWSの利用料金は、サーバ1台ごとに1時間単位で課金されます。1年または3年単位の契約を結ぶことで最大50%のディスカウントを受けることができます(複数年契約は原稿執筆時点では未提供)。 日本でのサービス提供形態や価格は未定となりますが、公表されているUS West(オレゴン)リージョンでの提供価格は以下の通りです。
オンデマンド(1時間単位) | 1年契約 | 3年契約 | |
---|---|---|---|
サーバ1台の料金 | $8.3681 | $51.987 | $109.366 |
割引率 | - | 30% | 50% |
サーバ1台あたり1時間契約で$8.3681ですので、最少4台構成の場合は1時間あたりおよそ$33が利用料金になります。
物理サーバに対して利用料が発生するため、サーバ1台あたりに仮想マシンを多く集約することで仮想マシンあたりの料金を低く抑えることが可能になります。しかし、最少でもサーバ4台構成になりますので、仮想マシンが少ない(集約率が低い)利用方法ではコストメリットが出にくくなるため注意が必要です。
またオンプレミスとのコスト比較を行う際は、上記の価格にはサーバハードウェアだけではなく、vSphere/vSAN/NSXといった仮想化ソフトウェア一式と、アップグレードなどの運用・保守コストが含まれていることを考慮する必要があります。
現在の制約事項
サービス提供が開始されたばかりのVMware Cloud on AWSは原稿執筆時点では限定的な公開となっており、機能的にもいくつかの制限があります。ここでは主な機能制限についてご紹介します。
- AWSは世界中の地域ごとにリージョンと呼ばれるサービス提供エリアを持っており、原稿執筆時点で14のリージョンがありますが、VMware Cloud on AWSの提供はUS West(オレゴン)リージョンのみに限定されています。日本リージョンへのサービス展開については2018年になると見込まれています。
- AWSとオンプレミスの接続を行う場合に、原稿執筆時点ではDirect Connectは利用できない制限があります。 VMware Cloud on AWS上にあるNSXの機能を利用しVPN接続を行うことでオンプレミスとの接続が可能になります。
- オンプレミスからVMware Cloud on AWSへの仮想マシン移行について、vCenter同士を連携させるCross-vCenterによるvSphere vMotion(ライブマイグレーション)はサポートされていません。
- NSXのネットワーク機能はSimplified Modeと呼ばれ機能制限があり、分散ファイアウォールやロードバランサといった機能は原稿執筆時点では使用できません。
VMware Cloud on AWSのまとめと今後の展望
VMware Cloud on AWSはVMware社によってマネージドされたVMware環境が物理サーバで提供されるという点で、これまでのパブリッククラウドとは大きく異なる特徴を持っています。仮想サーバを動かすために必要な仮想化環境はすべて含まれているため、短い時間でサーバを立ち上げ利用可能になり、不要になればすぐに解約できます。このような短期間の利用シーンに加えて、今後はAWSリージョンを選択することで海外にサーバを容易に構築し、ネットワーク効率のよいサービスを提供するといった利用方法も可能になります。
今後はオンプレミス環境と接続しワークロードを自由に移行するVMware vMotion機能の追加や日本リージョンへのサービス提供などが見込まれています。さらにはAWSが提供するサービスとの連携なども増える予定です。この連載では随時VMware Cloud on AWSについて情報を掲載していきます。
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