Red Hat Summit 2019、製品のハイライトはRHEL 8とOpenShift 4
Red Hat Summit 2019の目玉は、何と言ってもRed Hat Enterprise Linux(RHEL)の最新バージョン8、そしてKubernetesをベースにしたコンテナプラットフォームであるOpenShiftの最新バージョン4だ。例年Red Hat Summitのジェネラルセッションは多くの顧客が登壇し、Red Hat製品のユースケースを語ることが中心となり、あまり製品そのものの解説は行われない。製品そのもののプレゼンテーションは、ブレークアウトセッションなどで行われるのが通例だ。今回の記事では、カンファレンスに合わせて行われたプレス向けブリーフィングの内容を紹介することで、新たに発表された製品のポイントを解説したい。
プレスカンファレンスに登場したのは製品とテクノロジーのトップ、PresidentのPaul Cormier氏、開発部門のトップ、Senior VPのMatt Hicks氏、OpenShiftのトップ、VPのAshesh Badani氏、そして昨年IBMより移ってきたRHELのトップ、Stefanie Chiras氏だ。
IBMとの協業体制
まずはRed Hat製品のビジョンについてだが、Cormier氏は「Open Hybrid Cloud」であると解説。ここではインフラとなるRHELを中心に、下層にストレージと管理&自動化、上層にアプリケーションプラットフォーム、そらにその上層にデベロッパーツールを位置付けている。インフラストラクチャーの部分にはベアメタル、仮想マシン、プライベートクラウド、パブリッククラウドの4種を想定し、その全てをRHELが担当するという構想だ。そしてアプリケーションの部分は、もちろんOpenShiftということになる。
またIBMとのコラボレーションについても、昨年の買収発表以外にもWebSphereをOpenShiftで動かすという辺りから、IBMが開発するスーパーコンピュータでもRHELが稼働していることを紹介。IBMはすでにx86サーバーのビジネスをLenovoに売却しているため、基幹となるハードウェアはSummitを始めとするPowerPCベースのスーパーコンピュータになるが、そこでもRed Hatと協力していることを見せた形になる。
そして2019年のニュースとして総括したのが次のスライドだ。
RHEL 8の目玉はRed Hat Insightsの組み込み
Red Hat Enterprise Linux 8については、数多くの改善点がベータの段階から公開されている。なかでも今回のカンファレンスで大きなポイントとなったのは、Red Hat Insightsの組み込みではないだろうか。Red Hat Insightsは2018年のカンファレンスにおいてもデモを通じて紹介されたもので、これまでRed Hatがサポートを通じて蓄積してきたシステム構成などの運用に関するノウハウを提供するSaaSのサービスだ。これを別サービスではなくOSに組み込んだことは、システム運用において不具合などの対応が改善するということを意味している。
参考:2018年のRed Hat Summitで紹介されたRed Hat Insights:Red Hat Summit 2018開催 ハイブリッドクラウドとVMwareからの移行をしっかり織り込んだキーノート
x86サーバーからPowerPCベースのシステム、そしてメインフレームまでカバーし、数多くのサードパーティ製品を組み合わせて構成されるLinuxクラスターを運用する際に、過去の経験則を活用できるのは大きな意味がある。
次に紹介されたのは、RHEL 8で発表されたUniversal Base Imageだ。これはコンテナがホストとなるOSのカーネルに依存していることを避けるために、RHELのコードをアプリケーションにバンドルする形で提供するコンテナイメージになる。より詳細には以下のRed Hatのブログを参照されたい。
参考:Introducing the Red Hat Universal Base Image
特徴的なのは、RHEL 8だけではなくRHEL 7やNode.js、PHP、Python、Perl、Rubyなどの言語に特化したイメージも用意されており、デベロッパーのサポートに徹している点だ。特にライブラリーなどに脆弱性が発見された場合、Red Hatが用意したイメージであれば、更新を全て反映した内容にアップデートされるため、マニュアルで更新を行うよりも遥かに安全にアプリケーションのビルドができるわけだ。
Azureに乗ったOpenShift
次に紹介されたのはOpenShiftだ。過去数年のRed Hat SummitではOpenShiftのユースケースが多数紹介され、もはやサミットのステージでは「OpenShiftの~」という枕詞すら不要なほどだ。そのOpenShiftだが、クラウドネイティブなアプリケーション以外にも人工知能/機械学習、ビッグデータなどのユースケースも増えてきているのが、特徴的だ。
今回のサミットでの目玉は、何と言ってもMicrosoftとのコラボレーションによるAzure上のOpenShiftだろう。
初日のジェネラルセッションの最後に登場したMicrosoftのCEO、Satya Nadella氏は、Azure上に構築されたManaged OpenShiftについてさほど言及しなかったが、すでにAzure Kubernetes Serviceを提供しているMicrosoftがOpenShiftを提供する理由の一つが、オンプレミスのユーザーをパブリッククラウドに呼び込むためであろう。OpenShiftは、オンプレミスでKubernetesを運用する場合の最適な解の一つであると言えるが、すでにオンプレミスでOpenShiftを運用するユーザーをパブリッククラウド側に引き込むためには、Azure上に同じプラットフォームを展開することが得策であるという発想であろう。
大手クラウドベンダーが揃って支えるOperatorHub.io
特にOperatorフレームワークによってデータベースやミドルウェアの実装がテンプレート化されていることは、デベロッパーと運用者双方にとって重要な差別化ポイントだろう。また注目されるサービスメッシュもサーバーレスもIstio、Knativeなどのオープンソースソフトウェアによって用意されており、ここでもトレンドを見据えたエコシステムの拡大を感じることができる。
テンプレートのためのポータルであるOperatorHub.ioについては、Red Hat、AWS、Microsoft、Googleが共同で推進していることをアピールし、大手パブリッククラウドベンダーの賛同を得ていることを強調する形になった。
またサービスメッシュとサーバーレスに関して言えば、それぞれIstio、Knativeをベースにしているが、IstioについてはKialiやJaegerを組み合わせることで可視化やトレーシングも可能になっていることがポイントだ。
また細かいポイントだが、統合開発環境のCodeReady Workspacesもしっかりとセットとして用意されているし、他にも機能が豊富なコマンドラインツールであるOpenShift Do(odo)や他社のIDEのプラグインも紹介するなど、デベロッパーに対する手厚いサポートを強調した。
CodeReady Workspacesについてはこちらの記事を参照されたい。
参考:Red HatがクラウドベースのIDE、CodeReady Workspacesを発表
またスライドには記載されていないが、サミットの会期中にVMware上のリファレンスアーキテクチャーとして、OpenShift on VMware SDDC(Software-Defined Data Center)がRed HatとVMwareの両社から発表された。VMwareで仮想化基盤を構築しているエンタープライズにおいても、OpenShiftによるKubernetes環境はRed HatとVMwareの両社から推奨されるプラットフォームということになる。これは、VMwareのユーザー企業にとっても、大いなる追い風となるだろう。
プレスカンファレンスとしては大きな製品のアップデートを短い時間で盛り込んだ形になったが、これまでベータやプレビューという形で公開されていたものが着実に製品化されていることを実感した。Red Hatはそもそも製品に関してはあまりオーバーな約束をしない、つまり大風呂敷を広げないベンダーであるが、それを今年も地道に実践したプレスカンファレンスとなった。
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