「個人の成果を正しく評価」して意欲を高め、「突き抜けた存在感を持つエンジニア」に育てたい

2024年4月18日(木)
小林 道寛 (こばやし みちひろ)伊藤 隆司(Think IT編集部)
第3回の今回は、小林氏が経営者の視点からBFTに必要なのはどのような人材であり、そのために会社としてどのような制度づくりやサポートをしているのか。また、その根本にある考え方や期待する技術者像などについて語っていきます。

今の時代、若手エンジニアが勉強したいと思えば、いくらでも教材や資料はインターネットで手に入る。だがそんな便利な時代であっても、やはり先輩たちの生きた経験に裏打ちされたアドバイスは貴重だ。本連載では、情報インフラ系SIerとしての実績の一方で、現場で活躍できるエンジニア育成を目指した独自の技術研修「BFT道場」を展開。若手技術者の育成に取り組む、株式会社BFT 代表取締役 小林道寛氏に、ご自身の経験に基づくスキルアップのヒントや、エンジニアに大切な考え方などを語っていただく。

就活対策本の模範解答よりも
魅力ある価値観を持っている若い人が欲しい

皆さん、こんにちは。株式会社BFTの小林道寛です。

今回は若手のエンジニアの皆さんにも、また経営者やマネージャーの方々にも大きな関心事である採用や人材育成のお話をしようと思います。

当社では人材教育サービスなども提供していることから、「採用段階で、どうやって優秀なITエンジニアに関心を持ってもらい、また入社後は長く在籍してもらうか。BFTでは、どんな工夫をしていますか」とよく聞かれます。

まず「どうやって興味を持ってもらうか」ですが、むしろその前提となる「自社が採用したい人材像」の方が、今どんどん変化してきているのです。例えば、昔は着実に仕事をこなす「草食系」の人が良いなと思っていたのが、最近は「うちの会社には、ガツガツ行く『肉食系』の方が必要なのでは?」という風に変わってきています。

この変化の背景には、コロナ禍を契機にしたリモートワークの広がりがあります。コロナ以前はみんな対面で机を並べて仕事をしていたので、周りの先輩や仲間から自然にいろいろなことを学べました。だから人材としても協調性があって、人の意見や指導を素直に受け入れて実行できる「草食系」が適していたのです。

しかしリモートワークが当たり前になってからは、目の前に教えてくれる人や相談できる仲間がいません。そうなるとやはり、もっと自立して自発的に取り組んでいける人間でないと、なかなかうまく回っていかないという現実があります。そうした働き方の環境変化が自社の求める人材像に影響を与えるというのは、私自身非常に興味深い気づきでした。

とは言っても、今は肉食系しか採用しないわけではありません。それよりも強みとなる個性をもった人に来てほしいし、採用のときもどんな個性と価値観を持っているかをよく見るようにしています。

当社では、採用「面接」ではなく採用「面談」としており、いわゆる型にはまった質問、就活対策本に出ているような想定質問はしないし、そういう対策本に出ている模範解答をする人を求めていません。だからでしょうか、いろいろな会社の面接にも通らなかったのが、当社では簡単に採用された人もいます。あちこちの面接を落ちて疲れてしまい、うちに来たときは「もう飾らずに思ったことをそのまま言おう」とストレートに話したことが高く評価され内定につながったそうです。

そもそもまだ学生だと、能力的な差はほとんどありません。だからこそ、その人柄や価値観を見るわけですが、逆に「これだけはちょっと」という条件はいくつかあります。その1つが勉強する習慣のないことで、これがない人は採れませんね。技術は常に進化し続けるし、どこまで行っても勉強しないわけにはいかないからです。

「勉強する習慣か、きついなあ」と思うかもしれません。でも、実はITの勉強というのはそれほど苦痛ではないのですよ。と言うのも勉強して自分でできることが増えると、それでまたお客様にも仲間にも喜んでもらえるので、嬉しくなって次の勉強への意欲につながりやすいんです。これは若い人には、ぜひ自分で体験していただきたいと思います。

教育体制や新しい人事制度が評価されて
「就活生に勧めやすい」と言われた

もちろん私の考えや好みだけではだめで、人事部門の意見もちゃんと聞かなくてはいけない。そこで人事担当者に聞いてみたところ、意外に思うところが合っていたのです。私はふだんから「未来はこうなりたい」という話を社内でしているので、大枠は共有できているのかなと思います。

こちらの都合や好みばかりでなく、ここからは、応募してくれた方々から見て「当社のどこに魅力を感じていただけたか」という話をしましょう。これは就職エージェントの方が教えてくれたのですが、1つは「教育に手厚いところ」。当社は、採用したらゼロの状態からエンジニアに育てる方針です。そのため情報系学部以外の理系出身者はもちろん、文系卒でも全くOKなのです。

これはなぜかと言うと、情報系の学部でも「即戦力人材」ではないからです。私たちの仕事内容は、大学ではまださほど教えられていません。これまでの新卒採用でわかったことは、私たちの会社で即戦力人材と言える学生は100名に1名いるかいないかなということです。さすがにこれを探し求める気にはなりません。だからゼロの状態から育ててきたわけですが、むしろそれに注力し貫いてきたことで、私たちの会社の強みになりました。

他にも評価のポイントはいくつかあって、2023年10月に全面刷新した人事制度もその1つだと聞きました。何ができればどれくらい給料が上がっていくかとか、職種選択の要件なども明確に示されているので、応募者にとっては自分がどう振る舞えばどういう待遇やポジションに行けるかが、はっきり見える人事制度として評価されているようです。

社員個人の努力した成果をそのまま評価に反映させる
新しい人事制度とは

新しい人事制度のことを、もう少し詳しくお話しましょう。全面刷新のきっかけは、上でも触れたように「今まで以上に、自律的に働いてもらわなければならない」という変化への対応。もう1つは、社員1人ひとりの成果や能力に応じた評価にしようという狙いでした。当社も日本企業なので、これまでは毎年少しずつ昇給する仕組みでしたが、これは必ずしも能力を正しく反映しません。ひとことで言えば、年功序列的な性格が強かったのです。

しかし大手を中心に、日本企業も人事制度や評価体系をジョブ型に切り替えていく中で「アチーブメント」=その人が達成した成果を、そのまま評価に反映させる方が望ましいのではと考えました。そうすることで個人のモチベーションを高め、突き抜けたエンジニアを育てていきたいと思ったのです。

評価の仕方は職種ごとに「ジョブディスクリプション」と呼ばれる職務の定義があり、職務にはそれぞれ「Band」という7段階のレベルが設定されています。このジョブディスクリプションに対しての達成度と期待度から「Bandいくつに相当」と判断するといった具合です。

また、評価の対象は過去の仕事だけではなく、これからの仕事。つまりその社員への将来的な「期待値」を検討し、「その人に投資すべきかどうか?」を判断します。例えば、これまで「ITスペシャリストのBand3」だった人が来年度はBand4にチャレンジしたいと宣言したら、実際にどれくらいの成果が期待できるかを見て、昇格させるかを判断するのです。

また、その評価に際しては自己推薦文を書いてもらって、それを上位Bandの者が評価して認定するプロセスになっています。タイミングとしては年4回で、応募者は多いときで100人くらいいます。

新しい人事制度に対する認知も若い人たちはかなり高くて、制度の目的もよく理解してくれています。このことから、日本企業では不透明になりがちだった「どうすれば給料が上がるのか」を明確にしようというのを、改革の最初のメッセージとして、分かりやすく伝えられたかなと思っています。

部門ごとに多彩なカルチャーを創り出せれば
会社はますます面白くなる

最後に、採用や教育、人事評価の根本になる「会社の文化」について、少し私の考えをお話したいと思います。

今は、どの企業も「自社のビジネスの根底にある文化を大切にしよう」と言います。ここで気をつけたいのは「会社の文化=全社共通の文化」ではないということです。会社には会社の文化がありますが、各部門にはまた各部門の文化があるべきです。だから部門長は自分たちの組織の文化を創らなくてはならないし、私は私でBFTという会社の文化を創る使命を担っています。

なぜそんなことを言うのかというと、同じ会社だからといってみんな一緒である必要は全くないからです。むしろ「あそこの部門はこういう感じで、こちらの部門はまた違う風土」というのがあって、それが面白さになる。今までの企業みたいに、同じ会社だから全部同じカラーでは、つまらないと思いませんか。

これからは、多様な人たちが単にビジネスとして仕事を創るだけでなく、自分たちの文化もしっかりと生み出してゆく。それが多様化を深める社会の中で、BFTらしさを確立していく道だし、何よりも仕事をしていて面白いですよね。ぜひ社員の皆さんにも、そこを意識してもらえると嬉しいなと思っているのです。

会社の文化を創るという点では、今、とても素晴らしい機会に恵まれています。実は、日本IBMでCTOを務められ、その後もさまざまな企業の技術顧問を歴任されている山下 克司さん(山下技術開発事務所代表)が、BFTの技術顧問として技術者育成のサポートをしてくださっているのです。

山下さんはご自身の豊富な経験や知識をもとに多彩なお話を聞かせてくださり、先日は、旬のテーマで生成AIのレクチャーをいただきました。それもいわゆる生成AIの情報ではなく、生成AIの内部の仕組み~アルゴリズムの説明です。私にはこれがすごく難しく、数学を使ってアルゴリズムの解説などをされる。私は全然理解できずに、もう倒れそうでした(笑)。でも、若い人たちは「なるほど、そうなのか!」と言っていて、後で聞いたら大体理解できたというので、思わぬところで自社の若手の優秀さに驚きました。

技術だけでなく、IBM時代に培ったコンサルティングメソッドを使って、社内業務の改善手法や実践方法なども指導してくださいます。これは私も直接教えていただきながら、一緒に取り組んでいきました。

山下さんのこうしたスーパーエンジニアぶりを拝見していると、技術を磨くところまで磨いてここまで突き抜けたレベルに達すると、技術者だけでなく経営そのものに大きなインパクトを与えられるのだと気づかされます。同時に、やはり人材育成にはロールモデルになる存在がとても大切だというのも実感します。まさにそういう方がBFTの技術顧問としていてくださるのは大きな財産ですし、私には提供できないさまざまな価値を提供していただいていると感謝しています。

もちろん今回、新しい人事制度を作ってゴールではありません。むしろその中からどんな意欲あふれる人材が育ち、これからのBFTのカルチャーを担ってくれるか。そのためのスタートを切ったばかりだと考えています。

* * *

さて、次回はどんなことをお話しましょうか。よろしければ、どうぞまたお付き合いください。

著者
小林 道寛 (こばやし みちひろ)
株式会社BFT 代表取締役社長
1991年に株式会社フジミックに入社。親会社フジテレビジョンの情報システム局で、親会社やグループ会社のシステム構築と運用を経験。2004年に株式会社BFTへ入社。エンジニア部門のマネージャを経験後、取締役に就任。2015年に代表取締役社長に就任。システムづくりを離れ「人とシステムをつくる会社」をつくり続けている。
著者
伊藤 隆司(Think IT編集部)
株式会社インプレス Think IT編集部 担当編集長
IT系月刊誌、資格系書籍、電子書籍、旅行パンフレット等の企画・編集職を経て現職。Think ITのサイト運営と企画・編集、「CloudNative Days」の運営に携わりながら、エンジニア向け書籍の企画も手がける。テクノロジーだけでなく、エンジニアの働き方やキャリアップなどのテーマに造詣が深い。

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