MR・AI・量子コンピューティングが重要テクノロジー 〜Microsoft Tech Summit 2017レポート
NAVITIMEのCosmos DB利用事例
ドリュー・ロビンス氏(日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 コマーシャルソフトウェア エンジニアリング本部長)は、「I LOVE WRITING CODE」と書かれたTシャツを着て登場した。
氏はソフトウェアが、モノリシックな製品からモジュール化へ、サイロ化されたデータからグラフ化されたデータと人工知能へ、独自ロジックから共通のデータモデルへと変革している潮流を説明。それを背景に、Azureではさまざまな言語やフレームワークを使える柔軟性があると強調した。
さらに「DevOpsが重要だと考えている」として、Visual Studio Team Servicesを紹介。自分でCI/CDパイプラインを作れることや、JenkinsなどのCIツールを選んだりできることを説明した。
さらに、地球規模で分散するNoSQLデータベース「Azure Cosmos DB」を紹介し、Microsoft Igniteで発表された「Azure Cosmos DB+Azure Functions」についても語った。
このCosmos DBを使った国内事例として「NAVITIME」の毛塚大輔氏が登壇した。旅行の計画や予約ができる「NAVITIME Travel」のチャットボットの開発にCosmos DBを利用しているという事例だ。このチャットボットではスポットの紹介などを会話でしてくれる。この会話の内容をCosmos DBに集約し、Power BIで分析して開発に役立てているという。さらに、新機能のCosmos DB+Azure Functionsによって、メッセージが「間違ってるよ!」という言葉だったときに通知することもできると例を示した。
重要テクノロジー「MR」「AI」「量子コンピューティング」
最後に登場した日本マイクロソフト社長の平野拓也氏は、重要テクノロジーとして「MR」「AI」「量子コンピューティング」の3つを挙げた。
MRについての最近の状況としては、Windows 10 Fall Creator UpdateにあわせてHoloLens以外にサードパーティーからも製品が発表されたことを取り上げ、「いよいよ一般消費者にも広がる」と語った。
また、航空機メーカーのAirbusがJALの協力によりHoloLensを採用することが語られ、「来週に発表になる」と平野氏は紹介した(編注:11月14日に発表済み)。
MRの採用をサポートする「Mixed Realityパ ートナープログラム」については2016年、株式会社博報堂、株式会社wise、株式会社ネクストスケープの3社が認定されていた。今回は新たに、株式会社博報堂プロダクツ、株式会社ハニカムラボ、株式会社ホロラボの3社が加わったことが発表された。博報堂プロダクツは、博報堂やwiseとともに、「京都Mixed Realityプロジェクト」に取り組んでいる。ハニカムラボは、アパレル業界向けのバーチャルフィッティングを開発している。ホロラボは医療分野で、脊椎・関節の3Dモデリングや手術トレーニングに活用する。
AIについては、Microsoftが9月に「AI and Researchグループ」を設立し、7,500人以上が従事していることを紹介した。
Microsoftの取り組みとしては、プラットフォーム、製品への組み込み、ビジネスソリューションの3つが挙げられた。平野氏は、特にプラットフォームの分野で、Microsoftで学習させた結果をAPIなどから機能として使えるCognitive Servicesが業界最先端を行っていると自負し「音声認識では人間を超える認識率を上げている」などの成績を語った。
利用例としては、avexがコンサート来場者の表情を分析した例や、人の表情を認識して広告を変える博報堂の研究「Face Targeting AD」なども紹介された。
チャットボットの分野では、AIにより行動や心理を把握するチャットボットの例や、「いいかげんな対応をする(笑)」と平野氏がいう「りんな」の例などが紹介された。AIによる機械翻訳については、実は今回のMicrosoft Tech Summit 2017でリアルタイム翻訳テロップを提供していることが紹介された。
AIの後半と量子コンピューティングについては、日本マイクロソフトCTOの榊原彰氏が説明を補助した。
AI分野で榊原氏は、Igniteで発表された「Azure Machine Learning Workbench」を紹介した。PCにインストールするツールで、データの整理(Data wrangling)に使う。榊原氏は「機械学習の工数の8割はデータ整理、というデータもある」とその重要性を語った。
デモとしてはEMS企業のJABIL社のデータの例が紹介された。製造した半導体の合否を画像認識で検査するためのもので、画像データとチェック結果の履歴が保存されている。ただし、タグづけの命名規則がバラバラなので、事前に整理してやる必要がある。Azure Machine Learning Workbenchでは、タグづけの推測をしてくれたり、修正した箇所から同じパターンのものを推測しなおしてくれたりといった機能があるところが実演された。
量子コンピューティングについては、量子ビットの概念から榊原氏は解説。0と1が重なり合った状態を作ることができるため、並列処理が必要な大規模な計算ができると説明した。ユースケースとしては、窒素固定やCO2回収、物質科学、機械学習の分野が挙げられた。
この量子コンピューティングの課題としては、重ね合わせはノイズで壊れやすいためスケールさせるのが難しいことを紹介。そこでMicrosoftは、耐性が高く修復しやすいものとして、絶対零度に近い温度で動かすマヨラナ粒子を用いたトポロジカル量子チップを開発したと説明した。
さらに、Microsoftが量子プログラミング言語として可読性の高いものをF#のDSLとして作ったことも紹介された。これをVisual Studioで対応しており、さらにPC上のシミュレーター「LIQUI|>」(リクイッド)もGitHubで公開しているという。
平野氏はまとめとして「これらはすべてMicrosoftのミッションに結びついていて、安心して喜んで使っていただけるようなことを考えている」と語った。そして、ラリーのTOYOTAレーシングのサポートや、ALS患者のための入力装置などの例を紹介。日本マイクロソフトの目指す企業像を「革新的で、安心して使っていただけるインテリジェントテクノロジを遠して、日本の社会変革に貢献する」と再定義した。
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