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連載 [第1回] :
  Open Source Forumレポート

Linux Foundationがミニカンファレンスを開催。オープンソースプロジェクト運営のポイントを語る

2020年3月31日(火)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
Linux FoundationがOpen Source Forumを開催。LF式のコミュニティ運営方法を解説した。

The Linux Foundation(LF)が主催するOpen Source Forumが2019年12月16日に都内で開催された。このイベントはLFが主催する1 Dayのミニカンファレンスで、主にLF配下のプロジェクトのセッションをコントリビューターが行うものだ。その中からLFのトップ、Executive DirectorのJim Zemlin氏のプレゼンテーション、そして今やCloud Native Computing Foundation(CNCF)のCTOと言うタイトルのほうが有名になったが、LFではVP、Developer RelationというタイトルのChris Aniszczyk氏が登壇し、LFのミッションやオープンソースプロジェクトの始め方などを解説したプレゼンテーションを紹介したい。

LFのExecutive Director、Jim Zemlin氏

LFのExecutive Director、Jim Zemlin氏

Zemlin氏は当然といえばそれまでだが、LFがLinuxから始まったことを紹介。より具体的にはLinuxの生みの親であるLinus Torvalds氏に対して、ベンダーに依存せずに開発に集中できる場所、インフラストラクチャーやマーケティングのための支援を行う組織として始まったことを紹介した。

LFの始まりはTorvalds氏に対する環境の提供から

LFの始まりはTorvalds氏に対する環境の提供から

そしてその仕組みを他のプロジェクトに適用することで、LF自体が拡大していったと解説する。ここではYocto ProjectやCarrier Grade Linuxなどが例として挙げられた。さらにそこから他の業界やツールを巻き込む形でプロジェクトが拡大していったことを紹介した。次に示すスライドで興味深いのは、映画製作に使われるソフトウェアをオープンソースで共有するASWF(Academy Software Foundation)と車載LinuxのためのAutomotive Grade Linux、無償の認証サービスを提供するLet's Encryptなどに並んで、2018年にLFでホストされるプロジェクトになった中国のTencentが開発するRPCフレームワークのTARSが挙げられていることだろう。LFが多くのオープンソースプロジェクトをきめ細かくフォローしていることの現れと言える。

LFが他の業界ともコラボレーションしている例

LFが他の業界ともコラボレーションしている例

そしてその流れはGraphQL FoundationやOpen Container Initiativeにも繋がっており、ハードウェアにおいてもRISC-V FoundationやOpenPOWERなどにも拡大していることを強調した。ここではファウンデーションのモデルを使って、適切なガバナンスやエコシステム拡大を行うことが上手く行っていることを示した形になった。

2020年にはさらに拡大するファウンデーションモデル

2020年にはさらに拡大するファウンデーションモデル

最後に2020年においてもこの手法を使って、エネルギー、人工知能、ドローンなどにも応用する予定があることを紹介して、次のChris Aniszczyk氏にステージを譲った。

LFのVP、Chris Aniszczyk氏

LFのVP、Chris Aniszczyk氏

Aniszczyk氏のセッションのアジェンダで注目すべきは、「どうやってオープンソースプロジェクトをLFにホストさせるか?」という部分だろう。この部分に多くの時間と例を持ち込んで説明を行ったことからもわかるように、今回最も持ち帰って欲しいと思っていたポイントのようだ。

最初に、LFがすでにLinuxだけではないということを再度確認する意味で使われたのがこのスライドだ。

セキュリティからネットワーク、AI、CI/CD、Web、ハードウェアまで幅広くカバー

セキュリティからネットワーク、AI、CI/CD、Web、ハードウェアまで幅広くカバー

CI/CDの部分には団体ではなくCD Foundationのメンバープロジェクトの名前が挙げられているのはご愛嬌ということだろう。

そしてオープンソースの流れは拡大を続けているというスライドの次に、Project(プロジェクト)が存続するためのポイントとしてエコシステムが上手く回っていること、特にProduct(プロダクト)から始まったオープンソースプロジェクトがちゃんとProfit(利益)を生み出すことで、Projectとして拡大していくことを説いた。ここで注目したいのは、持続するオープンソースプロジェクトは利益を産まなければならないということを再度強調したことだろう。

Product~Profit~Projectの循環がProjectの持続のために必要

Product~Profit~Projectの循環がProjectの持続のために必要

かつてJim Zemlin氏と話した時に「The Linux Foundationが最初にやった一番大事な仕事は、Linusに給料を払うことさ」と語ったように、ボランティアだけで持続するプロジェクトは少ない。2014年に起こったHeartbleedをきっかけに、LFがCore Infrastructure Initiativeを立ち上げたのは記憶に新しいが、このイニシアティブもOpenSSLを開発するエンジニアに対して非常に少ない給料しか支払われていないことに驚愕したZemlin氏の強力なリーダーシップがなければ実現しなかったであろう。

そしてLFはオープンソースソフトウェアにおける投資信託のようなポジションになっているという言い方で、多くのプロジェクトをホストし、成長させることでエコシステムを拡大し続けることを解説した。

次に紹介したのは、LFがホストするプロジェクト/組織のカテゴライズだ。コード(Code)を書くのかそれとも仕様(Spec)を決めるだけなのかをY軸に、一つのソフトウェア(Single)で構成されるのかそれとも複数のプロジェクトをホストする(Umbrella)のかをX軸にとったのが次に紹介するグラフだ。

LFのホストするプロジェクトはさまざまな形態をとる

LFのホストするプロジェクトはさまざまな形態をとる

そして現在大きく躍進している右上のエリア(コードを書き、複数のプロジェクトをホスト)に属する組織について、CNCFを例にその特徴を紹介した。

CNCFを代表とするコードを書いてテーマに沿ったプロジェクトをホストするグループ

CNCFを代表とするコードを書いてテーマに沿ったプロジェクトをホストするグループ

そしてファウンデーションの価値という部分では、どの組織も「positive-sum」、つまり「誰かが得をすると誰かが損をするというゲーム(ゼロサムゲーム)」ではなく、「誰かが得をすると波及的に全員が得をするという仕組み」になっていることを解説。

この文字ばかりのスライドに太字で書かれた部分が重要

この文字ばかりのスライドに太字で書かれた部分が重要

このスライドの太字で書かれた部分は特に重要で、「ニュートラルな場所がポジティブサムな考え方や多様性を促進し、成功するオープンソースプロジェクトのコアな要素」となるという意味だ。ここでの「ニュートラル」はベンダーの意向に左右されない少数のコントリビューターが独裁しない、などの多くの意味を含んでいる。

次にLFのプロジェクトの概要を説明して、LFが重要視するポイントを解説した。LFはすでに250以上のプロジェクト/組織を配下に抱えるが、配下に属するプロジェクトは、ニュートラルな組織と知的財産の処理、そしてコミュニティの運営などに特徴がある。配下のプロジェクトはそれぞれ違っているが、ニュートラルな場所という部分が重要だと強調した。

LFのプロジェクトをアンナ・カレーニナに例えて

LFのプロジェクトをアンナ・カレーニナに例えて

そしてアンナ・カレーニナの文を引用し、「すべての幸せなオープンソースプロジェクトは似ている。不幸せなオープンソースプロジェクトはそれぞれ別の形がある」として、必ずしも同じである必要はないが、結果として同じような構造になっていることを指摘した。

続いて、具体的にLFが求めるプロジェクトの必要事項が解説された。オープンソースソフトウェアであることは当たり前だが、ライセンスの形態などの他、太字で強調された部分には技術的な優位性とビジネス上の判断をはっきりと分離させ、明文化することが求められている。

LFのプロジェクトホスティングのための必要事項

LFのプロジェクトホスティングのための必要事項

チェックリストも公開されており、LFのホスティングのためのクライテリア(規準)は非常に明確だ。自社が開発するソフトウェアをオープンソースとして公開したい企業のチェックリストとしても参考になるだろう。

LFのプロジェクトホスティングのためのチェックリスト

LFのプロジェクトホスティングのためのチェックリスト

例としてRookとHelmを挙げて、どのような組織がプロジェクト内部に必要なのかを説明したのが次のスライドだ。

RookとHelmがCNCFに加入した時の例

RookとHelmがCNCFに加入した時の例

ここではガバナンスボード、テクニカルオーバーサイトコミッティ、ユーザーボードの3つの組織が用意されていることがわかる。

最後にまとめとして「どのオープンソースプロジェクトも同じではない」ことを明示して、LFやCNCFのやり方だけがすべてではないと言いながらも、LFがこのような組織立ち上げ運営のベテランとして手助けをすることはできるので、ぜひコンタクトして欲しいと結んでプレゼンテーションを終えた。

最後は若干トーンを抑えた形になったが、Googleが自社だけでKubernetesをオープンソースソフトウェアとして公開するのではなくCNCF創設という道を選んだことは、LFやLFのメンバー企業(IBM、Red Hatなど)からの強力なアドバイスがあったことは、さまざまな証言で明らかになっている。

そこからわかるのは、ここには一つの明確な成功例があると言うことだろう。日本におけるコミュニティ運営の参考にもなる良いセッションだった。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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