Open Source Leadership Summit開催、変化に対応し持続するために何をするべきか?
オープンソースソフトウェアを推進する団体のLinux Foundationが開催するOpen Source Leadership Summit(以下、OSLS)が、2019年3月12日から14日までカリフォルニア州ハーフムーンベイで開催された。
昨年は同じカリフォルニア州でもワインで有名なソノマで、来年はレイクタホで開催されるというOSLSは、技術にフォーカスしたカンファレンスとは異なり、より抽象的もしくは組織論的なセッションが多いという特徴がある。つまりオープンソースソフトウェアの詳細を技術解説するというよりも、新しいユースケース、いかにコミュニティを運営するのか、そしてプロジェクトの活動報告などがメインとなる。今年もOPFNV(Open Platform for NFV)の現状や組込系システムであるZephyrの紹介、OpenSDSの紹介などのセッションが開催されたが、全体として目立っていたのはユースケースとライセンスに関するセッションだった。
Zemlin氏は「Golden Age of Open Source」と題したプレゼンテーションの中で「かつてはネガティブなモノとして捉えられていたLinuxを始めとするオープンソースソフトウェアが、今や多くの業界で最も重要な部分を担うプラットフォームとして成長した」ことを強調した。
特に大きな変化として、かつては「オープンソースソフトウェアはガンだ」と発言したMicrosoftを例に挙げて今やMicrosoft自体がオープンソースソフトウェアの最大の貢献者となっていることをCEOのSatya Nadella氏の写真を使ってその変化を語った。
また近年行われたの大型の買収案件、IBMによるRed Hat買収とMicrsoftによるGitHub買収を例に挙げて、オープンソースソフトウェア自体が大きなビジネスを産む源泉となったことを紹介した。そして「Commercial Open Source」と呼ばれるオープンソースソフトウェアでありながら利益を産む構造が一般化してきたことを買収、合併、株式公開などの歴史を使って解説した。ここではRed HatとGitHub以外にもPivotal、SUSE、Elastic、Heptio、Treasure Dataなどの企業を取り上げ、オープンソースソフトウェアをメインにしながら企業として生き残っていく方法論を紹介した形になった。
それらの事実をベースにZemlin氏が強調したのは、コミュニティベースのオープンソースソフトウェアでありながらも「Projects~Products~Profits」というサイクルが回ることで、プロプライエタリソフトウェアと比べて遜色なく持続していけるということだ。ただしそれにはいくつかの「秘訣」が必要だというのが、ここでのポイントだろう。そしてその秘訣については、Zemlin氏に続く多くの登壇者が具体的に説明するという演出をしているように思えた。
特に今年はLinux Foundation自身がContinuous Delivery Foundation(以下、CDF)、GraphQL Foundation、OpenJS Foundationなどの創立に協力したことで、Linux FoundationとCloud Native Computing Foudation(以下、CNCF)に続く「財団創立流行り」とでも言っていいほどの状況になっている。これは少数の企業がメインで開発を行うオープンソースソフトウェアが持続するための方法論として、Linux FoundationとCNCFにある程度の確信が持てるようになったという自信の現れと思われる。
カンファレンスの初日は最も大きな会議室で行われたキーノートだけで構成され、Zemlin氏以外にオープンソースソフトウェアのユーザーであるUber、AT&T、Western Digital、Comcast、Netflixなどが登壇した。さらにオープンソースソフトウェアの供給側でもあるTwitterやJenkinsでお馴染みのCloudBee、Google、GitLab、VMwareなどもセッションを担当した。
初日は、この日にLinux Foundationが発表した多くのプレスリリースをより分かりやすく紹介するという方法を取っていた。例えば、DevOpsを推進するために必須と考えられているCI/CD(Continuous Integration/Continuous Delivery)に関連するCDFの創設に関しては、FoundationのコアメンバーであるCloudBeeのセッションで語られた。また、Facebookが公開している新しいクエリー言語であるGraphQLについては、元FacebookのエンジニアLee Byron氏が、GraphQLの生い立ちと新しいGraphQL Foundationについて説明した。さらに、Web開発の観点からクライアント側のソフトウェアとしてJavaScriptに対する期待に応えるように、JS FoundationとNode.js Foundationが合体し、OpenJS Foundationとして出発することも、それぞれの関係者から解説された。
ハードウェアに関しても、オープンソースな命令セットアーキテクチャであるRISC-V(リスクファイブ)と、その推進組織であるRISC-V Foundationが紹介された。ここではRISC-V Foundationの新たなCEOとしてCalista Redmond氏が紹介された。ちなみにRedmond氏は、IBMでメインフレームのZ Systemを担当していたベテランで、最もプロプライエタリなハードウェアであるIBMのメインフレームからRISC-VのCEOに転身したという経緯は興味深いと言える。
RISC-Vの新CEOを紹介するために再度登壇したZemlin氏は、そこからオープンソースソフトウェアを持続させるための組織として苦労を語る段となった。
Zemlin氏はオープンソースソフトウェアのエコシステムを持続させるために必要なものとして、イベントやトレーニング、認定試験などは当たり前としても、デベロッパーのエンゲージメント、デベロッパーリレーション、そしてアプリケーションセキュリティと言った、より手間のかかる部分が必要だと解説した。この部分は単にボランティアや認定試験を行う専業企業に投げれば良いということではないことも強調した。つまり後半の部分は、ボランティアと業者だけでは成り立つものではないというのがLinux Foundationのスタンスだ。
Linux Foundationは、過去にHeartbleedの脆弱性が発見された時に、OpenSSLの開発者が余りにも経済的に貧窮していることから、Core Infrastructure Initiative(以下、CII)というプロジェクトを開設して、デベロッパーを経済的に支援しようという具体的な活動を行ったことは知られている。今回、それをさらに推し進めたCommunityBridgeが発表された。つまりデベロッパーが経済的に余裕を持って開発を行うためには金銭的な支援が必須である、そのためにCIIとは別に幅広く適用できるプログラムを用意したということになる。
CommunityBridgeは具体的に金銭的な支援、セキュリティ、そしてデベロッパーリレーションを支援するためのものだが、CIIとCommunityBridgeの使い分けは、インフラストラクチャーとして重要かつ成熟したプロジェクトに対して適用するのがCII、重要ではあるもののまだ成熟には至っていないプロジェクトに対して適用するのがCommunityBridgeという位置づけとなる。
そして最後に、GitHubがこのプログラムに賛同し、10万ドルの寄付を行うことが発表された。これは同時にLinux Foundationによるマッチングファンドとして資金を提供することも同時に発表された。
また単に経済的にプロジェクトを支援するだけではなく、新たなパートナーとしてSource{d}の参加が紹介された。これはソースコードを機械学習によって解析するソリューションを提供するSource{d}とのパートナーシップによって可能となった。
Source{d}については、この紹介ビデオを見てもらうのが早いだろう。
参考:Source{d}とは
Jim Zemlin氏が初日のキーノートとして自身で語ったのは、最初のLinuxがマジョリティになったこと、オープンなコミュニティが開発の主体であること、エンタープライズ企業がオープンソースソフトウェアを敵と見なさなくなったこと、そしてオープンソースプロジェクトを成功させるために組織的なイノベーションとしてFoundationが適切であること、CII以上により広範かつ具体的な支援が始まったことなどである。Foundationという仕組みがますます増えるだろうということは、オープンソースプロジェクトに対する一つの回答として注目すべきだし、CIIとは別のプログラム、CommunityBridgeについても今後の動向を注視したいと思う。
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