連載 [第4回] :
  Red Hat Summit 2018レポート

CoreOSのCEOに訊くCoreOSの統合・OpenShiftとの関係

2018年6月14日(木)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
Red Hat SummitでCoreOS、OpenShiftのリーダーにインタビューを行った。

Red Hat Summit 2018での注目すべきポイントの一つは、今年の最初に発表されたCoreOSの買収から約半年の時間を経て、製品に関して何らかの発表があるのか? であった。結果的には、CoreOSが開発していたContainer LinuxはAtomic Hostの後を継いでRed Hat CoreOSに、KubernetesのディストリビューションであるTectonicはOpenShiftに統合、コンテナレジストリーであるQuay Enterpriseは、Red Hat Quayとして継続するということになった。今回のカンファレンスでは、OpenShiftが昨年よりもさらにメインのプロダクトとして露出していたが、機能的にオーバーラップしている2社の製品をどのように整理するのか? OpenShiftとの関係は? などについては、上記の通り、収まるところに収まったという印象だ。

コンテナ用OSという位置付けのRed Hat CoreOS

コンテナ用OSという位置付けのRed Hat CoreOS

今回の記事では、OpenShiftビジネスのトップ(General Manager)であるAshesh Badani氏と、CoreOSの創業者でCEOであったAlex Polvi氏へのインタビュー、そしてPaul Cormier氏、Matt Hicks氏などが参加したプレス向けブリーフィングの解説をお届けする。

OpenShift、CoreOSのトップへのインタビュー

Badani氏(左)とPolvi氏(右)

Badani氏(左)とPolvi氏(右)

PolviさんはCoreOSのCEOだったわけですが、CoreOSの買収はいつごろから話が始まったのですか?

Polvi:最初にRed Hatの人と買収について話をしたのは、2017年の10月くらいだったような気がします。

Badani:そうですね。それくらいの期間で決まったと思います。Red Hatにとっては、Open Hybrid Cloudというテーマに合っていたということもあります。そしてもう一つは、CoreOSが様々なオープンソースソフトウェアに参加していることを知っていたので、そこで協力していることをさらに進めるという意味合いもありました。技術的な部分で言えば、オートメーションを進めるためにCoreOSの技術は価値があると評価したということもあります。

思ったよりも短期間で決定されたということですか?

Polvi:そうです。我々はKubernetesなどのオープンソースのプロジェクトでいつも一緒に働いていましたから、違和感はありませんでしたね。実際のところ、オープンソースソフトウェアのプロジェクトで働いているのであれば、どの会社に所属しているか? ということはあまり問題にならないというのが、モダンなオープンソースプロジェクトの特徴ではないかと思います。

今回の買収についてコメントはありますか?

Polvi:Red HatとCoreOSは、KubernetesやPrometheus、etcdなどについて常に協力して仕事をしてきましたから、ベストフィットという感じはしますね。別の見方をすると、ベンチャーの立場で新しいアイデアをソフトウェアという形にするということは非常にエキサイティングなものですが、反面、少ないデベロッパーのリソースを使って決められた時間に結果を出さなければいけないわけです。またアイデアが複数あっても、リソースが足らなければ形にはできません。そういう意味ではRed Hatが買収してくれたお陰で、そういうリソースや資金的な部分の不安がなくなったのはとっても嬉しいですね。

Badani:Red HatとCoreOSの製品の統合は、今後さらに進んでいくと思います。Red HatとCoreOSのコラボレーションの良い例は、Kubernetes Operator Frameworkですね。これはKubernetesを自動化するためのフレームワークとして、Red HatとCoreOSのチームが一緒に取り組んでいるものです。

Polvi:Operatorには、オープンソースソフトウェアとして様々な企業が参加してくれることを期待しています。

クラウドネイティブなソフトウェアのためのツール開発がCoreOSのゴールだったと思いますが、すでにコンテナオーケストレーションのプラットフォームとしてはKubernetesで確定しているように思えます。これからはどのようなソフトウェアを作ろうとしているのですか?

Polvi:いま構想しているソフトウェアは様々なものがあって、一口では説明できるものではありませんね。とってもクレイジーなアイデアはいくつもあります(笑)。でもRed Hatと一緒になることで、良いシナジーが起こるのではと思います。Red Hatはオープンソースソフトウェアをビジネスとして成功させた企業ですので、彼らと一緒になることで様々なアイデアを実現できると思っています。

例えばサービスメッシュのようなものですか?

Badani:サービスメッシュが大きく注目を集めていることはわかっています。Istioも今後、OpenShiftのプラットフォームの中に取り込んで行く予定になっています。

サーバーレスはどうでしょう?

Badani:サーバーレスに関しては、すでにプレスリリースしたように、OpenWhiskをOpenShiftでサポートする予定です。デモでも見せたように、機械学習のプロセスをサーバーレスのアプリケーションとして実装することも可能です。TensorFlowに関しても、Googleと協力していきたいと思っています。

OpenShiftにおけるサーバーレス

OpenShiftにおけるサーバーレス

参考:Red Hat Summit: Functions as a Service with OpenWhisk and OpenShift

Polvi:サーバーレスについては、ワークロードのひとつの形としてそれが存在しているという認識です。例えば、SalesforceのHerokuやGoogleのApp Engineのように、PaaSとしてある程度のスケーラビリティを実現するためのプラットフォームの延長として、サーバーレスを考えたほうがわかりやすいと思います。ただ、それらのサービスはベンダーにロックインされてしまう可能性が高いわけですよね。その点サーバーレスもKubernetesの上で構築するのであれば、スケーラビリティとオープンという部分が確保できます。

ただしエンタープライズはクラウドネイティブなアプリケーションだけではなく、SAPやOracleなどのアプリケーションも存在しているのです。ですから、全てが分散型のクラウドネイティブなアプリケーションに移行するわけではなく、当分はそういうアプリケーションも動かさなければいけないわけです。そういう意味では、サーバーレスも一部のアプリケーションは移行するでしょうか、全てではないということではないでしょうか。

CNCFのCTOのChris AniszczykはTicketmasterのユースケースとして、古いPDP-11のアプリケーションをコンテナで動かす時にエミュレータを開発して、それをコンテナ化して動かしているという話を紹介してくれました。それを思い起こさせる話ですね。

CNCFのCTOの記事:Japan Container Days、CNCFのCTOが語るクラウドネイティブへの道

Polvi:そのTicketmasterのPDP-11のシステムのコンテナ化に関わったエンジニアが、実はCoreOSに在籍しているので、彼からもその話は聞いています(笑)。コンテナの中のプロセスにTelnetでアクセスすると、昔のUNIXのターミナルが出てくると言ってました。とってもクレイジーですが、それが現実です。

インタビューは以上だが、別途開催されたプレスカンファレンスではよりCoreOSとの統合や他に発表されたリリースについてより詳しい解説が行われた。

プレスカンファレンスの解説

コンテナと仮想マシンの両方を管理できるプラットフォーム

コンテナと仮想マシンの両方を管理できるプラットフォーム

この写真でMatt Hicks氏が解説しているのは、OpenShift(Kubernetes)におけるKubeVirtのサポートだ。コンテナと同じインターフェイスで、仮想マシンも操作できる。

OpenShift.ioでオンプレミスの実装が間もなく可能になるという

OpenShift.ioでオンプレミスの実装が間もなく可能になるという

WebベースのIDEであるOpenShift.ioも、サービスと言う形ではなくオンプレミスにインストールできるバージョンが用意される予定だ。

またこれまでJBoss BPM Suiteと呼ばれていたミドルウェアも、OpenShiftのサービスとしてリブランディングされることが発表された。

Red Hat Process Automation Manager 7について

Red Hat Process Automation Manager 7について

CoreOSとRed Hat製品の統合について

CoreOSとRed Hat製品の統合について

TectonicやQuayだけではなく、Prometheusやetcdも明記されているところに、CoreOSのエンジニアに対するリスペクトを感じる。

細かい話だが、マイクロサービスに関する質問への回答の一部として、WebブラウザーベースのIDEであるOpenShift.ioについて、「開発当初は既存のコードを流用したモノリシックなアプリケーションであったが、Red Hatのグローバルに拡がる開発チームでの開発に移行した時に、複数の開発チームのコードに干渉しないように開発を進めるためには、マイクロサービス化してサービスを切り分けて開発を並行化する以外に方法論がなかった」というコメントは非常に興味深いものであった。

つまりスケーラビリティやベロシティなどの特性をアプリケーションに求める以前に、マイクロサービスでなければ開発できない状況があるというのは、巨大なシステム開発プロジェクトに携わるシステムインテグレーターなどにとってもヒントになるのではないだろうか。オープンソースソフトウェアの開発者としてのRed Hatの一面が垣間見えた瞬間であった。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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