「映像作品を制作する」ということ
自作品「睡蓮の人」について
筆者の作品の多くは短編で、言葉(せりふ)を発しません。それにほとんど動きません。
「マッチ工場の少女(アキ・カウリスマキ監督)」のカティ・オウティネン演じるなにが起きても動じない無表情の奥行き(せりふに頼らず、映像と音楽で表現することを映画の本質と考えている監督の映画が大好きです)のような演出や表情が出せたらいいなと思いながらやっています。
大学3年の1年間で5本の短い習作を制作しました。最初のころはかなりチェコの影響がありましたが、自分のこと、生まれ育った環境、一卵性双生児だということ、両親のこと、出会った人たちのことを作品に表したいと考え始めました。
大学卒業制作作品「睡蓮の人」では、一人暮らしの初老の男を主人公に考えました。男は淡々と日々を生き、ときどき死んだ妻のことを思い出す、という話です。人形は「後ろ姿の哀愁」や「整った顔ではないけれど、印象深く愛嬌(あいきょう)のある顔」といったことをテーマに制作しました。
モデルとして参考にしたのは、青森出身の板画家、棟方志功さんでした。以前から氏の作品に引かれていたのです(NHKのドキュメント番組で氏の人柄を見たときの印象は凄(すさ)まじいものでした)。話の舞台になりそうな家を地元を散策し探しました。
飛び込みで「家を取材させてほしい」と何軒か回り、そのうちの1軒から了解を得て、部屋の構造やタンスや小物などカメラで撮影しました。それをもとにセットを作りました。自分の町を取材し、それをもとに作品にしていくという行為は現在も「家族デッキ」というシリーズ作品で実行しています。
失っていく風景や町を取材し、それをもとにミニチュアセットで再現し、そこに物語という空気を流していく。それは筆者なりの町や景色の再構築であり、これが今の筆者にできることだと思っています。
1年かけて制作すること
大学修士2年になると大学修了のために1年かけて修了作品を制作しなければなりません。これは学部のときの卒業作品も同様でした。卒業制作のときは「1年かけて作品を制作する」ということがどういうことなのかそのときの筆者には検討もつきませんでしたが、少なくとも1年を費やした作品足りうるものでなければならないんだ、ということは覚悟していました。
2年前の「睡蓮の人」という作品制作を通して、次に自分がなにを制作したら良いのかという課題がありました。そのために自分のアトリエを初めて借りました。8畳ほどの倉庫で家賃は5万ほどでした。一緒に仕事をしてくれる人が必要でしたので、知人に頼んだりして何人か集めました。すべて美大の学生でした。彼らにバイト代を払うだけの収入がないので、すべてボランティアでした。ときどきしか来ない人もいれば週に何度も来る子もいました。日々立体アニメーションのセット制作をしていました。
それが後に「路」シリーズとなり、Mr.ChildrenのPVを制作させてもらうきっかけになり、目黒区美術館にて個展を開催するきっかけになった「朱(あか)の路」という作品でした。これについては第2回で詳しく紹介します。
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