「ずっと同じ会社で正社員」から飛び出した、サラリーマンのパラレルワーク観

2018年11月22日(木)
株式会社Waris

はじめに

「ひとたびレールから外れると、もうキャリア街道には戻れない」。

日本人の働き方は、たびたびこんなふうに表現されてきました。あながち間違いでもないこの旧態依然が、それでも少しずつ変わりつつある潮目のいま。レールは自分で敷いていけば良いし、向かう先の舵をとるのも自分。そして“レールは1本とは限らないのかもしれない”と気づき始めている人たちがいます。

現代の働く世代は、60才を迎える頃がキャリアの終点と疑わなかった世代に比べて、仕事観も人生観も当然ながら大きく異なります。

そこで、いままさに複数のレールを持ちながら、自身のキャリアを見つめ直し、実現したい目的に向かってパラレルに滑走する2人の男性ビジネスマンに話を聞いてみました。

やりたいこと、果たしたい目的があってこそのパラレルワーク

1人目は並木 渉さん。仕事のうちの4割を占めるのが、もともと正社員としてフルタイムで勤務していたベンチャー企業の仕事。今は業務委託という形で継続しています。それ以外は、自身が起業した事業が3割。スタートアップインキュベーションコンサルティングサポートが2割、スタートアップ支援が1割。大よそこのような比率で働いています。

― 今の働き方を選んだのはなぜですか?

「選んだ」という意識はなく、やりたいことをやろうとした結果こうなったという感覚です。業務委託で続けているベンチャー企業の事業にも、自身が起業した事業にも通じていることですが、私自身が「働くに余白を」というテーマを持っており、(心にも体にも)余白のある社会を実現することをライフワークにしています。そんな社会を目指した時に、どのようなサービスが必要か?必要なこと全部に携わるにはどうすればよいか?と突き詰めていくと、ひとつの会社では不可能で複数の事業体にならざるを得ませんでした。その複数のやりたいこと全部をやるために不必要な出社や移動を削っていった結果、今のスタイルに落ち着いたという感じです。

― パラレルワークの良いところは何だと思いますか?

先ほどの話に通じますが、やりたいことが全てできるところですね。パラレルワークの視点を持っていれば、「本当はこれをやりたいのにできない」というような悩みは生まれません。自分の頑張りや差配次第で何にでもトライできます。

― では、良くないところは? 頭の中がごちゃ混ぜになりませんか?

デメリットではありませんが、ずっと仕事をしてしまうのはよくないなと感じます。私は固定の場所を決めず、クライアントのオフィスや客先、カフェ、コワーキングスペースなどあらゆる場所を仕事場にしています。時間も場所も選ばないがゆえに、ずっと仕事をしていようと思えばできてしまう。いまはそれでも特に問題ないですが、いずれ疲れがくるのではと思っています(笑)。でも、その時の気分で仕事場を変えることが、実は頭の切り替えにもなっています。

― その働き方を、ほかの人にもオススメしたいですか?

いえいえ、万人にオススメできません。特にいまの仕事になんとなくモヤモヤしているから……などのマイナス要因からパラレルワークやリモートワークを選択するのはやめたほうがよいと思います。パラレルワーク、リモートワーク、フリーランスのような働き方は、会社員としてふつうに出社して働くよりもずっと結果を求められる場合がほとんどですし、その評価も自分へダイレクトに跳ね返ってきます。マイナス要因からのスタートでは、そうしたリスクを受け入れるのは難しいのではないでしょうか。一方で、「いまの生活が多少立ち行かなくなっても、何としてもやりたいことがある!」という人や、果たしたい目的を明確に持っている人には、とてもオススメです。

― パラレルワークをする意味は、どこにあると思いますか?

実際にやってみて感じるのは、パラレルワークは「手段」であり、目的やそれ自体に意味のあることではないということ。ですから、パラレルワークすること自体に意味を求めて実行するというのは、私にはあまりピンときません。かつてに比べればいまはもう、自分のやりたいことや目的に合わせて都合のよい働き方を選びやすい時代になってきています。自分のやりたいことを実現するため、あるいは目的を達成するために試行錯誤した結果がパラレルワークだった、という状況がいちばん自然ではないかと考えています。

― 今後どのようになっていきたいか、ぜひ教えてください。

まずは、自身で立ち上げた事業を軌道にのせ、スケールさせていくことが最大の課題です。同時に、正社員時代から継続しているベンチャー企業の事業も、より多くの人の役に立てるように成長させていくこと。この2つのミッションを両立していきたいです。

パラレルワークが自分と組織との関係を見直す機会に

2人目は長谷川晃司さん。前出の並木さんが業務委託で仕事を請け負っているベンチャー企業で、クロス正社員(独自の時短勤務制度を利用)としてフルタイムより1時間/日短縮で勤務。また、週に1度、半日のペースでフリーランスとして別の企業でも働いています。

― 今の働き方を選んだのはなぜですか?

私が働き方を変えたのは、40代半ばになってから。社会に出て20年以上いわゆる「ごく普通のサラリーマン」で、比較的大きな会社に勤め、辞める前は管理職としてメンバーのマネジメントをしていました。若い頃は特に考えなかったことですが、40代半ばを迎える頃に「この先10年、20年も同じスタイルで働き続けるのか」と考えたとき、どこか行き詰まりを感じるようになりました。

そこでなぜ転職ではなく、パラレルワークだったのかといえば、1つの会社の中でポジションを上げていくことや、自身のキャリアや年収アップだけを目的に仕事を変えることに違和感を持っていたから。また、子供や家族のことを中心とした「仕事以外のこと」にも、もう少し時間を使いたいと考えていました。職場を変える転職という形ではなく、パラレルワークのような新しい働き方を選択するきっかけになったと思います。

とはいえ、最初から「正社員+フリーランス」という形を目指したわけではなく、実際はなりゆきだったというのが正直なところです(笑)。ただ、なりゆきとは言いつつも、この形で働くことを「新しい働き方にチャレンジできる良い機会」とポジティブに捉え、主体的にパラレルワークをスタートしたという実感はあります。

― パラレルワークの良いところは何だと思いますか?

会社員として勤めているベンチャー企業ではマーケティングを、週1日出社するもうひとつの企業では主にWeb関連の新規事業立ち上げ支援を担っています。両社は手がける事業も異なれば、私自身の立場も異なります。複数の立場を持ったことで、知識・経験・人脈が広がったことはもちろん、物事をより俯瞰的に見られるようになった気がしています。

また、現状はさほど意識していませんが、収入面でも複数の会社の仕事を請け負うことが一定のリスクヘッジとなり、精神的な安定にもつながっているのではないかと思います。

― では、良くないところはありますか?

2つの仕事と家庭を含めたプライベート、それぞれの境目がどんどん曖昧になってきている気がしますね(笑)。2つの仕事を持っている分、業務が立て込んでくれば夜間や休日でも仕事をしなければならない状況になります。そうなってくると、何にフォーカスして、どう優先順位をつけてタスクを捌くべきか判断が難しくなることもあります。ただ、最近は「1つの会社で複数のプロジェクトを兼務している」と捉えれば、以前の働き方とそこまで大きく違わないな、という実感も出てきました。徐々にパラレルワークの車幅感覚が掴めてきたのかもしれません。

― 実際にやってみて、パラレルワークする意味は見えてきましたか?

私自身は「なりゆきでパラレルワークになった」感が強いので、そこまで意味を考えていなかったのですが、実際にこの働き方をしてみると、自分と組織との関係を改めて見直す良い機会だと感じますね。自分というもの、組織というものを、改めて外から客観的に見ることができたとでも言いましょうか。これまで以上に自分の市場価値を意識するようになったのと同時に、会社の仲間の存在や物理的なオフィスの価値も含めて、組織で働くことの魅力も改めて再認識できました。やっぱり会社員っていいなー!と思ったことも多いです(笑)。

― その働き方を、ほかの人にもオススメしたいですか?

実際にやってみると「向き・不向き」があるように思います。ですから、万人にオススメはしませんが、もしも興味があるのなら深く考えず、小さなスケールからでも一度やってみれば良いと思います。最初から報酬を得るとプレッシャーがかかりそうであれば、まずはプロボノやボランティアのような形から始めてみるのもありですし、知人の会社の手伝いレベルでもパラレルワークの雰囲気を十分掴めるのではないでしょうか。ただし、パラレルワークはあくまでも1つの手段であって、それ自体を目的やゴールにしてしまうのはちょっと違うのかな、と思います。

― 今後どのようになっていきたいか、ぜひ教えてください。

パラレルワークを経験して、どちらかというと自分は組織にコミットして働くほうが好きなんだということを自覚できたので、「完全フリーランスでパラレルワーク」という方向よりは、正社員あるいはコミット度の高い業務委託を中心とした方向で働くのが良いかなと感じています。また、2つの仕事以外に、母校の活動、スポーツ関連の活動など、ボランティアベースで携わっていることもいくつかあるので、そういった部分にもう少しリソースを使っていきたいとも考えています。

「いま」への問いかけからパラレルワークは始まる

「パラレルワークそのものに、意味があることではない―」。リアルにパラレルワークを実践している2人が共通して感じているのが、この点でした。やりたいことが実現できる手段を、あるいは自分が納得する働き方を、それぞれ探求して叶えたいという「プラスの出発点」があるからこそ、複数のレールを走る意味も価値も後からしっかり付いてくるのでしょう。

「人生100年」とも言われる時代です。だからこそ、「いま」自分のやりたいことは何? 大切にしたいものは何? と問いかけてみる瞬間を見失いたくないものです。その答えを出した時に、これまでの道を進み続けているかもしれないし、もしかするとレールが2本、3本と増えているのかもしれません。

===今回お話を聞いた2人===
並木 渉さん
製薬会社の経営企画部門に在籍中、働き方や家族との関係を見直したことをきっかけに新しい働き方を模索。その後、「自然の中ではたらく」をテーマに活動する団体KantoorKaravaan(カンターキャラバン)と出会い、2017年にKantoorKaravaan Japanを立ち上げる。

長谷川晃司さん
大手IT企業で管理職をしつつも働き方へのギモンを感じ始めたことで退職を決意し、パラレルワークという働き方を選択。前職在籍中に、厚労省が推進する「イクボスアワード2015」で部下の仕事と育児の両立を支援する管理職として表彰された経歴も。

多様な生き方・働き方を創出する人材サービス企業。広報・マーケティング・人事等のプロスキルを持つ女性と企業とのマッチングサービスを展開するほか、一度離職したキャリア女性の復職支援サービス等も展開。http://waris.co.jp

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