NutanixのCTO、真のマルチクラウドを訴求「VMwareはいつも間違えている」
ハイパーコンバージドインフラストラクチャーのリーダーであるNutanixのCTOが、ThinkITのインタビューに応じた。これはNutanixの年次イベント、Nutanix.NEXTで行われたもので、CTOのRajiv Mirani氏に加えてソリューションアーキテクトのSteven Poitras氏も同席し、Nutanixの裏側、マルチクラウドの将来などについて語った。ちなみにSteven Poitras氏とは、2018年のNutanix.NEXTでもインタビューを行っている。
参考:NutanixのアーキテクトがNutanixの未来を語る
StevenさんはNutanix BibleというサイトでNutanixの内部のアーキテクチャーなどについて詳細な技術解説を行っています。それはどうやって始まったのですか?
Nutanix Bible(日本語版):http://nutanixbible.jp/
Poitras:私がこれを書き始めたのは2012年頃からですが、その時には2つの目標がありました。一つは社内向けとして、新たに入社した従業員に対してNutanixのことをよく知ってもらうための解説という側面です。その頃は会社が大きく成長しており、毎月新しい人が入っていたのですが、そういう人に毎回、スライドなどを使ってNutanixの仕組みを解説することに時間がかかっていたのです。そこで文書としてまとめておくことで、それを読めば理解できるというようにしたかったというわけです。
もう一つは外部向け、つまりNutanixを知らない人に理解してもらうためですね。2012年当時は、まだNutanixも「ハイパーコンバージドインフラストラクチャー」も知られていませんでした。なので外部の人に「Nutanixって何?」と訊かれた時に、この文書を読めば理解してもらえるようにしたかったということです。
Nutanixを知らない人から「どうやって動いているのか?」と訊かれた時に中身を教えずに信用してくれというのは無理がありますよね。それと2012年からNutanixの製品はどんどん進化しているので、それをちゃんと記録に残すということ自体が、私にとってエキサイティングな作業なのです。
Mirani:私としてはStevenがこれをやってくれていることに感謝しています。これに特別に彼に報酬を与えているわけではないので(笑)
あなたは悪いボスですね(笑)ところでNutanixの製品のフィロソフィーがあれば教えて下さい。
Mirani:それは今回のキーノートでも説明したことに関連していますが、データ、デザイン、デリバリーの3つを意識しているということになります。そしてもう一つ、ユーザーが欲しいものを提供するということですね。ユーザーが欲しがるものを提供するという部分について、コンピューターベンダーは往々にして「それをどのように実現するか?」に意識が行ってしまうことがあります。ユーザーが欲しいのは仮想マシンやネットワークなのに、VLANがどうのVXLANがどうの、これはiSCSIでつながっているなどという細かいディテールは必要ないのです。ユーザーが本当に必要なものをシンプルに提供すること、それがデザインという部分の柱になります。
もう一つ追加するならば、オープンソースソフトウェアを活用することを徹底しているということですね。今やほとんどの先端的なソフトウェアは、オープンソースソフトウェアから出てきています。それを使ってシステムにまとめるというやり方です。Nutanixは急成長しているとはいえ、まだVMwareなどの大きな企業と比べれば小さい組織です。彼らがプロプライエタリーなソフトウェアで機能を実装することは、企業の規模から言えば正しいのかもしれませんが、Nutanixはオープンソースソフトウェアを使うことで対抗していこうと思っています。
Poitras:Nutanixはオープンソースソフトウェアのフリーライダーと呼ばれることもありますが、もっぱらコミュニティへの貢献を行っている専任のエンジニアがいるということも知っておいて欲しいと思います。実際、Nutanixが社内で発見したバグがUpstreamにマージされたことも多数ありますから。
現在、ソフトウェア業界で最も話題になっているのはKubernetesです。NutanixにおけるKubernetes関連のソフトウェアはKarbonですが、その概要を教えて下さい。
Mirani:Kubernetesは今デベロッパーの中では最も期待されているソフトウェアであると言えます。多くのデベロッパーがKubernetesをベースにしたソフトウェアを書いています。一方、運用チームにの視点から見ると、Kubernetesも新しい管理の対象であることには変わりはありません。つまり、デベロッパーも運用チームもKubernetesを使いたいと思っているのです。その時に重要なのはベンダーがカスタマイズした特別なKubernetesを提供するのではなく、UpstreamのヴァニラなKubernetesを提供するべきだというのがNutanixの姿勢です。
デベロッパーも運用チームも同じコマンドライン、同じツールを使えるべきなのです。そしてコンテナベースのアプリケーションであったとしても、アプリケーションにはストレージもネットワークも必要になります。またシステムの一部分は仮想マシンで動いているかもしれません。そういうレガシーな部分とクラウドネイティブな部分をつなぎ合わせるものが必要なのです。そしてKubernetes自体はどこかのベンダーがフォークした亜流のものではなく、素のKubernetesであるべきです。それを実現したのがKarbonです。
実際Nutanixは過去にACS(Acropolis Container Services)というものを開発していました。その当時、コンテナオーケストレーションシステムはKubernetesの他にDocker SwarmやMesosなどが乱立しており、誰が勝つのか分からない状態だったのです。そこでNutanixも自身の実装であるコンテナベースのプラットフォームを開発していました。しかし、今や、Kubernetesが勝者であることは間違いありません。なのでACSを止めて、素のKubernetesであるKarbonに変えたのです。
今の話から最近、VMwareが発表したProject Pacificを思い浮かべました。Project PacificはLinuxではなくVMwareの仮想化基盤であるESXiの上でKubernetesのPodが稼働するというものですが、無理矢理、既存のVMwareユーザーの資産とこれから増えていくクラウドネイティブなワークロードを合体させたような感覚ですね。
Mirani:VMwareは今、過去の資産とこれからの資産をどうやってつなげていくのか? ということに頭を痛めていると思いますね。実際にクラウドネイティブな部分をリードしているのは、買収したHeptioなどだと思いますが、それ以外にもPivotalが提供するPKS(Pivotal Container Services)もあります。それらをどうやって統合していくのか、現場は混乱していると思いますよ。
Kubernetesが今のコンピューティングの主流になりつつありますが、すでにマイクロサービスやサービスメッシュという新たなコンセプトが話題になっています。それについてのNutanixの回答は?
Mirani:マイクロサービスについては、社内でも開発プロジェクトが進んでいます。Istioを使おうとして検討したこともありますが、あまり我々のニーズには合わなかったので、今はMicro Service Backboneと呼ばれるソフトウェアを開発しています。いつかそれらについても発表できるようになると思いますが、今日のところは「開発が進んでいる」とだけお話したいと思います。
マイクロサービスやサービスメッシュが実装されると運用サイドで必要となってくるのは、より詳細にサービスの中を観測できるObservability(観測可能性)が必要になります。それに関しては?
Mirani:Observabilityに対しては、Nutanixが買収したNetsilのソリューションが丁度当てはまりますね。これは2018年3月に買収を発表したものですが、ちなみにNetsilは聞くという単語であるListenを逆から読んだものです。製品としてはXi-Epochとして発表しています。
コンテナがモダンなアプリケーションのプラットフォームであることは間違いありませんが、仮想マシンとは根本的に異なっているということを理解しなければいけません。つまり仮想マシンであればある程度、永続的に稼働しているのでモニタリングは可能ですが、コンテナのように生存時間が短いワークロードで構成される場合に、どうやってモニタリングをするべきか? という課題は解決されていないと思います。それを可能にするのがXi-Epochです。
最後に5年後のNutanixはどうなっているのが理想ですか?
Mirani:ハイパーコンバージドクラウドが実現していること、ですね。理想的にはNutanixのクラウドからパブリッククラウドにマウスで簡単にアプリケーションを移動できるような、完全に同じインターフェースでクラウドを使えるようになることです。これは簡単なように見えて実はすごく難しいことです。なぜならパブリッククラウドは、それぞれ同じような技術をユーザーに提供していても細かなところはすべて異なるからです。かつてはオンプレミスがベンダーロックインの典型と言われていた時もありましたが、今やパブリッククラウドベンダーがクラウドの中のサイロにユーザーを閉じ込めているというのが実態です。例えば、AWSが発表したOutpostは、オンプレミスにAWSを持ってくるという技術ですが、それでも基本はAWSの各サービスを使うことになります。それでは単にクラウド側にあるサイロがオンプレミスに拡張されただけです。
それはGCPのAnthosでも同じですね。「クラウドとオンプレミスで同じ」と言いながらも、あくまでもクラウドが主体という。
Mirani:その時に注意しなければいけないのは、「マルチクラウド」とベンダーが言う場合、実際にはレガシーなアプリケーションはレガシーのままオンプレミスで稼働し、新しいアプリケーションだけがクラウドで稼働する、というやり方を指していることです。これではサイロが2つになるだけです。
Nutanixが目指しているのは、本当の意味のマルチクラウド、ハイブリッドクラウドなのです。その中にはエッジにおける実装も含まれます。つまりオンプレミス~パブリッククラウド~エッジまで包括的に利用できるのが理想ですね。
Steven、あなたの夢は?
Poitras:夢というか私が思う理想の姿は、プレゼンテーションでもありましたが、SDDC(Software Defined Data Center)が本当の意味で自動化されたデータセンター(Self-Driving Data Center)になるためには同じインターフェースでオンプレミスのクラウドもパブリッククラウドも使えるようになることですね。例えば、オンプレミスのクラスターがリソース不足になることが分かったら、AWSにそのアプリケーションをワンクリックで移して実行させる。そういう操作が可能になることです。これはもうマルチクラウドと呼ぶよりも、NutanixのPrismがすべてのコンピュータリソースを管理して、それで完結するという形ですね。AWSとの統合を実現したXi Clusterはその第一歩と言っていいと思います。
デモの中で印象的だったのがAWSの上で動くクラスターと仮想マシンをハイバネートしたり、レジュームしたりする機能でした。Nutanixのソリューションはいつもとてもシンプルですよね。
Mirani:そうです。あの機能はVMwareも実装していると思いますが、とても間違ったやり方で実装していると思いますね。間違った実装をしてしまうというのは、VMwareにはありがちなことですが、もっと簡単にできるべきなのです。そしてNutanixは、それを実装したまでです。
かつては友人のような関係だったVMwareとNutanixだが、今や競合として激しく戦っているということを感じる一幕となった。すべてをNutanix式に抽象化するというのがNutanix式のマルチクラウドだが、Kubernetesに代表されるクラウドネイティブな世界をどうやって取り込んでいくのか、注目したい。
最後にNutanixに特化したバックアップソリューションのHYCUを紹介しよう。
HYCUは文字通り、俳句から命名されており、かつてはComtrade softwareという企業名で活動していたものが2018年にリブランディングとしてHYCUという新社名になったということらしい。NutanixのバックアップソリューションとしてはVeeamやVeritasなどと比較すれば無名だが、Nutanixのデータセンターのバックアップソリューションとして使われているということが何度も訴求され、Nutanixとの親和性の高さを訴えていた。
シンプルさと低コストが売りで、どれくらいシンプルかと言うとバーチャルアプライアンスとして仮想マシンをクラスターに導入するだけでバックアップが可能であり、導入には3分しかかからないというのがキャッチコピーである。
Nutanixのバックアップソリューションを検討しているエンジニアは要チェックだろう。
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