「それ本当にITでなんとかなりますか?」― 行政がTechと出会ったらこうなった
2020年1月25日(土)、富士通関西システムラボラトリにて「【行政×TECH】~それITでなんとかしますなります~ よんななアーティスト会×日本マイクロソフト×富士通」が開催されました。
本イベントの主催者よんななアーティスト会は、47都道府県の地方公務員と中央省庁で働く官僚の交流を目的としたよんなな会の分科会で、全国からクリエイティブ・アートに関心のある公務員が集まっています。
よんなな会は公務員による公務員のための会ですが、その中でもアーティスト会は特に民間企業とのコラボを積極的にやっていこうという趣旨があるとのこと。本イベントも富士通株式会社、日本マイクロソフト株式会社がパートナーとして、トーキングセッションでは現在のIT現場最前線の話や、すでに行政で取り入れられている事例紹介、さらにワークセッションでは参加者のアイデアをITで実現するためのアイデアソンの取り仕切り、そしてアドバイスをするメンターとして参加されていました。
また、公民交えて自由に意見交換ができる場になってほしいと、参加者も公務員だけでなく、民間枠も設け、当日はバライティに富んだ参加メンバーとなりました。
クリエイティビティがないと自分で企画が作れない!?
開催に先立ち、よんななアーティスト会代表で岐阜県庁の職員ながら「公務員アーティスト」という異名を持つ川那賀一さんよりイベント開催への思いが語られました。
川那さんは現代社会の課題として「クリエイティブな人がクリエイティビティを発揮できる社会にまだなっていない」と言います。
例えば、子どもは白い紙に自由に絵を描くが、大人は「何を描くのですか?」と聞いてしまう。これを行政に例えると、「環境問題に対して何か企画を作ってください」となった時に「何をやれば良いのですか」「何を求めているのですか」と外に答えを求めてしまい、自分から何かを出すということが出来ないのではと指摘。
もっとクリエイティビティを発揮している大人を増やすために、まずステレオタイプという印象がある公務員がやることで、民間の人にも「公務員ができるなら自分たちもできるのでは」と思ってもらえればという考えのもと、日々活動をされているそうです。
今日のワークショップは解決の場ではなく、あくまでその第一歩と語る川那さん。最後に、「この場に面白い人が集まっているのが今日の一番の価値で、繋がってもらうことが一番のお土産になるのではと思っている。ぜひ繋がってほしい」と挨拶を締めくくりました。
イノベーションを意図的に起こす導線を
川那さんの挨拶に続き、トーキングセッションへ。1人目は、会場の富士通株式会社より、辻 祥史さんが「クリエイティブを発揮できる場づくり」について話されました。
2018年3月にオープンしたFUJITSU Knowledge Integration BasePLY OSAKA(通称PLY OSAKA)はデジタルテクノロジーを活用する共創ビジネス、いわゆるオープンイノベーションの発掘施設という位置付けで富士通が運営しているコワーキングスペースです。
その大きな目的はビジネスマッチングで、そのための主な活動が2つあります。
1つはコミュニティづくり。PLY OSAKAのイベントは誰でも参加可能にすることで学生から同業他社、異業種他社と企業や立場の垣根を超えて仲間を作ることを可能にしています。
もう1つは仲間ができた後にビジネスが起こるまでの導線を作ること。そのためのステップとして、アイデアソンを開催しています。
PLY OSAKAがHUBとなってコミュニティづくりとアイデアソン開催のサイクルを回しながら、意図的にオープンイノベーションを生み出せるように活動しており、コミュニティが大きくなるとともにビジネスマッチングが増えてきている、こういう活動がどんどん加速していくのでは、と語られました。
AIは道具でExcelみたいなもの
続いて、日本マイクロソフト株式会社の横井羽衣子さんが「現在抱えている社会問題をITでどのように解決するのか」について説明されました。
「AIは道具」と言い切る横井さん。「AIは道具でExcelみたいなもの。Excelみたいな感覚で使いこなせないといけないものだと思う」とのこと。
道具としてのAIを使うにあたり、特に「倫理原則を大事にしたい」と強調する横井さん。AIはインターネットのデータをもとに学習しますが、そのデータを作成したのは人間で、つまり人間の世界の歪み(例えば差別や偏見など)が反映されてしまいます。AI自体にはもちろん悪意はなく、あくまでデータを元に判断したにすぎません。
「技術的にできることと、やっていいことは別」で、使う側は果たしてそれができるからといって、それを使って良いのか、その方針で良いのかという倫理観の原則を人間自身で決めないといけない、という考えが横井さんはじめマイクロソフト社にはあるとのこと。
その倫理原則を大前提として、「AIができること」を利用した様々な商品が開発されています。
GovTechはスタートアップ
続いて、横浜市役所職員の石塚清香さんからは、実際に公務員がテクノロジーを使っていくことに関してのお話を聞くことができました。
横浜市経済局でICT専任職の傍ら、総務省地域情報化アドバイザーなど、活動範囲が多岐にわたる石塚さん。ITに関わるきっかけとなったのは2011年の東日本大震災。裏側で技術者たちが大量のデータを集めて可視化するという活動をやっていたことを知り、「民間の力を生かして行政の活動をしていくことはすごく大切ではないか」と痛感したそうです。
GovTechはGovernment(行政) × Technology(テクノロジー、技術)を掛け合わせた造語で、テクノロジーを行政の活動に取り入れることでユーザーや市民の満足度をアップする狙いがあります。その大きな特徴は、スタートアップ企業のように全く新しい切り口によるサービスの模索から始めること。
「テクノロジーの発展により、参入障壁はどんどん下がってきている」と言う石塚さんですが、一方で行政がテクノロジーを完全に理解することには限界があると指摘。ITの専門家に任せるという判断も必要になってきます。サービスは作ったら完成ではなく、そこが始まりで運営しながらどんどん改善していくもの。そういう部分では民間のパワーを活用することも効果的と言います。
最後に「市民対応の専門家である行政とITの専門家が、それぞれ役割をきちんと認識して協力し合うことでGovTechはよく進んでいくと思う。今日のワークショップでもそういうところを意識してやってもらえたら」と締めくくりました。
感性がない状態でテクノロジーを入れても機能するのか
トーキングセッションの最後は神戸市役所の森 浩三さん。テクノロジーを入れる際の現場の職員の考え方について、業務改善を担当した3年間の経験を元に語られました。
業務改革、そしてそのためのテクノロジーを入れる際の一番の敵は「現状維持」と「イマジネーションの欠如」だと森さんは指摘します。
公務員は雇用制度上、毎日同じことをしていても給料が貰えると思ってしまうことがあり、意識を変えることにモチベーションが上がりません。テクノロジーの導入にも「慣れることは難しい」という思い込みがあり、今のやり方を変えたくないと考えてしまうようです。
また、イマジネーションの欠如では、「例えば役所窓口の手続きで何度も同じ内容の書類を書かされたら? 自分が書かされる立場ならどう思うか?」というイメージを持てるのか。これは公務員としてのセンスの問題であり、「そういった感性がない状態でテクノロジーを入れても果たして機能するだろうか」と参加者に問いかけました。
神戸市は2017年より働き方改革を推進していますが、神戸市では業務を変えることが目的ではなく、職員の行動の変革が目的であるといいます。
具体的に何をしたかと言うと、まずは現場の皆さんに「本当の課題は何ですか?」と、明らかになるまで問い続けること。表層的な部分だけを見てテクノロジーを入れても根本的な解決にはならないからです。また、完成だけを考えずに実運用を考えること、そして運用を始めたらトライアンドエラー。小さなところからでも少しずつやることで感覚がつかめれば、みんな自信を持ってテクノロジーを使えるようになるだろうと語られました。
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