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  インタビュー

「エンジニアのキャリアパスで新しい選択肢となるモデルを作る」 Gunosyが構築したエンジニアのための新しい評価制度とは

2020年6月9日(火)
工藤 淳

「情報を世界中の人に最適に届ける」を企業理念に、「グノシー」や「ニュースパス」、「LUCRA(ルクラ)」など各種情報キュレーションサービス/アプリを提供する株式会社Gunosy。同社では、2019年7月からエンジニアを対象とした新しいキャリアパスと評価制度をスタートさせた。CTOの小出 幸典氏とリードエンジニアの鈴木 雄登氏に、新制度のねらいや、施行からの手応えについて伺った。

目標は「キャリアアップ」と「強い組織づくり」

新しい制度を起ち上げたねらいを、小出氏は「エンジニア本人が、自分でどうキャリアアップしていくかを考える際に、従来の “マネージャー” 以外にも選択できるモデルを用意したいと考えたのです」と語る。

株式会社Gunosy 執行役員 最高技術責任者(CTO)兼 Gunosy Tech Lab所長 小出 幸典 氏

これまで日本の企業では、社内のキャリアパスは単線で、たとえエンジニアであっても、キャリアに応じて主任や課長といった「マネージャー」に上がっていくのが一般的だった。このため優秀なエンジニアであっても、管理職になると「現場の技術は部下にまかせて」となりがちだったのも事実だ。

だが市場もテクノロジーも急速に変化する現在、エンジニアが現役で活躍しながら、自社の業務にもリーダーシップを発揮できるポジションが求められてきている。また従来型の管理職に収まることなく、将来にわたってエンジニアとして技術力で活躍したいという社員を、組織戦略に取り込む工夫も必要だ。その意味でGunosyが打ち出した今回の新制度は、まさに時代の要請に応えたチャレンジと言える。

新制度を立ち上げる直接のきっかけとなったのは、プロダクトやサービスの急速な増加だったと小出氏は振り返る。同氏がCTOに就任した2019年の夏、Gunosyではエンジニア組織の大幅な変革が行われた。それを契機に小出氏は、エンジニアのキャリアアップについて、執行役員VPoEの加藤 慶一氏と議論をスタートさせた。その成果が、今回の新しいキャリアパスと評価制度だという。

その具体的な施策の中でも、とりわけ注目したいのが「リードエンジニア」という新しい職制を設けたことだ。同社では、各プロダクトや事業ごとに独立したプロジェクトチームがあり、エンジニアも担当するチームに所属している。リードエンジニアは、文字通りチームのエンジニアを束ねるリーダー的存在だ。

この新しい役職について小出氏は、「各プロダクトや事業ユニットにおける『ミニCTO』のような存在」と説明する。今回の制度改革では、エンジニアに新しいキャリアパスを示すだけでなく、ビジネスのスピードに負けない、よりアジャイルな組織を作ろうというもくろみもあった。

「この先、新たなプロダクトを開発していく際に、即座にスケールできる組織を作ろうと考えたのです。具体的には責任者から現場スタッフまでが1つにまとまって、新しいプロジェクトが必要となれば、すぐに動き出せるチーム構成を目指しました」。

チームのトップには事業責任者である「プロダクトオーナー(PO)」がいて、その下に新しく設けられたリードエンジニアやエンジニアリングマネージャーと呼ばれる人たちが就く。この中で技術面の責任を担うリードエンジニアは、チームの「ミニCTO」というわけだ。

中長期的な戦略視点に立った
エンジニアチームの育成が可能に

新しい評価制度という側面から、リードエンジニアについて、もう少し詳しく見てみよう。これまで、エンジニアの評価は所属チームのマネージャーが主体となって行ってきた。また評価の対象項目には、主に事業の成果と行動の2つがあった。

「これが現在では、マネージャーが評価を行う際に、リードエンジニアが技術的な面から相談を受けたり助言したりするようになり、より技術的な面に踏み込んだ精度の高い評価ができるようになっています。またリードエンジニアに対しては、事業部長とCTOの2人で目標設定と成果に対する評価を行っています」(小出氏)。

この目標設定の際、リードエンジニアにはCTOから「チーム内にある技術的負債をどうやって返却していくか」「メンバーの技術力を向上させるために、どのような取り組みを行うのか」といった具体的なテーマが出される。それに基づいて設定された目標を達成するために、リードエンジニアはチームのエンジニアを指導・育成していく。

こうした仕組みが確立された結果、従来の事業成果主体の評価ではできなかった、より戦略的なエンジニアチームの育成が可能になったと小出氏は言う。

「これまでは、どうしても事業の成長や収益に貢献できたかという側面から評価しがちでした。もちろんそれも重要なことですが、より強いエンジニアのチームを育てるためには、そうした短期的な成果だけでなく、チームやプロダクトがこの先も競争力を発揮していくために何が必要かという見方が不可欠です。そうした中長期的な戦略視点からの要求を、リードエンジニアというまとめ役を通じてチームに伝えていけるのは、新しい評価制度がもたらしたメリットの1つです」。

こうした仕組みのユニークさは、リードエンジニア自身も高く評価している。今回の制度改革でリードエンジニアに抜擢された鈴木氏は、「設定目標には、大きく分けて成果目標と行動目標という2つがあります。後者では目標に対してどういう動きをしたか。たとえば主体的に行動できたかとか、本質的なチャレンジをしたかといった点も評価されます。単に技術力の高さや最終成果だけでなく、意欲や前向きな姿勢といったところまで見られるので、長い目で見たエンジニアのモチベーション維持につながります」。

株式会社Gunosy マーケティングソリューション事業本部 広告技術部 NetworkAds Lead Engineer 鈴木 雄登 氏

リードエンジニアを介して
組織に横断的なつながりが生まれた

新しいエンジニアの評価制度がスタートしてから、どのような手応えや気づきがあったのだろうか。小出氏は、各リードエンジニアがさまざまなアイディアやテーマを自主的に設定し、「今度はこういうことをやります」とボトムアップでCTOやマネージャーに提案し、主体的に実行してくれているのが嬉しいと語る。

「みんな私の予想をはるかに超えた積極性を見せてくれて、この制度を作って良かったと感じています。もちろんまだ動き始めたばかりなので、とにかくアクションを起こすという点にウェイトがかかっていますが、それを加速してゆく上でも彼らの自主性は大きな役割を果たしています」。

一方、鈴木氏は、リードエンジニアというポジションによって、より大きな視点で業務を捉えていけるようになったと変化を語る。以前は自分が担当しているプロダクトだけで業務が完結するため、それ以外のところにまで考えを巡らす機会も少なかった。

「それがリードエンジニアというポジションに就いたことで、たとえばプロダクトのインフラのコスト管理や他のチームの技術的なサポートなど、いろいろな側面から業務を横断的に見ていく機会が増えてきました」。

自分のチーム内部のことがらがコストも含めて深く理解できるようになり、他のチームのリードエンジニアと課題を共有する機会も生まれてきた。あいにく現在は新型コロナウイルスの問題で自粛中だが、リードエンジニア同士の飲み会で情報交換や議論を交わす場も増えたという。小出氏も「リーダー同士で横のつながりが生まれてきたのは、CTOとしてもとても良い傾向だと喜んでいます」と歓迎する。

一方で、経営陣からも将来に対する期待が寄せられているという。

「まだまだこれからですが、チームの中に生まれてきた変化に対する一定の期待感や、これなら大丈夫そうだといった安心は感じてもらえていると思っています。CTOとしてはそうした経営陣の期待に応えるためにも、より実体や実効ある仕組みとしてチューンナップしていくことが重要だと考えています」(小出氏)。

ビジネスと組織の成長に備えて
次のリードエンジニア育成に注力

順調な滑り出しを見せた新しい評価制度だが、小出氏は今後の課題として「チームの技術力がどう変化し向上したのかを、具体的かつ定量的に把握していかなくてはならない」と展望を語る。リードエンジニアによってメンバーの実力や弱点、志向や要望などを具体的に把握し、それらをどのような視点や基準で評価してゆくのか。また一口に「チームとしての技術力の向上を目指す」というが、具体的にどのような評価方法をとるべきかといった仕組みの整備などを進めていきたいという。

「とにかくいろいろ試してみて、その成果をフィードバックしながら制度をチューニングしていかなくてはなりません。それを進める上でも、リードエンジニアのみんなに力を貸して欲しいというのが、現在の私の思いです」(小出氏)。

一方で鈴木氏は、「今後組織が大きくなっていけば、リードエンジニアも増やさなくてはなりません。その時に備えて、今からチームのメンバーを将来のリーダー候補としてしっかり育成していきたいと考えています」と抱負を語る。すでに現在も「技術1 on 1」と称して各エンジニアから意見をヒアリングし、もっと勉強したいという声があれば勉強会を設定するといったフォローアップの取り組みを精力的に進めているという。

「現在もリードエンジニアは各プロダクトの技術的支柱になっていますが、将来的にはもう1つ上位のレイヤからプロダクト全体を見渡せるポジションも検討していきたい」と意欲を見せる小出氏。Gunosyのエンジニア育成&評価戦略の今後に注目していきたい。

フリーランス・ライター兼エディター。IT専門出版社を経て独立後は、主にソフトウェア関連のITビジネス記事を手がける。もともとバリバリの文系出身だったが、ビジネス記事のインタビュー取材を重ねるうち、気がついたらIT専門のような顔をして鋭意お仕事中。

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