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GoogleがIstioを新組織に寄贈。トレードマークだけの管理に意味は?

2020年7月16日(木)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
Googleがオープンソースソフトウェアのトレードマークを管理する組織Open Usage Commonsを創設し、Istioなどを寄贈した。

Googleは2020年7月8日にオープンソースソフトウェアにおけるトレードマーク(商標)の管理を行うための新しい組織、Open Usage Commons(OUC)をSADA Systems、ミシガン大学などとともに創設した。この組織にはサービスメッシュのIstio、WebフレームワークのAngular、OpenStackも利用するコードレビューツールのGerritがプロジェクトとして参加することが発表された。

Googleがアナウンスしたブログの最初の文章

Googleがアナウンスしたブログの最初の文章

アナウンスは以下から参照できる。

Announcing a new kind of open source organization

このアナウンスに対してIBM、Cloud Native Computing Foundation(CNCF)がそれぞれコメントを発表した。IBMはオフィシャルなブログ記事として、CNCFはCTOを務めるChris Aniszczyk氏のTwitterアカウントからTweetとして発信された。

また元AWSのオープンソースソフトウェアのリーダーで、現在はAppleに移ったArun Gupta氏も「また新しい組織? ところでGoogleの他にこれに賛同する業界のメンバーはいないの?」というTweetをしている。

IBMからのコメントは非常にシンプルで、2017年にGoogleとIBMがそれぞれのソフトウェアを持ち寄ってIstioを作った時に「ソフトウェアが成熟した時にCNCFに寄贈する」という約束を交わしたことを強調し、オープンなガバナンスを実現するためにも新しい組織を創設するのではなく、IstioをCNCFに寄贈することを再考して欲しいというものだ。

IBMのブログ記事の文章(マーカーは筆者による)

IBMのブログ記事の文章(マーカーは筆者による)

IBMのブログ記事:Why IBM doesn't agree with Google's Open Usage Commons

またCNCFのAniszczyk氏は、「どうして新しい組織を作る必要があるのか? オープンなガバナンスはトレードマークだけの話ではない」とした一連のTweetで意見を表明している。

CNCFのCTOであるAniszczyk氏によるコメント

CNCFのCTOであるAniszczyk氏によるコメント

Aniszczyk氏が最初のTweetで「独自のopencore-esque(オープンコアっぽい)foundation」と揶揄している背景には、コアのソフトウェアはオープンだが付加価値の部分がクローズドソースで有償というビジネスモデルを取る形態を「オープンコアモデル」と総称する状況がある。また、自社がコントロールすることが目的のFoundation創設を、かつてMicrosoftがGitHubに対抗するためにCodePlexという組織を作って失敗したことを例に挙げた。

MicrosoftのCodePlexの失敗を例に挙げるAniszczyk氏

MicrosoftのCodePlexの失敗を例に挙げるAniszczyk氏

このTweetでは「オープンソースをホストする組織は多く存在し、ASF(Apache Software Foundation)やLF/CNCFは中立的な組織としてIstioなどのプロジェクトをホストできる」としている。そして特にこのパンデミックの状況下においては、資金的に苦しんでいる組織に対してGoogleがソフトウェアを寄贈することによって資金的に助けることができるとして、単にトレードマークだけのために新組織を作ることが他の組織に対してもポジティブな効果を及ばさないことに言及している。この辺りについては、新型コロナウィルスの影響でカンファレンスなどの実行が不可能になったことで変化を強いられる組織が持つ実情を表しているところにも注目したい。

またThe Linux Foundationは、直接Open Usage Commonsを名指しすることは避けたものの、トレードマークに関してGoogleが提起した問題について、Linux Foundationがすでに解決策を持っていることを示して「新しい組織を作ることが最適の回答ではない」と明言している。

Linux Foundationのステートメント:Open Source Communities and Trademarks: A Reprise

この状況の背景には、Googleの社内においてKubernetesのガバナンスに対する不満があると考えるのが妥当だ。IBMのコメントが正しいとすれば、2017年の当初にはKubernetesと同様にニュートラルな組織にプロジェクトをホストさせて、ガバナンスをひとつのベンダーに任せることを避けるという発想だったようだ。しかしKubernetesが人気を集め、開発が加速するに従ってGoogle社内では「Google Cloud Platformに特化した方向に開発をコントロールできない」ことに不満を持つグループによって「Kubernetesの失敗を繰り返さない」ことが重要だという意見が出てきたと見ていいだろう。

Googleの「Istioをベンダーニュートラルな組織の配下で開発を進める」という考えは二転三転しているようだ。2019年2月にはCNCFのような組織に寄贈しないとコメントしたが、その2ヶ月後の4月には、将来的にはニュートラルな組織に寄贈するとコメントしている。Googleの社内という水面下では、Foundation寄贈派とガバナンス保持派がせめぎ合っているのではないだろうか。

そしてその落とし所が「Open Usage Commons」を創設するということだったのではないか。開発やプロダクトの方向性に関するガバナンスは手放さないが、トレードマークは中立的な組織に委託することによって、寄贈するべきという派閥とGoogleのビジネスを最優先してIstioのガバナンスを保持するべきという派閥の双方を納得させようとしたように見える。今後、Google社内だけではなく、業界の賛同を得られるかどうか? これが注目点となるだろう。特にIBMを納得させるのは難しいように思えるが、これについてはGoogleの政治力次第かもしれない。

またIstioに隠れてあまり目立たないが、KubernetesをベースにしたサーバーレスのオープンソースソフトウェアであるKnativeも、Open Usage Commonsの配下になるかどうかが次のポイントだろう。オープンソースプロジェクトに貢献をしながらも、ビジネスとの両立にもがき苦しむGoogleの次のステップに注目したい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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