オープンソースカンファレンスKyotoがオンラインで開催
オープンソースカンファレンス2020 Online/Kyotoが8月28、29日にオンラインで開催された。
オープンソースカンファレンスは、全国各地で現地のスタッフを中心に開催されている。今年はコロナ禍により、それぞれオンラインでの開催となったが、やはり各地のスタッフが中心となっている。今回のオープンソースカンファレンスKyotoも、京都のスタッフによって開催された。
ここではその中からいくつかのセッションをピックアップしてレポートする。
IchigoJamで小学生に「ヤバさ」と
「手軽さ」を体験してもらう
「【招待講演】BASICからオールマシン語まで、オープンデータとIchigoJamで創るプログラミング教育」は、Jig.jp創業者にして、1500円の教育用コンピューターIchigoJamの開発者でもあり、さらにはオープンデータ関連の活動もしている福野泰介氏の講演で、多くの聴衆を集めた。
テーマは「プログラミング教育」だ。これについて福野氏は「プログラミング好きですか?」という言葉から話を始めた。
日本では、2020年度からプログラミング教育が必修化された。特定の言語を事細かく教えるのではなく、「プログラミング的思考」を身につけるのが目的だと言われている。プログラミング的思考の正確な定義はないが、福野氏は文部科学省による図を示して「これはエンジニアのいうプログラミングそのものだなと思った」と感想を述べた。
プログラミング教育は独立した科目ではなく、時間数に指定はない。そこで鯖江市のプログラミング教育は、小学校4年生の総合2コマと、4~6年生のクラブ活動ということになった。「算数にプログラミング的思考を混ぜるという案もあり、鯖江市でも試したが混乱のもとだった」と福野氏は付け加えた。
伝えたいことは、「ヤバさ(すごさ)」と「手軽さ」の2点だという。道具としてはIchigoJamを使い、鯖江市内の12の小学校において総合2コマでスタートした。
ここから、福野氏は実際のカリキュラムを紹介した。
まずは、コンピューターの本体(CPU)はIchigoJamの真ん中に付いていて、値段は100円だ。このIchigoJamにディスプレイやキーボードを付けて電源をつなぐと画面に文字が表示され、カーソルが点滅する。
IchigoJamに声で話しかけても返事はない。かわりに「A」のキーを打ってみると、画面に「A」と表示される。さらにエンターを打つと「Syntax error」とエラーが表示され、失敗しても壊れないことを学ぶ。代わりに「LED1」と打ってエンターを打つと、IchigoJamのLEDが点灯し、コンピューターとの対話が成立した。
小学生たちが「ヤバさ」に触れるのはここからだ。「LED1:LED0」と2つの命令を続けて実行すると、LEDが点灯してすぐ消えるはずだが、やってみると速すぎて点灯したことがわからない。ここでIchigoJamのCPUは1秒間に5000万回計算できることを教え、ちなみにiPhone 11だと1兆回計算できることを教える。
続いて2コマめは、IchigoJamゲームづくりライブコーディングだ。Web上の「IchigoJam web」を使い、昔の8ビットPCで遊んだテキスト画面のシューティングゲームのように、スクロールする画面で障害物を避けるゲーム「かわくだりゲーム」を作る。
まず猫のキャラクターを表示し、次に障害物をスクロールさせるコードを書く。そして、当たり判定や、画面の外に出ないような判定などを付け加えていく。
この過程について福野氏は「自分で体験するということを一番に置いている」と説明する。座学より体験が重要で、「聞いたことが正しい、と教育されると、嘘にだまされるようになる」と氏は語る。
この授業を受けた小学生に「もっとやりたい?」と訊くと「やりたい」と返事が返り、アンケートでは満足度93%とのことだった。福野氏は「一番やってはいけないことは『嫌いにさせること』」と語った。
そのほかの試みとして、IchigoJamではじめてのプログラミングを学ぶ動画をYouTubeで公開。またもっと手軽にIchigoJamを使えるものとして、周辺機器を一体化してアラン・ケイのDynabook風にした「IchigoDyhook(いちごだいふく)」も開発した。さらに夏休みにはハンダ付けを学んでIchigoJamを組み立てる講座も開いている。
さらなる発展としては、高専生向けに向けて、プログラムを高速化させて実際に1秒間に5000万回計算していることを体験させるというのもある。BASICだと遅いのでCortex-M0のマシン語にし、画面を消して高速化し、1命令の実行サイクル数を考慮に入れると5000万回計算していることを確かめるというものだ。
そのほか、C言語 for IchigoJam「c4ij」(PCでコンパイルしてIchigoJamに送り込む)や、Rust言語の「rust4ij」、mrubyによるRuby on Jamなども紹介した。
こうした授業や教材について福野氏は「好きでやれば得意になる。それがいろいろ重なると成果になり、イノベーションにつながる」として、「教育の肝は、好きになるきっかけづくりではないかと思う」と論じた。
このように授業で知ったプログラミングへの興味をさらに深めるためには、地域のクラブで取り組もうと福野氏は語る。鯖江市では「Hana道場」というコミュニティがあり、子供も大人も集まってプログラミングの活動をしている。
さらに福野氏は、PCN(プログラミングクラブネットワーク)という活動で、子供たちにプログラミングを教えるサークル活動をしていることも紹介した。この活動はルワンダやミャンマーといった海外にも広がり、「PCNこどもプロコン」というコンテストでは、いい作品を作った子供にPCをプレゼントしているという。福野氏によれば、すでに「初期のころにPCNに参加していた子供が、うちの会社に入社した」例もあるそうだ。
質疑応答では時間いっぱいまで質問が相次ぎ、プログラミング教育と福野氏の取り組みへの聴衆の興味の強さがうかがわれた。
OSSライセンスは著作権にもとづく許諾である
「OSSライセンスを正しく理解するための 著作権入門の基礎」では、そもそもOSSライセンスや著作権とはどのようなものかについての基礎を、姉崎章博氏が解説した。
まずOSSライセンスは著作者が受領者に著作権行使を許諾しているものであることについて。「ほとんどの自由ソフトウェアのライセンスは、著作権法にもとづいている」と姉崎氏は説明。著作権は売る権利というわけではなく、他人がなにかすることを認めたり止めたりすることができる許諾権であると説明した。つまりOSSは、ライセンスで再頒布を許諾して公開しているものとなる。
続いて、著作権はプログラムの創作性のある表現しか著作物として保護しないことについて。ここでは特許のような進歩性・独創性はいらないため、たいていのプログラムは創作性が認められること、「1行でも流用したらGPLにしなければならない」という誤解について1行で独創性のあるコードは至難のわざであること、「表現したもの」が保護されるのであってアイディアは著作権では保護されないことなどが説明された。
次は「誰が著作権を持っているか」について。OSSに関連するケースとしては、動かないOSSを動くようにしたプログラマーは著作権を主張できるかという例を挙げ、バグの修正では個性的な相違は稀であるとし、コントリビュータはリスペクトされるが著作者とは言いがたいと説明した。
その次はライセンスの設定や変更についてだ。既存のOSSについては、著作者が著作権を持っているため、それを使った二次著作物の開発者がライセンスを勝手に変更することはできない。その根拠として姉崎氏は、著作権法の翻訳権・翻案権や二次的著作物といった概念を説明した。
最後に改めて著作権制度の趣旨について。「文化の発展に寄与することを目的とする」という著作権法第1条を示し、公正な利用として著作権が制限されるケースを紹介。一方OSSライセンスはソフトウェアを自由に利用できるようにするものだとして、ほとんどのOSSライセンス条件が著作権制度の趣旨に合致していると語った。
Linux Foundationが日本語での認定資格を開始
「日本語のKubernetesやLinuxトレーニング/認定試験の概要を紹介!~ 国内Kubernetes認定資格者の声とともにお伝え ~」では、Linux Foundation Japan/MKTインターナショナルの赤井誠氏が、Linux Foundationによる日本語でのトレーニングや認定資格を紹介した。
Linux Foundationの活動にはさまざまなプロジェクトのホスト以外に、トレーニングと資格の認定がある。形態としては、クラスルーム形式のトレーニングや、eラーニング、クラスルーム形式のオンライントレーニング、認定テストなどがある。
最初に赤井氏は、日本語でのトレーニングと認定資格が今年2月に開始したことを紹介した。まず「Hyperledger Fabric基礎」と「Kubernetes基礎」が始まっている。特にKubernetesの認定資格は日本語化前から需要が高かったという。
日本における認定パートナーとしては、クリエーションライン株式会社、CTCテクノロジー株式会社、株式会社日立アカデミー、日本ヒューレット・パッカード株式会社、Darumatic(海外企業)がついている。
また、英語でのLinux FoundationによるLinuxの認定資格として、システム管理者のLFCS(The Linux Foundation Certified System Administrator)も紹介された。こちらの資格はWebブラウザー上でテストを受ける必要がある。そのほかLinux Foundationの英語でのトレーニングには、システム管理やDevOps、カーネル開発、組み込み、アプリケーション開発、クラウドとコンテナ、ネットワーク、ブロックチェーン、セキュリティといった広範なメニューがあることも紹介された。
すでにKubernetes認定資格を得た人の声として、サイバーエージェントの青山真也氏や日本マイクロソフトの真壁徹氏、HPEの吉瀬淳一氏の感想も紹介された。どこまで学べば一定レベルと認められるか線引きを知るために受験したという経緯や、ハンズオン中心なので実務的に理解していないと合格できないこと、勉強にはとにかく手を動かすこと、サクサクやらないと時間が足りないこと、ブラウザー操作のクセが強いことなどの注意点が挙げられた。
データベースの多様性やクラウドに関する議論
パネルディスカッション「多様性時代のDB選択/激論!DBMS選択のニューノーマルは?」では、梶山隆輔氏(日本オラクルMySQL GBU)、栗田雅芳氏(東芝デジタルソリューションズ)、才所秀明氏(日立ソリューションズ)、高塚遥氏(SRA OSS, Inc. 日本支社)、溝口則行氏(オープンソースビジネス推進協議会)が登壇した。DBMSは少数のツールの寡占でいいか、DBの稼働環境もクラウドに向かうべきかなどについて議論した。
最初のテーマは「DBMSは少数の有力ツールの寡占でいいか? 多数化に向かうべきか?」である。
DBMSには用途によって向き不向きがあるが、伝統的なRDBMSに不向きな用途であってもそれに対応する機能やノウハウが生まれ、それによって寡占化に向かってしまうという意見や、逆に要件に応じて違う種類のDBMSが出てくるのではないかという意見、そしてHadoopなど異なるものが出てきて実際にはすでに多様化しているという意見などが出た。さらにそれらをまとめ、ゆるゆるとRDBMSに収斂しながら、また次のものが出てくるのでは、という声も出た。
次のテーマは「DBの稼働環境もクラウドが当たり前になっていくのか?」。
インフラとしてクラウドのニーズが大きいということや、MySQLは自前でもパブリッククラウドで動いていることが多いこと、AmazonのAuroraデータベースがよくできていること、明日からMongoDBの構築と運用ができる人を連れてくるというのは難しいこと、中規模のWeb系では台数を増やすときに調達で安くならないのでクラウドに、という流れがあることなどが語られた。
一方、その反対の要素としては、「とんでもない規模」を作ったところはオンプレミスに残らざるを得ないことや、「30年レベルの長期間の稼働が想定されるものをクラウドで動かすのは不安がある」という声、エッジ系ではオンプレミスになるという意見などが出た。
さらに、パブリッククラウドとプライベートクラウドを組み合わせたハイブリッドクラウドの可能性や、その一方で「クラウドサービスによっては特定のデータベースサービスと組み合わせて使いたいという理由があったりするが、マルチクラウドでは使いづらい」ということも指摘された。
SQL Server、PostgreSQL、
MySQLのGUI管理ツールなど比較
「データベース座談会」は、関西DB勉強会の出張版として開催された。織田信亮氏、山崎由章氏、寺内大輝氏の3人が登場し、座談会形式で語り合った。
最初のお題は「データベースの特徴」で、織田氏がSQL Server、山崎氏がMySQL、寺内氏がPostgreSQLを紹介し、互いに質問を交わした。
織田氏はSQL Serverについて、GUIツールのPerformance Dashboardを紹介。CPUやI/Oの状況や、時間のかかっているクエリ、現在の実行状況、実行計画などがグラフィカルに見られるところを紹介した。
続いて寺内氏もPostgreSQLのGUI管理ツールpgAdminを紹介。統計情報やクエリ履歴、再帰クエリのビジュアル表示などを見せた。ただしCPUやI/Oの状況を見るためには、拡張機能が必要だという。そのほかPostgreSQLにpg_statsinfoをインストールして、データベースのサイズや、WALの情報、CPU、メモリなどの情報が見られるところを説明した。
山崎氏もMySQLのGUI管理ツールMySQL Workbenchを紹介。MySQLのパラメータの確認や、データのエクスポートとインポートのウィザード、ログ、設定変更、性能系のレポート、実行計画の表示などを紹介した。また空間情報のデモとして、京都の地名をクエリして形も見えるところもデモした。
次のお題は「データベースをデフォルト設定で動かした場合の問題点」である。
PostgreSQLでは、デフォルトのメモリーサイズが小さいことや、CPUのコア数のデフォルトと実際のコア数が合っていないとうまく動かないことなどが挙げられた。
MySQLについては、最新版の8から新しい認証方式がデフォルトになったことによる罠や、バイナリログのオプションの複雑さなどが挙げられた。
それに対してSQL Serverについて織田氏は、インストールのときにある程度コア数などのマシン環境によって合わせて設定してくれることを紹介しつつ、バックアップやメンテナンスなどの必要性を訴えた。
関西から見た新しい働き方
「関西ゆかりな人のサイボウズでの働き方」は、サイボウズ株式会社で働いているさまざまなパターンで関西にゆかりのある人たちが、「働き方」について語りあった。
モデレーターの上岡真也氏からの最初のお題は、自己紹介を兼ねて「今の勤務地と働き方について教えてください」というものだ。
三苫亮氏は京都出身で大阪勤務、そしてパンデミック以前からリモートワーク中心で働いている。また長友比登美氏は、東京オフィスから大阪オフィスに移ってきた。小西達也氏は今年の新人で、大阪オフィスでのアルバイトから入社して東京に出てきたが、入社からずっとフルリモートになっているという。
次のお題も、最初のお題を受けて「なぜその拠点で働くことを選んだのですか?」というものだ。
三苫氏は前職も大阪で、サイボウズの大阪オフィスができたときに、リモートワークの割合を増やそうと転職したという。長友氏は九州出身で、首都圏は人が多く電車のラッシュが好きでなく、仕事ももともと多拠点で東京である必然性がなかったと語った。小西氏は、東京では勉強会などのイベントがよく開かれているので東京に来たが、今では勤務場所はどこでもいいのではないかと考え方が変わったと語った。
次のお題は「多拠点で働く上で苦労や困ったことはありますか?」。
三苫氏は、もともと人が多い東京に対してリモートの大阪(でさらにリモートワークしている)という立場について、会議のときに少数側は「ディスプレイの向こう側」になってしまう苦労を挙げた。そして少数側からも声を出さないといけないので、「『大阪の人間はずうずうしくてやかましい』というイメージをうまく使って解決している(笑)」と語った。
チームが多拠点である長友氏は、東京にいたときは隣にチームメンバーがいたのですぐに声をかけられたが、今は声をかけていいか状態かどうかわからなくて困っていると語った。そして三苫氏と同じように「申し訳ないという気持ちはおさえて、とりあえず行ってみるのがいちばん効いた」と語った。
小西氏は入社した当初からフルリモートで、新人ゆえにわからないときにどうしたらいいか不安があったという。そしてやはり、迷っていてもしかたがないので情報共有ツールを使ってまず訊いてしまうことで不安がなくなったという。
そして最後のお題は「パンデミック後の働き方について」だ。
以前からリモートワーク中心だったという三苫氏は、かつては大阪オフィスにときどき行って開発部門のメンバーといっしょにお昼を食べたりしていたので、「収束したらまたお昼ごはんを食べに行こうかと思っている」と語った。また「オンライン飲み会が人気だが、僕は家に家族がいるので、逆にオンラインだと飲み会は参加しにくい(笑)」とも語った。
長友氏はそれを受けて、家は生活する空間なのでオン/オフのスイッチの切り替えがやりにくい点と、思ったよりオフィスじゃなくていいという点もあり、「良くも悪くも固定概念が覆された」と語った。
入社以来リモートで働いている小西氏は、環境は揃っているのでリモートでもいいかなと思っているとしつつ、「ただ、オフィスで働いたことがないので、オフィスで働いて見たいという気持ちもある(笑)」と語った。
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