DevRelを実践する「4C」の考え方とは
Conductor(コンダクター)
コンダクターは「人」です。つまりDevRelに関わる主な職種になります。さまざまな職種がありますが、ここではその一部を紹介します。
エバンジェリスト/アドボケイト
エバンジェリストとアドボケイトは名前こそ違いますが、求められる役割としては大きく違いはありません。どちらも自社サービスを喧伝し、開発者を鼓舞して自社サービスを使ってもらうのが主なタスクです。
彼らは企業における対開発者の窓口になります。開発者はエバンジェリストやアドボケイトを頼って、サポートであったり、情報を求めます。一般企業で言うところのPR担当者と同じような役割が求められます。
仕事内容については今後詳しく紹介しますが、主なタスクは以下のとおりです。
- ブログ記事の執筆
- スライドの作成
- 登壇
- デモアプリの開発
- 開発者とのコミュニケーション
- Q&Aでの回答
コミュニティマネージャー
コミュニティマネージャーは開発者コミュニティを運営するのが主な仕事になります。企業主導でコミュニティを形成する場合もあれば、ユーザー主導でコミュニティを作る場合もあります。企業主導であればコミュニティマネージャーが中心となって、イベントを企画したり当日の運用を行うでしょう。ユーザー主導の場合は、コミュニティマネージャーは企業側のコミュニティ窓口として、コミュニティをサポートするのが主な役割です。
企業規模によってはコミュニティマネージャーが不在で、エバンジェリストやアドボケイトがその役割を担うこともよくあります。
カスタマーサクセス・サポートエンジニア
SaaSなどでサブスクリプションモデルを適用している企業にとって、サービスを継続的に使ってもらえるかは自社のビジネス成否に直結します。DevRelでもプリセールス(買ってもらう前の活動)は大事ですが、ポストセールス(買ってもらった後の活動)も大事です。企業規模が大きくなると、特にカスタマーサクセスの役割が大きくなります。
開発者を助けるという意味ではサポートエンジニアも重要です。利用してもらうまでは積極的に支援しても、実際に使い始めると放置されてしまったり、サービスの質が格段に落ちたという経験はないでしょうか。そういった経験があると、そのサービスを二度と使いたくなくなるはずです。新しい開発者に認知してもらうのも大事ですが、既存の開発者を大事にしなければサービスの成長は見込めないので、カスタマーサクセスやサポートエンジニアの活動はDevRelにおいても重要です。
テクニカルライター・翻訳
開発者向けにサービスを提供する中で、ドキュメントやチュートリアルなどの品質は大事です。こうしたライティングでは分かりやすい文章の書き方や、理解しやすい文章構成力が求められます。テクニカルライターはまさにこうしたスキルを持った人たちです。
海外発のサービスの場合、ドキュメントの日本語化がサービスの成否を分けます。日本では英語をそのまま受け入れてもらうのが難しく、翻訳されていなければ選定の土俵にすら上がれません。機械翻訳も品質が向上していますが、それでも最後の分かりやすさという点において、翻訳担当者の手が入っているかどうかは大きな違いを生むでしょう。
Communication(コミュニケーション)
最後にコミュニケーションです。コミュニティはもちろんのこと、開発者との対話が生まれるポイントをまとめてコミュニケーションと定義しています。
コミュニティ
開発者コミュニティはDevRelにとって大きな施策です。前述の企業主導、ユーザー主導のどちらであっても、良いコミュニティを形成できるかどうかはDevRelの成否を分けるでしょう。
コミュニティは定期的にイベントを行います。コロナ禍前はオフラインでしたが、現在多くのイベントがオンラインで行われています。それもあって、地方コミュニティはイベントを実施しなくなっているコミュニティが増えています。また、コミュニティの多くがSlackやDiscordを使って普段のコミュニケーションをしています。
ソーシャルメディア
日本のDevRelでは主にTwitterでのコミュニケーションになりますが、これは国によって大きく異なります。中国の場合はWeChat、インドの場合はWhatsAppやTelegramを利用しています。韓国ではFacebookグループもよく活用されています。
ソーシャルメディアでは情報の発信という側面もありますが、ソーシャル上で困っている開発者がいれば簡易的なサポートも行えます。生の声が聞けるので、開発へのフィードバックにも使われています。
Q&A
日本では「teratail」が最もよく使われているQ&Aサービスになるでしょう。世界的に見れば「Stack Overflow」がほぼ一人勝ちの状態で、日本語版のStack Overflowは今ひとつ伸びていません。
サービスを利用する中で問題が発生するのはよくあることで、それを質問できる場としてQ&Aは重要です。企業公式のサポートよりも問い合わせしやすいと感じている開発者は多いです。Q&Aサービスにナレッジがたまることでセルフサポートも可能になり、開発効率がより高められます。
イベント
日本では開発者向けのイベント(勉強会)がとても盛んです。毎日、数多くのイベントが実施されています。そうしたサービスは「connpass」や「Doorkeeper」で発見できますが、今回は特徴的なイベントを4つほど紹介します。
・ハッカソン
ハッカソンの主催や協賛は、DevRelにとって大きな機会です。実際にツールを開発者に使ってもらい、その使い勝手をフィードバックしてもらえます。プロトタイプレベルであったとしても利用例が増えせますし、作品を呼び水としてさらに利用してくれる機会につながることが期待できます。
ハッカソンは一般的なイベントと比べると若干長く(1〜2日程度)、徹夜で行われることも多いです。参加者および運営側双方の負担は大きいですが、それだけに結果発表は盛り上がります。
・ハンズオン
ハンズオンは参加者が実際に手を動かしながら、サービスやSDKの使い方を学べるイベントです。PCや開発環境が必要なので若干、参加の敷居は高くなります。しかし、参加することで実際に動作するWebアプリやスマホアプリ、IoTのデモなどができあがるので達成感が感じられるイベントでもあります。
サービス提供側としては利用アカウントを増やせる効果が見込めます。最近ではオンライン開催が増えたので、自宅やオフィスの設備で実施が可能になっており、より参加する敷居が低くなっています。
・もくもく会
もくもく会は日本で生まれた独特のイベント形式です。みんなで1箇所に集まって、黙々と作業することから命名されました。人の目があることで自分の作業に集中できますし、同じ言語やフレームワークを使っている仲間が近くにいることで、問題があればすぐに助けてもらえます。
コロナ禍においては1箇所に集まるのが難しくなったため、オンラインもくもく会という形で運営されています。Discordのボイスチャンネルなどを使って、雰囲気だけでも同じ場にいる状態にしながら集中して作業に打ち込むのが特徴です。
・カンファレンス
多くのIT企業が開発者向けのカンファレンスを開催しています。多くは年次のカンファレンスで、自社の技術力をアピールする目的で行われます。そして単に技術力をアピールするだけでなく、求人を目的として実施されるケースが多いようです。そうした技術的なアピールする場を通じて、社内の開発者に外部発信の重要性を学んでもらうこともできます。
2022年に入ってからだけでも、以下のような企業カンファレンスが実施されています。例年、カンファレンスは10〜11月に集中して実施されることが多いです。今年も秋くらいに数多く開催されることでしょう。
- 2/3「Microsoft Developer Day」
- 2/3〜4「Yahoo! JAPAN Tech Conference 2022」
- 2/8「RAKUS Tech Conference2022」
- 3/17「DeNA TechCon2022」
- 3/24「CyberAgent Developer Conference 2022」
- 4/28「HoloLab Conference 2022」
- 5/25〜26「AWS Summit Online 2022」
海外に目を向ければ「Google I/O 2022」や「WWDC 22」「Microsoft Build」などのカンファレンスも実施されています。
おわりに
今回は、DevRelで行う施策を考える際の基本となる4Cについて紹介しました。4Cは、Code(コード)、Content(コンテンツ)、Conductor(コンダクター)、そしてCommunication(コミュニケーション)の4単語の頭文字を集めたものです。覚えやすいので、ぜひDevRelの施策を考える際には、この4Cを念頭に入れて考えてみてください。